コラムスペシャル
- 豪フラッグ・キャリア、カンタス航空の行方 空飛ぶカンガルーは、 心のよりどころであり続けるのか [2008/9/29]
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| 空飛ぶ"オーストラリアの心"カンタス機 |
豪フラッグ・キャリア、カンタス航空の行方
空飛ぶカンガルーは、心のよりどころであり続けるのか
木村哲郎ティーグ(ジャーナリスト)
スピリット・オブ・オーストラリア――「オーストラリアの心」と訳されるであろうコピーが、カンタス航空の機体には記されている。「どんなに遠くまで世界を放浪しても、ぼくはオーストラリアを故郷だと謳う」との歌詞がある『アイ・スティル・コール・オーストラリア・ホーム』を使ったテレビCMは、旅する国民として知られるオーストラリア人の心に響いており、旅の終わりに搭乗した機内でこの曲を聞きながら涙を浮かべるオーストラリア人がいる。カンタス航空は国を代表するフラッグ・キャリアなだけでなく、オーストラリア人の心のよりどころだ。しかし、ここ最近、カンタス航空の周りが騒がしい。日本路線の大幅削減や大型リストラの発表に加え、航空事故も続いている。空飛ぶカンガルーはいったい、どこに向かっているのだろうか。
昨年、プライベート・エクイティー企業への身売りが失敗に終わったカンタスに襲ってきた現実が、原油高による燃料費の高騰だった。基本運賃の値上げに加え、燃料のヘッジ戦略や燃油特別付加運賃(サーチャージ)などで包括的な企業努力を行ってきたにもかかわらず、コストの上昇幅を埋める手段は見つからなかった。 このため同社は今年7月、新規採用による1,200人の増員計画を破棄。さらに全従業員の約4%に当たる1,500人を削減すると発表。直接的に運行業務と関わらない人員を削減することで競争力を維持し、3万6,000人の大部分の雇用を守るという。
事実、カンタスの見通しは明るくない。上期の好調に支えられた昨年度の決算は44.1%の増益であったが、余談の許さない現状下においては、今年度の利益は昨年度から47%の減益が予測されている。
減り続ける日本からの観光客
カンタス航空はかつて、日本国内の5都市に就航していた。オーストラリアへの旅行がもてはやされていた最盛期には年間82万人の日本人観光客が来豪していたが、その数は年々減り続けており、2016年には56万人程度にまで落ち込むとの予想がある。
社会の二極化が進んでいる日本では、経済的な先行きの不透明感から過去最高の7割以上の日本人が日常で不安を感じており、余暇の過ごし方が「貧困化」している。たとえ海外旅行へ行く場合にも、物価の高いオーストラリアよりも、旅行費用の安いアジアへと多くが流れている。
そもそもカンタスにとって、日本路線の顧客の大半は観光客。ビジネス客とは異なり、観光客の大半はツアー・チケットやディスカウント・チケットを利用する。当然、航空会社の儲けは少ない。日本人観光客を薄利多売で運ぶ経営戦略は、もはや、歴史上の出来事。現にカンタスのディクソンCEOは今年6月、日本路線について、「このままでは年間1億ドル以上の赤字を出すことになる」と厳しく批評。9月からはメルボルン−東京便が運休され、シドニー−東京便も減便。ケアンズ−東京便は年末までに、子会社で格安航空のジェットスターに譲渡される。日本路線は切られるべく切られたのだ。
脅かされる安全
カンタスの強みは安全性だ。ダスティン・ホフマンとトム・クルーズによる主演映画『レインマン』で、「飛行機に乗るのなら死亡事故を起こしていないカンタスにしか乗らない」と兄のレイモンド(ホフマン)が放ったセリフは、世界中で多くの者の記憶に残っているだろう。南半球のオーストラリアから北半球にある大都市までの長距離路線がカンタスの主力であるにもかかわらず、ジェット機による死亡事故は依然皆無だ。
だが7月24日、ロンドン発メルボルン行きのQF30便が香港でストップオーバーした後、上空8,800メートルで酸素ボンベの爆発により3メートル弱の穴を機体に開け、マニラ空港に緊急着陸した。さらに8月2日までの短期間に2度の緊急着陸を招き、一連の事故から死者こそ出していないものの、オーストラリア航空安全当局はカンタスの整備体制について二重、三重に見直すよう勧告している。
考えてみれば、映画『レインマン』は20年前の作品。10年ひと昔という言葉を引用すれば、もうふた昔も前の話になる。8月3日にはディクソンCEOが同社の安全性について「おそらく世界で最も安全な航空会社であることに変わりはない」とコメントをしているが、カンタスのパイロットからは経費削減の一環としてアウトソーシングされ始めた整備体制に疑問の声が上がっている。
次期CEOを格安航空のジェットスターから起用
マニラ空港での緊急着陸から数日経った7月28日、ディクソンCEOが自らの後継者に指名したのが、ジェットスター航空の現CEOのジョイス氏だ。カンタスのクリフォード会長は、11月から就任するジョイス次期CEOを「厳しい環境下でカンタスを躍進させるのに最適な人物」と形容しており、ジェットスターで培ったコスト削減などの手腕に期待をかけている。事故後であるにもかかわらず、厳しい現状に必要な経営戦略はコスト削減なのだ。
ただカンタス側は、噂されていた同社の格安航空会社への運営方針の転換は否定。現にジョイス次期CEOも今年初め、ジェットスターという格安航空のCEOでありながらも格安運賃至上主義を否定し、「利用者は世評も気にする」と発言している。
全世界の航空会社を比較する「エアライン・オブ・ザ・イヤー」によると、カンタス航空は今年度、世界第3位の評価を受けている。10月20日にはエアバスA380が北米路線に就航。11月24日からはアルゼンチンへの南米路線も再開させ、世界6大陸に路線を持つ同社の姿勢は、世界的な一流航空会社に相応しい。見た目のカンタスは、決して悪くはない。
ただ国内での評価は下降気味だ。6月23日付の経済紙「オーストラリアン・ファイナンシャル・レビュー」によると、2年前に首位であったカンタスの企業ブランド力が、14位まで後退。フライト遅延やサービスの低下が原因であるとのことで、フラッグ・キャリアとしての威厳が疑われてきている。相次ぐ航空事故はこの調査が発表された後に起きており、事故後にはメディアがカンタスに過敏になっていることで悪循環に陥っている。
次世代のオーストラリア人たちは、世界を遠くまで放浪した後に、カンタス航空を心のよりどころに感じるのだろうか。そして、「世界一安全な航空会社」としての名声をどのように回復していくのか。オーストラリア人が望んでいるカンタス航空は、力強く大地を蹴るカンガルーの姿だ。
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