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    日豪プレス 新年特別座談会
     - 在豪ジャーナリスト徹底討論 オーストラリアの進路を探る  [2007/12/24]

新年特集
新年特別座談会
在豪ジャーナリスト徹底討論 オーストラリアの進路を探る

座談会出席者(敬称略/写真左から)
時事通信社シドニー支局長 犬飼優
共同通信社シドニー支局長 五井憲子
読売新聞シドニー支局長 新居益
日豪プレス副編集長(司会) 原田糾

 2007年11月の連邦選挙で11年ぶりの政権交代が実現し、ケビン・ラッド労働党党首率いる新政権が発足した。資源ブームを背景にした息の長い好景気を謳歌するオーストラリアは2008年、この若き国家指導者の下どこへ向かうのか。政治、経済、外交、暮らし、日豪関係分野での展望について、オーストラリアで取材活動を行う日本の新聞・通信社特派員に意見を伺った(開催日:2007年12月11日/於:レストラン「日本クラブ」)。

■選挙結果総括
−政権交代は国民の知恵(五井)

原田:まず今回の選挙結果をどう見ますか。五井さんはオーストラリアに赴任してすぐの選挙ということでしたが、どんな印象をお持ちですか。
五井:赴任してほぼ3カ月後に選挙があったが、来てすぐの印象として感じたのはラッドの人気の高さとハワード首相に対する「飽き」。ハワードの敗因はこの国民の「飽き」が一番大きかったのでは。取材では、ハワード首相はもう嫌、顔も見たくないという若い人が多かった。イラクへの派兵や地球温暖化問題に対する政策、少し前になるが難民に対する厳しいやり方も含め、何でも強面で行う姿勢が今の時代にそぐわなかったのでは。裏返せばそれが労働党の勝因になると思う。
新居:同じですね。飽きでしょうね。で、労使政策や地球環境問題、物価の上昇だとか土地代や家賃が上がって生活しづらくなってという細かい不満が積もり積もって、こういう結果になったのではないか。
犬飼:私もやはり同じで、政権への飽きがあったと思う。それとラッドという、能力がありそうで何かやってくれそうな新しい人が現れたというのも大きい。06年12月に彼が出てくるまでのビーズリー党首の時は、支持率では圧倒的にハワードが上回っていて、当時は次の選挙もハワードの圧勝じゃないかと言われていた。それがラッドの登場でがらりと変わった。
 それと、50歳以上はハワード、40歳以下はラッドというように、若い世代とそうでない世代とで支持がだいぶ分かれたような気がする。オーストラリア人の気質というのもちょっと変わってきてるのではないか?
 例えば車などは、昔は新しいものを買わずに直しながら古いものをずっと乗っていたと聞く。実際に買えないという事情もあったのだろうが、今はそれが全くなくてみんな新車を買う。豊かになったということももちろんあるが、オーストラリア人の気質が飽きっぽくなった印象を受ける。
原田:ハワードは自分の選挙区で負けましたが。
犬飼:この点についてはオーストラリア国民は恩知らずだと感じた。それほどの失政もしていないハワードを落とすなんて、あまりにも非人道的。これだけ景気がいいのに、懲らしめようという意図や、恩を仇で返すみたいな、そんな国民性を感じてしまった。
五井:違う見方をすると、オーストラリア国民の政治の知恵というか生活の知恵というか。やはり今回、全部新しくなってすごく清新なイメージになった。日本では自民党政権が続いているが、政権交代というのはすごく良い効果があるものだなと思った。もう10年以上経っているしそろそろ代えてみようという国民の知恵。長くなってくるとどうしても澱んでくる。そういう意味で政権交代はいい面もあると思った。
犬飼:政権交代は別にいい。ただ、何の実績もない落下傘候補のマキューに勝たせてハワードを落としたことに対して恩知らずだなと。仮にも相手は首相。変わり身が早いなという気がした。
新居:ハワードが落ちた時は私もショックだった。悪いところは見あたらず実績は多いのに、なぜオーストラリア人は切るのか。五井さんが言われるように切ることで新しい展開が生まれるので、これは知恵かもしれない。けどなかなか日本人にはできないこと。
 大雑把な意見だが、やはり気質というか、文化の違いを感じる。政治の世界では簡単に切る。経済とビジネスの世界では日本と違い企業買収は多いし、職場を変えることも普通。つまり僕から見るとドラスティック。個人の生活でも離婚率が半分以上で、人間関係もどんどん変えていく。引っ越し率も確か日本人より高い。ここに来て1年半ほどだが、政治から経済から私生活に至るまで、ドラスティックに大胆に変える人たちなんだなというのが感想。今回、ハワードを切った人たちを見て改めて感じた。
原田:政策の違いで選んだというわけではない?
新居:これは難しいところ。大きな幹は変わらず小さいところで変化する程度。どこに本質があるかはいろんな意見があるが、僕は政策の違いはほとんどないと考える。安定感、継続性を訴えたことがラッドの勝因と理解している。
 経済に関しては、ラッドは自分を経済政策上の保守主義者だと何度も繰り返していて、これは今までの経済成長は変わりませんというアピール。それから、米国との関係が最も大事だと繰り返し言っていた。
犬飼:環境問題については皆が環境、環境と言い出したことが、ハワードにとっては逆風となった。前回の選挙も同じように労働党は京都議定書の批准を公約にしていた。問題は3年前と比べ国民の環境に対する意識が高まってきたということだろう。ハワードはそれに気付いてか、気付かずか、ブッシュ政権に遠慮して議定書に批准しなかったというのが大きなマイナスになったと思う。
新居:確か経済界の代表がハワードは京都議定書は批准するべきだったと選挙期間中に言っていたが、その実質はともかく、やはり環境でその対応が遅れたというのは労使政策と並ぶ彼の失点だった。ある意味、時代遅れということだったのだろう。
 ただ、選挙が近くなるにつれ、与野党の政策の差は縮まってきた。
五井:だから京都議定書に批准するかどうかの違いぐらい。ラッドも温暖化ガスについて2050年までの削減目標しか出していないし、短・中期的なターゲットは示してない。ハワード前政権とあまり違いはなく、ただ批准するかしないかということを小泉元首相の「郵政民営化」みたいにうまく争点にした。実質的には大きな変化はないのかもしれず、単なる象徴としての問題。
新居:イラク撤退もそう。500人撤退すると言ったって、もしかしたらその500人分は訓練部隊として周辺国に配置するかもしれないわけだから。まさに象徴でしかない。よく見ている人は怒っていると思う。イメージ重視で。きっと保守連合側には「やられた感」があるでしょう。
五井:すごくうまかった。それで、政権発足と同時に批准して、すぐにインドネシア・バリ島の気候変動枠組み条約会議に出席して、ここでの批准が拍手喝采を受けた。政権デビューとしては最高の形でスタートした。
犬飼:ハワードも、議定書に批准するって言っちゃえば良かった。「私がブッシュ大統領を説得します」という風に言えば、かなり変わってきたと思う。(温室効果ガス削減目標は)日本は2008−12年で1990年比6%ほど削減しなければいけないけど、オーストラリアは8%増に抑制する目標なので、今でも達成できるのに。義理堅いというか。
新居:まあ、最後はしまったなって思ってたでしょう。

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(左)ごい・のりこ 1986年共同通信社入社。外信部所属。ローマ支局長、シンガポール支局長を経て、2007年9月より現職
(中)いぬかい・まさる 1990年時事通信社入社。経済部、札幌支社、産業部などを経て、2005年2月より現職
(右)あらい・すすむ 1991年読売新聞社入社。プノンペン、イスラマバード支局などを経て、2006年6月より現職

■国内政治
−国内の精神はマルチに拡散する(犬飼)

原田:すると国内政策もあまり変わらないでしょうか。庶民の暮らしは期待されるように改善されるのでしょうか?
新居:教育に力を入れていくとか、ブロードバンドに力を入れるとか、医療改革をするとか、少しは変化があるでしょう。あるいはさっき象徴的と言ったけれどもイラク政策とか少しの違いはある。本質は変わらないけど部分的な変化をしていこうと。
五井:あれだけ病院のサービスが悪いという問題がメディアでクローズ・アップされていたし、手術の待ち時間を短縮するとか、医療改革は何かしらやるのでは。
新居:ただ、3年で生活が変わるとは思えない。次の選挙につながるような目に見えるいくつかの実績を残す程度。病院改革をして、あるいは教育現場や学校にパソコンを配置したり、そういうことはやるのでしょう。
五井:州政府と連邦政府が同じ労働党になるわけだから、ハワード時代のような連邦と州の責任の擦り付け合いがなくなり、スムーズにいくのではと期待しているが。
犬飼:国内の精神的な部分が変わるような気がする。ハワードは英語重視で、移民にオーストラリアの歴史を勉強しろと言った。しかしラッドはまったく逆でもっと外国語を勉強しろと言っている。本人は中国語が堪能で、首脳会談の時も中国語。普通なら母国語を話さなきゃいけないのに、わざわざ相手の言葉を喋るというのはちょっと異常。これまでハワードは英国からの本流で来ているわけで、多文化の流れを保守本流に戻そうとした。今度それがまたマルチカルチャーの世界にずれてくる。マルチに拡散していく。
新居:日本語を教えている先生と何度か会う機会があったが、みんな喜んでいらっしゃる。ハワード政権ははっきりとアジア言語教育に対する予算を減らしてきていて、現場で予算が足りない、人が足りない、あるいはそのおかげでクラスを閉鎖したなどというケースが続く冬の時代だったらしい。一方で、労働党になったら中国語をはじめとするアジア言語を優遇するだろうという感触をお持ちのようだった。
犬飼:その一方で、自分たち白人のアイデンティティーというのは、長期的に見てだんだん崩れていくような気がする。おそらくまたより戻しはあると思うが。
新居:たぶん10年経ったらみんな労働党に飽きるわけだから、また同じことが起きて政権交代。アジアの方向からイギリスの方向へまた寄り戻される。それでうまくバランスが働いている。だから今は多文化主義の方向に戻っているということ。
犬飼:いろいろな意味でマルチ重視。だからハワードが排斥していた中東系の人たちも排斥はしていかないと思う。労働党を支持したのはアジア系や中東系の低所得者層。彼らからの支持を得ているからそういう政策に変わっていくのだろう。ハワードは企業側から支持を得ているから企業重視の方向に行っていた。
五井:難民政策も少しは変わる兆しが出ている。ハワード時代にはオーストラリア沿岸の島にたどり着いたボート難民を、南太平洋の離島の収容所などに送る「パシフィック・ソリューション」と言われた政策があり、評判が悪かった。それを労働党政権は見直すと言っている。
原田:ハワードの時代には格差も生まれ、広がった。物価がかなり上がり庶民は暮らしにくくなった気がしますが。
犬飼:全体的には景気が良くなってきたけれども、その中でも格差が出てきたということだろう。でも20年くらい前はインフレが10%を超える時代もあったわけで、今は3%くらい。そう考えると前の労働党政権の方がひどかった。確かにここは物価が高いという気はするが、でもまだ昔と比べればましな方かもしれない。
新居:しかし、不動産価格や家賃の値上がりは激しい。あれは多分きつい。そういう不満が選挙に出たのかもしれない。
原田:庶民の立場からすると、ハワードの時代には経済活動が活発で世の中全体がとても景気が良くて、スピード感があるという印象。そして、その景気に乗り遅れないように何かに急かされるような雰囲気をすごく感じていた。さらに、社会全体が豊かになったというが、本当に一般庶民もその恩恵を受けているのでしょうか。何を買うのにも高くて、その分暮らしにくくなっている印象がある。ラッドに代わることによって、経済一辺倒じゃなくて世の中の雰囲気が少し変わって、バランスが良くなるというのを期待しているのですが。一般庶民はそういうライフ・バランスの調整をラッドに求めたのではないでしょうか。
犬飼:それもあると思う。でも、私はそのスピードは変わらないと思う。インターネットが発達し、オーストラリアがその速い流れの中に入ってしまっているから。ラッドの政策のやり方からしても速い。どんどん自分でポンポン決めちゃう。そして景気がいい中で物価は下がらない。
 今は経済的には贅沢で恵まれている状況。だから豪ドルも高くなっている。昔の日本みたいに円高が進んで輸入品が安く買えるようになればいいと思うが、ただ、ここの経済はそういう風になってないというか、そういった恩恵がなぜかあまりない感じがする。豪ドル高の差益というのは、どこかで誰かが取っている。企業か誰かが。だから下がらない。
新居:そういえば下がらない。
犬飼:ちょっと今、ガソリンが高いからちゃんとプライスを監視しろとか言っているけど、豪ドル高になっても物価がぜんぜん変わらないというのは、誰かがどこかで搾取しているんだろう。
新居:一部の人が儲けてる。
犬飼:だってこれだけ豪ドルが高くなれば、モノが安く買えるはず。生活が豊かになってもそうならないっていうのは、やはりおかしい。みんながお金を使いすぎるからなのか、どこかが搾取しているのか。海外旅行に行けば、そのメリットを実感していると思うが。

■経済の見通し
−オーストラリアは今、建国以来の明るい時代(新居)

原田:豪州経済の見通しはいかがでしょうか。労使政策をはじめラッド新政権に課題があるように思えますが。
新居:当面は、この選挙を勝たせてくれたラッドの強力な指導力で行くだろう。その後はよく分からない。
五井:ラッドは(ハワード政権が成立させた労使関係法)「ワーク・チョイス」廃止のキャンペーンなどで労働組合に相当世話になっている。選挙でこれだけ勝てたのはラッドのおかげだから、当面はあまり摩擦もないかもしれないが、労組との関係というのは1つのポイントとなるはず。
原田:労相からの圧力が強まるということになると、経済にブレーキがかかる可能性もある?
犬飼:当然そうだろう。労組の言いなりになっていれば、今は景気が良いからあまり問題にならないが、景気が悪くなった時に「ワーク・チョイス」のようには人を切れない。すると結局、企業は余分な人を雇い続けなければいけないから、うまくコストダウンできなくなる。経済が悪くなったらそれは急に表面化するだろう。「ワーク・チョイス」はまだ切りやすいようになっていて、労働の流動性が高まるから、経済的にはそっちの方がいい。ここは労働者の権利が強いからもともとブレーキがかかりやすい。そこに労組がもっと力を着ければ余計に経済にブレーキがかかる。資源があるからまだいいが、経済は保守連合の時よりも労働党になって悪くなるだろう。
原田:資源ブームにも影響する?
犬飼:資源セクター自体には、そんなに影響がないような気がする。それよりも豪ドル高の方が資源ブームに影響してくるのではないか。今豪ドルは対米ドルで87とか88セント。5年くらい前は50セント台だから、50%も豪ドルが高くなっている。単純に転嫁されれば輸出価格は5割増になってるわけで、輸出にはかなりブレーキがかかってきているはず。それは輸出品全体に言えることで、輸出はこの国の産業の中心だから豪ドル高はマイナスとなって今後、響いてくる。
 さらにオーストラリア連邦準備銀行(RBA)の政策金利は6.75%。これも結構高い。日本が0.5%ぐらいだからみんな投資で豪ドルを買う。で、金利が今年あと0.25%とか0.5%上がると言われている。豪ドルはさらに買われ、一段と豪ドルは高くなる。輸出にとっては悪循環。でもRBAはそれがそんなに悪くないと言っている。だから余計に豪ドルは上がってきて、輸出にはブレーキ、経済にとってはあまりよくない。
原田:見通しは暗いと ?
犬飼:いや、GDPで言えば2007年のオーストラリアは4%以上の成長率。アメリカや日本の2%程度に比べれば高い。4%が翌年に3%になるというぐらいだから、ブレーキが少しかかる程度。全体的に見れば、オーストラリアの経済は引き続き良い。
新居:むしろ今の豪州経済は最高の時なのでは ? 一番幸せな時でしょう。
犬飼:これだけM&Aが盛んで、売ったり買ったりが日常茶飯事ということは、それだけお金があるということ。金回りがいいというのは景気が良いということだろう。
新居:街のレストランは活気がある。どこから金が出てるのかっていうと実感がわかないけど。
犬飼:たぶんこっちの人は貯金しないで使うのでそれがいいんでしょう。消費が回るから経済が活性化する。来年度また減税するって言っているので、個人所得税がかなり減税されれば、またお金が入ってくるわけで、それもまた使う。使うから経済が良くなる。当然ながらみんなが買うから物価は上がる。
原田:そして金利はさらに上がる。今、ローンを抱えている人たちは困ることに?
犬飼:みんなが家を買おうとすると加熱していくわけで、どんどん物価は上がっていく。だから金利を上げることでそういう困る人たちが出ないと購買意欲は減退しない。だからRBAは一生懸命金利を上げようとしている。加熱した景気を冷まさないといけない。
新居:当面の資源ブームに乗って経済は安泰なわけですから、この国の未来は明るいのでは。今はおそらく建国以来の明るい時代を迎えていて、それが当面続くという風に思ってるんじゃないですか。僕はそう思う。
犬飼:だから、まあ中東と一緒ですよ。
五井:そうそう、全く私もそれを感じます。ここへ赴任して、ああ、石油に頼っている中東と一緒なんだなと。日本のように資源の乏しい国は、工夫に工夫を重ねて「ものづくり」に励んだりしますが、ここはその必要はない。
新居:話は戻るけど、この国は非常にダイナミックな政権交代とかやるわけですよ。中東のように資源の恩恵を受けながら、そういうイギリス型の豊かな政治文化が入ってる。政治も安定してるし、中東よりは環境の変化に対応する能力があるのでは。

■環境問題への取り組み
−これだけ国が大きいと、個人努力の成果は疑問(五井)

原田:環境問題への取り組みが変わるとしたら、その方向性は国益にかなうものなのでしょうか?
犬飼:さっきも言ったように京都議定書の目標は達成できる話。問題は議定書後の2013年以降の「ポスト京都」で、削減目標をこの国が決められるかどうか。ここは石炭の発電量が多いから二酸化炭素の排出量も自然と多くなる。そうすると、削減量を決められると発電量を抑えないといけないから、結局、経済にブレーキがかかる。ハワードはそれがだめだと言っていた。
原田:それで、原子力にしないといけないと。
犬飼:長期的に言えばそう。環境というのはコストがかかる話だが、ここはもともと何にしてもコストをかけてこなかった国。それを少しずつかけるということは、それだけ経済にはマイナスになる。もちろんタダじゃないが、そこらへんに落ちてる石炭を持ってきて発電所に放り込んでというのをこれまでやってきたのが、ほかのものを使わなきゃいけないのだからコストが上がるのは当然。そこのところをラッドはどうするのかがこれから見もの。
「環境」「環境」と言っても、もともと環境に対する意識はゼロの国民。ゴミの分別さえまともにできないのだからひどいもの。暖房や冷房も省エネという意識が全くない。そういう人たちにどうやって環境の意識を植え付けるのかというのはすごく難しい。10年くらいかけてやらないと無理でしょう。せいぜいスーパーのエコバッグを買うぐらい。リサイクルの概念がない。
五井:言われてみれば冷房も利きすぎで寒い。じゃあ、一般国民のレベルではどうやったら解決できると思ってるのか? 今、日本はうるさいくらい。ゴミは細かく分別して、温度設定して。そして日本人は几帳面だからちゃんとやる。
 ただ、これだけ国土が大きくて、人口は日本の6分の1ぐらいしかないオーストラリアで、個人の努力でいったいどれだけ削減できるのかなって思う部分はある。クリーンな石炭発電とか、太陽光発電とかをさらに進めた方が効果的。
犬飼:結局ここは何事にも経済優先。だからお金が儲かりさえすればいいという意識が大きい。国民もそう。自分勝手な国民なんですよ。
五井:そうなんですか? まだ、それは分からない。
犬飼:だから資源なんかも売れればいいということで、人権問題なんかも関係ない。インドへのウランも売れればいい。これまで核拡散防止条約に入ってなきゃいけないっていう決まりがあったけど、インドに売れるんだったらそれもいいと。

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■外交政策
−ラッドは中国をテコに歴史に名を残そうとしている(新居)

原田:外交政策にはどのような変化が起きてくるのでしょう。ハワードのアメリカ追従政策は変わっていくのか ? また、中国寄りと言われているラッドですが、日豪関係にどのように影響するか?
五井:ラッドも就任早々言っていたが、アメリカが主軸になることは間違いないでしょう。ハワードのように議定書に批准しないとか、アメリカに習ってイラクに行くとか、露骨な米国追従というのはなくなる。中国に対しても、露骨には中国寄りにはならないと思うが、中国を刺激するようなことは絶対やらないはず。
新居:まあ、大きな流れは変わらないだろうが、やはり中国重視。日本に冷たくなることも出てくるだろうし、中国はもっと温かい目で見るようになる。そういう雰囲気が変わっていくことは間違いないだろう。その兆候はもう既に現れている。その雰囲気の部分が、実際の外交に影響してくるかが注目点だ。
 ハワード時代は歴史的に見ても日本にとって極めて良い時代だった。豪米同盟の延長ではあるが、日本を重視していた。アジア太平洋地域で日本以上に重要な国はないとハワードは繰り返し言っていたほど。そう考えると、そもそも日豪関係がこれ以上よくなることはほとんどないのではなかろうか。まあ現状維持できればオーケーという状態。捕鯨の問題もあるし。
犬飼:私はたぶん日本は全く無視されるんじゃないかと思う。ラッドはかなり中国オタクみたいな感じだし、おそらく日本は政治的にはほとんど無視でしょう。でももともとハワードの前はそんな感じだったから、それに戻るだけで別にいいのでは。日本から歩み寄る必要もないし。ラッドはマルチで全方位でやっていくんでしょう。
五井:1つ付け加えると、私は以前、シンガポールにいたが、ASEAN(東南アジア諸国連合)ではご存知のようにハワードはすごく嫌われていた。バリ島のテロでオーストラリア人に多くの犠牲者が出て、まあオーストラリアの感情も分かるが、ハワードはアメリカの副保安官みたいな感じで、対テロ対策でASEAN諸国の主権を侵害するような発言もした。東南アジアの政治家たちは、みんなやりやすくなったと喜んでると思う。
新居:オーストラリアというのは常に隙間外交。何かテーマを見つけて、中規模の国家として身軽に動き、自分の背丈を超える存在感を発揮するのがこの国の伝統らしい。ラッドは中国をテコに、歴史に名を残すことを何かやろうとしているのではないか。ハワードの時も後期から中国に対する比重が高くなっていた。経済も中国の資源ブームに乗っているし、政治的にも来年からやろうということだろう。
犬飼:ラッドの出身であるクイーンズランドでは第二外国語の専攻では今のところ日本語が多いというが、たぶん、全部中国語に変わるのではないか ? 中国語を勉強させようと。
 実際に資源にも関わってくる。で、実際に今、国内で中国語を勉強してる人が増えているらしい。日本語よりも中国語に流れは変わってきている。
五井:ラッドに変わらなくてもそういう傾向はもう既にあった。
犬飼:あったけれども、そういう傾向がさらに加速する。
新居:ラッドの一家は父親だけでなく、娘も2人の息子もみんな中国語をやっている。時代の先端を行っているのか。
犬飼:ラッドはあの時代に中国史と中国語を勉強しているというだけでオタク。30年前の話でしょ ? 日本なら分かるが、オーストラリアで30年前に中国語を勉強するというのはかなり変わっている。
新居:やはり日本から中国にシフトしている。日本人は肩身が狭くなりつつある。

■日豪関係
−中国が入ってくれば日本が相対的に下がってくる(犬飼)

原田:日豪関係については、EPA交渉も進んでいるわけですけれども、経済面も含めてどのような見通しをお持ちでしょうか。
新居:短期的な急変っていうのはないでしょうね。そんなに急に変わるようなやわな関係ではない。資源とか農作物とかで経済関係も強いし、政治関係も極めて順調だし、すぐ崩れるってことは絶対ない。ラッドは非常に頭の良い現実的な政治家だし。ただ、そこに雲が差しつつあって、それが長期的にどうなるかっていうのが見所。外交関係者もあまり心配していない。ただ、ムードの変化は出てくるだろう。当面は捕鯨問題。ムードが変わって、それが実際の外交の中に変化が現れるかどうか。少し時間が経ったら、ちょっと変わってくることはあるかもしれない。
五井:私も同じでがらりと変わることはないと思う。ただ、労働党は伝統的にWTOの多国間貿易交渉を優先する立場で、日豪EPAのようなバイ(1対1)の交渉には乗り気じゃないんじゃないかとか、WTOルールに則ったもっと厳しい基準を押しつけてくるんじゃないかとかいろいろ言われているが、基本的にはそんなに大きな変化は起こらない気がする。
犬飼:ただ、五井さんが言われるマルチな状況の中では、おそらく日豪EPAはぜんぜん進まないんじゃないかと思う。もともと日豪EPAは、小泉首相とハワード首相が一緒にやり始めて、労働党サイドは本当はやりたくなかったけれどもそれを強引に進めた経緯がある。で、今回ラッドは、労働党だからマルチ主義で例外もあまり認めない。一方で日本は例外を認めてくれと言っているわけだから、これは対立。ラッドとしては別に2国間でやる必要がないと考えれば、日豪EPAは進まない。日韓EPAは止まってる状況だが、それと同じ状況になる気がする。
 政治的には日豪関係はハワードの時が一番良かったのでしょう。それが急激に距離が置かれると思う。経済的には一緒。もともとビジネスライクでやってきているんだから。ただ、その一方で中国が資源を高いお金で買っていけば、中国がどんどん入ってくる。今までは外資の規制を財務省が行っていたのだろうが、中国よりのラッドになってそれがなくなっていけば中国からの投資が非常に進みやすくなる。そうすると、日本が相対的に下がってくるという状況が起こるのではないか。

■世相を占う

原田:最後に2008年のオーストラリアの世相を表すキーワードをお願いします。
五井:最初は変化の「変」にしようかと思ったんですが、さっきの話にも出てきたように、大きな路線はハワード時代とそれほど変わらないかもしれないと考え直して、転換の「転」くらいかなと思った。
新居:僕は「気分転換」。新しい首相になって表面上のことやムードは何となく変わっても、それが本質的な変化なのかは疑問。そういう気持ちをこめて「転換」という言葉に「気分」を付けた。
犬飼:マルチ化することによって中東の人たちでも、中国人でもアジア人でもいろんな価値観を認めてしまう。これまでハワードはイギリス系の人々や英語圏、英語、オーストラリアの歴史を重視した。それが変わってきていろんな価値観が混在する。で、結果としてはアイデンティティーが混沌とする時代だから「混沌」。まとまりがなくなって、オーストラリア人の価値観とは何かというのが分かりにくくなるのではないか。

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