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エコ・シリーズ


エコ・シリーズ 最終回 
環境ゲテモノ化
オイル・ピーク時代のエコライフ

 今月3日から、2012年に期限が切れる京都議定書後に向けた気候変動枠組条約締結国会議(COP13)がインドネシアのバリ島で開催される。京都には批准していない世界一の二酸化炭素排出国アメリカの参加や、豪州もラッド新首相の下、京都への批准を言明するなど、「ポスト京都議定書」をめぐる動きが活発化している。一方、2007年は世界各地で異常気象による自然災害が多発し、地球環境の悪化は一刻の猶予も許さない様相だ。この事態に見て見ぬふりを決め込むのか、今この瞬間から将来へ向け、1人ひとりが正しい方向へ世界を導いていけるのか。6回にわたって連載してきたエコ・シリーズを総括する。

 温暖化による海水温の上昇で2050年には死滅すると言われるQLD州グレート・バリア・リーフのサンゴ礁。美しい自然、生態系を守るために何ができるだろうか ? (Photo: Tourism Queensland)

温暖化による海水温の上昇で2050年には死滅すると言われるQLD州グレート・バリア・リーフのサンゴ礁。
美しい自然、生態系を守るために何ができるだろうか ? (Photo: Tourism Queensland)

■2005年:越してしまった
後戻りできない一線

 歴史には何年か、時には何十年か後になってから、「あぁ、あれが転換期だったんだな」という瞬間があります。人間というのは日々の所業に忙殺されがちで、その変化があまり急激なものでない場合、そういう瞬間を見逃しがちなものです。日々の雑事にかまけて、大変動の兆候も往々にして見逃してしまいがちです。
  今年1年、大変動を告げる警告はいくつも発せられました。希有な時代を示す兆候や報告、警告はその気になりさえすれば、あちこちに散見することができます。現在私たちは、未曾有な時代を生きています。これほどの時代を人類はかつて経験したことはなかったんじゃないでしょうか。そういう時代認識のもとに、それなりの行動を起こすのか、それとも「これまで通り」を決め込み、ほおかむりをしてやり過ごそうとするのか。今ほど、個人1人ひとりの叡智が求められ、行動が問われている時代はありません。
  11月に発表された気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第四次評価報告書は、未曾有の時代を告げる報告の1つです。今年、アル・ゴア元アメリカ副大統領とともにノーベル平和賞を受賞したIPCCの最新の報告書は、これまで以上に深刻な状況を伝えています。大気中の温暖化ガス濃度(二酸化炭素換算)は2005年半ばに455ppmに達してしまった、この報告はそう伝えています。
  オーストラリアの著名な科学者、ティム・フラナリーによれば、これは「ある種、越えられない一線と見られていたもので、しかもそこまで悪化するにはまだ、10年くらいはかかるだろうと思われていた」のですが、後戻りできないと思われていた一線を、人類は既に2年前にあっさりと越してしまったようです。
  報告書が「これからどんな緩和策を取り入れ、温暖化ガスの削減に取り組んでもその影響が出るまで,一定の気候変化が避けられない。したがって適応策も取り入れなければならない」と、かなり悲観的な警告を盛り込んでいるのも、なるほど、です。
「温暖化」というとぬくぬく、ほんわかとあったかくなるような印象があるので「ゲテモノ化(英語ではglobal weirdingとかclimate weirding)」という言葉を使うようにしているのですが、環境ゲテモノ化は既に現実なだけでなく、危険水域に到達している。危険水域に至るまで、もうしばらくはかかるだろう、とあてにしていた時間もない。切羽詰まっています。私たちの呼吸する時代はそういう時代であること、それをまず、しっかり肝に銘じていないと大変な思い違いをすることになります。
  もう1つの公式報告には、やはり11月末に発表された国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)の報告書があります。今月3日から14日まで、インドネシアのバリで2012年に失効する「京都議定書」に変わる国際的枠組みを話し合う会議に先立って発表されたものです。「京都議定書」や各国での取り組みにもかかわらず、2005年の温暖化ガス排出量はこれまでで最悪だったことが報告されています。
「京都」を拒否し続ける先進国の2つ、アメリカの温暖化ガス排出量は2005年末の時点で1990年レベルを16.3%上回っており、オーストラリアはと言えば1990年レベルを25.6%も上回っていたそうです。「京都」を批准し、対策義務を負う先進国が掲げている政策を実行に移すならば、全体で2012年までに(1990年当時の)10.8%の削減が見込まれるのは救いには違いありませんが、果たして、どこまで約束が実行できるのか、報告書も疑問のようです。
  そしてもう1つ、世界の通常原油生産は2005年5月に頂点に達したのではないかとの観測が強まりつつあります。有限な資源であるアブラは掘り出していく限り、やがてはなくなるものですが、その半分を使い切った時点がオイル・ピークと呼ばれています。ピークは環境ゲテモノ化の醜い双子です。
  もちろんピーク以降も、まだこれまで使ったのと同じだけの量のアブラが残っています。今すぐに枯渇するというわけではありません。しかし、150年ほど前に生産が始まって以来、ずっと右肩上がりで来た石油生産ですが、いったん頂点を極めてしまえば、それ以降、再び上向きになることはありません。どれだけ技術革新が進もうが、ハイテク技術が導入されようが、どうしようもない。既に世界の65産油国のうち、54がピークを越し、生産減耗に入っています。
  ピーク以降もまだまだ量はふんだんにあるのですが、手に入るアブラはこれまでの「チープ・オイル」ではありません。残されたアブラは深海や極地など、手に入れるのが難しい場所だったり、精製に膨大なエネルギーを必要とする種類のアブラになります。極地や深海などの油田はハリケーンや嵐など、環境ゲテモノ化の巻き起こす「異常気象」に対しても脆弱であることを忘れてはなりません。供給ラインはますます不安定になります。
  人間というのは、良質の自噴する油井があれば、そこから手をつけるもので、わざわざ、何千メートルの深海や極地などから手をつけたりしません。近年発見される油田が極地や深海であるのはそのためです。楽に手をつけられるところは既に手をつけてしまったということです。これは質についても同様で、人間は精製に手間やエネルギーのかからないアブラから使い始めるもので、「石炭のいとこ」のような種類のアブラは当然、後回しになります。やはり、ここ数年、アルバータのタールサンドやベネズエラのオリノコ原油が話題になるのも、簡単に使えるアブラを使い切ってしまったという証左です。
  現在、世界では毎日毎日8,400万バレル程度のアブラが消費されています。全エネルギーの43%、交通運輸燃料の95%がアブラに頼っています。チープ・オイルの存在が経済のグローバル化を支え、我々が享受する近代的で快適な生活を支えてきたのです。その一方、チープ・オイルの消費が環境ゲテモノ化に拍車をかけてきたのです。

 現時点で原油価格は1バレル100米ドルに迫る勢いで高騰しています。年の初めから比べると50%以上の値上がりになります。2002年には20米ドルだったので、わずか5、6年の間に5倍になったことになります。この勢いでいけば、これから5年、6年後には1バレル500米ドルもあり得ないことではありません。もちろん、米ドル自体が弱くなっていること、インフレなどを加味すると単純に「史上最高値」ということはできません。しかし、米ドルの減退そのものに「原油本位制」、そしてアブラに立脚する文明の衰退が含まれていることを読み取るべきでしょう。
  通常原油の世界生産はここ2年半、減耗する一方であり、液体燃料全部についても、ドイツのシンクタンク、エネルギー・ウォッチ・グループは、2006年にピークに達した、これからは減耗すると10月に報告しています。もちろん、これらを上回る可能性が丸っきりないとは言えません。しかし、「ピークを過ぎた」という声は石油業界のトップや産油国、そしてこれまで「ピーク」に言及することを避けてきた機関や政治家、メディアの中からも上がっていることは注目するべきです。

■不自然な食料事情:近代化の歪み

 環境ゲテモノ化/オイル・ピークの影響は衣食住、人間の必要のすべてを直撃しますが、一番心配なのは食料生産です。世界の穀物備蓄はここ数年の豊作にもかかわらず、既に2カ月分を切っています。拡大する消費に生産が追いついておらず、備蓄をどんどん切り崩しているのです。
  ゲテモノ化/オイル・ピーク時代には、これまでのような飽食習慣を続けていくことはできません。世界各地からチープ・オイルで運ばれてきた食材を好きなだけ食べ散らかす、そういう食習慣が持続不可能なものであることは言うまでもありません。
  ゲテモノ化が本格化するにつれ、世界各地で干ばつや洪水が頻繁化し、その規模も烈しさを増していきます。何カ月も干ばつが続いた後、雨が降ったと思えば土砂降り、というように年間降水量の辻褄は合っても、人間や植物に利用可能な水の量はこれからますます減少していくことが予想されます。そして、水がふんだんにあれば良いかと言うと、そうでもありません。過度の湿潤は害虫やカビの発生につながります。

 7月に2週間ほど、これが見納めとばかり、それまで住んでいたシドニー郊外からアデレードまで内陸部を旅行する機会がありました。レッドガムが川辺に影を落とす姿は、オーストラリアならではの独特の風景ですが、大陸そのものの未来を示唆するかのように、川も生態系も瀕死の様相でした。
  マレー川/ダーリング川流域はちょろちょろとした流れで、大河と言うにはほど遠い有様で、こんなにやせ細るまで水を搾り取っているのか、と悲しくなりました。
  レッドガムは樹齢が500年から1000年にも達し、ちょっとやそっとの干ばつにも耐えられるはずですが、それが息絶え絶え、死にかけていました。レッドガムの林の7割以上が、既に危機的な状況にあると言われています。未曾有の干ばつとやたらぼったくりな取水のおかげで洪水が跡絶えているので、種が発芽できない。だから新しい木が生えてこない。そして、成木すら枯れ始めていました。
  全国農産物の約4割は、この流域で生産されてきましたが、それも壊滅的な様相を呈してきました。例えば、これらの川から搾り取った水で稲作が行われ、日本へも盛んに輸出攻勢がかけられてきました。しかし、稲作農家への灌漑割当がなくなり、農業資源経済局(ABARE)によれば、来シーズン、米の生産は5万トンに落ち込むだろうと言われています(業界筋によれば1.5万トンに落ちるという報道もある)。オーストラリアのように乾燥した場所で、稲作はもともと無理だったのではないでしょうか。
  そうかと思えば、昨今の水不足のおかげで、VIC州では1週間に3,000頭以上の牛がと殺されているそうです。そのおかげで、高騰を続けてきた小麦価格は少し下がっています。これまで家畜の餌に回されていた分が市場に出回ってきたからです。
  農家の苦労には同情するものの、よくよく考えてみると、近代型農業、自然を収奪する農業、そして、そんな農業生産に頼ったこれまでの食生活の方がおかしいのではないか。私たちは分不相応に、生産できる以上のものを消費してきたのではないのか。そして、オーストラリアなどの脆弱な食料生産基盤を当てにして、経済連携協定やら自由貿易協定を推進し、これまで何百年も生産を続けてきた田んぼを潰して平気な日本の自由貿易論者のもくろみがいかに時代錯誤なもので、近視眼なものであるのか。そんな気がしてきます。

「近代的な農業」は肥料から農機具燃料、保存から輸送までチープ・オイルがなければ成り立ちません。パーマ・カルチャーの開祖、デビッド・ホルムグレンが「オーストラリアで口にするコップ1杯の牛乳の20%は石油である。ヨーロッパでは50%、イスラエルでは80%が石油だ」と言ったように、私たちの口にする食物には大量のアブラがしみ込んでいます。アブラ生産が減耗する時代には、当然、玉突き状態で食料品、食材の値上げに跳ね返ります。
  しかも、限られた農地や水をめぐり、バイオ燃料用の作物を生産するか、それとも食料生産にあてるのか、そういう競争が激化します。10月末、国連人権委員会、食料の権利担当特別報告者ジャン・ジーグラーが、口にできる作物をバイオ燃料生産に回すことは「人類に対する罪」だと断罪するほど、既に競争はし烈になっています。例えば、世界の食物輸出の3分の2を賄う米国では、来期収穫予定のトウモロコシの3割が既にバイオ燃料用に買い上げられています。

■食のローカル化:
アブラまみれの生活からの脱却

 私たちの暮らすゲテモノ化/ピーク以降の時代の対策として、最も有効なことは、自分の食生活に責任を持ち、食生活から積極的にアブラを抜いていくことです。これは「食のローカル化」であり、「食のグローバル化」の対極となる行動です。自ら口にするものは自らが育てる、「王様」と不当に祭り上げられた「消費者」の座を自ら進んで退位し、自分自身を「生産者」と位置づけし直すことから食のローカル化が始まります。
  まず、食のローカル化は自宅の裏庭から始まります。都会のアパート暮らし、ネコの額ほどの庭のない人もあきらめることはできません。生産はアパートのベランダ、屋上、どこでも始められるところから手を着けます。近所に空き地があるかもしれないし、共同菜園があるかもしれません。

 これがどれほどこれからの時代に重要なことであるのか、「エネルギー・ブレティン」誌の編集者、アダム・フェンダーソンは次のように試算しています。
  オーストラリアでは家庭あたり年間28.5万リットルが直接消費されているが、1万リットルの雨水タンクを設置すれば3割から4割は賄うことができる。貯めた水を使い、自宅で食料生産を始めれば、買わなければならない食料の量が減る。食料に含まれる水の量というのが半端ではなく、オーストラリアでは水消費の65%が農業用である。つまり、1家庭では食料を購入することで、毎年164.7万リットルを消費している。自宅で食料生産を始めれば、大量の水の節約につながる。
  裏庭で食の生産を始めることは、温暖化ガスの削減にもつながる。「我々はクルマに注ぐ以上のアブラを冷蔵庫に注いでいる」と言ったのは前副首相のジョン・アンダーソンだが、オーストラリアでは1人当たり、年間8バレルのアブラを食に費やし(クルマにはその半分)、3トンの温暖化ガスを生産している。自ら食の生産者になるということは温暖化ガスの発生を抑え、アブラ減耗時代の備えにもなる。
  また、これまで埋め立て地を汚染していた「生ゴミ」や庭から出る「ゴミ」は貴重な肥料になり、自宅で循環することができる。家庭から出る「ゴミ」の6割以上、年間1.5トンはそれぞれの家庭で肥料化できる。

 食の生産者になるって言っても、食材のすべてを裏庭で賄おうというのではありません。半分でもできりゃ上出来ですが、それにしてもものすごい量のアブラや水の節約になり、ゲテモノ化の抑制になります。そして、残りの半分も何千キロも離れた地球の果てからアブラまみれで届く食物ではなく、近場の生産者から手に入れるようにする。グローバル化した食生活に慣れた体には大変なことのようにも思えますが、なるべく自分に近い場所で食料を確保することを心がける、それが環境ゲテモノ化/オイル・ピーク時代を生き残る1つの戦略であることは間違いありません。

 2008年、ポジティブな時代に向け、第一歩を踏み出せる年になることを祈っています。皆様、よいお年をお迎えください。

 リック・タナカ(自称:生活のローカル化推進者)
プロフィル
リック・タナカ(自称:生活のローカル化推進者)

信州松本出身。1997年、シドニー郊外、標高千メートルの高原の町カトゥーンバに引っ越し、執筆・メディア活動と並行しながら、消費を抑え生産する楽農生活に突入する。2007年、大陸の東南に浮かぶ島にある人口300人の村に移住、オイル・ピークと環境ゲテモノ化時代に備える暮らし、近隣社会の構築に忙しい。著書に「おもしろ大陸」(光文社知恵の森文庫)、「楽農パラダイス」(東京書籍)、「人工社会:エコビレッジを訪ね歩いて」(幻冬舎)、共著「OKINAWA DREAMS OK」(Die Gestalten Verlag)、共訳「ピーク・オイル・パニック:迫る石油危機と代替エネルギーの可能性」(作品社)など。
ブログ:ざ・こもんず (http://www.the-commons.jp/rick/


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