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    インタビュー
     - 「日本が誇る伝統の業を伝えたい」  [2008/5/05]

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史上初の外国人芸者 紗幸さんインタビュー

 昨年12月19日、東京・浅草で史上初の外国人芸者が誕生した。芸名は紗幸。メルボルン出身のオーストラリア人女性だ。慶応大学、オックスフォード大学での学歴を持ち、日本を専門とする社会人類学者として研究をしながら、著作物出版やドキュメンタリー映画作成を行ってきた才媛でもある。その彼女が芸者になろうと思ったきっかけ、修行、芸者としての今の暮らしについて、流暢な日本語で話してもらった。

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Photo:Kerry Raftis

■きっかけは映画『SAYURI』
「西洋人は芸者に対して、男性の言う通りになって決定権が何もないというような間違ったイメージを持っているんです。実際はまったく違います。芸者は独立したワーキング・ウーマンなんです」。芸名・紗幸こと、フィオナ・グレアムさんは芸者という仕事についてこう話す。踊りや三味線など伝統芸能の高度な技を持ち、客が楽しめるよう心配りを怠らない、エンターテイメントとサービスのプロフェッショナル。「他国にはほとんど例を見ない、日本伝統のすばらしい職業です」。
 彼女が芸者になることを考えたのは、アーサー・ゴールデンの小説『さゆり(原題:Memoirs of Geisha)』を元に、ハリウッドが映画を製作するという話を聞いた時だ。西洋男性が作る「ゲイシャ映画」が「間違った」イメージで凝り固まり、真実からかけ離れたものになることは彼女には明らかだった。映画はあくまでフィクションであり、真実の芸者の姿を伝えるものではない。が、芸者の世界を知らない西洋人がこれを観た時、現実と勘違いしかねないのも事実だ。それは学者として日本社会を研究してきた彼女には耐えがたいことだった。『さゆり』のイメージを払拭するために、真実の芸者の姿を伝える人類学的なドキュメンタリー映画を作らなければならないと思った彼女は、自ら芸者になって花柳界に入り、撮影をしようと決めた。

■正座が一番つらかった
 フィオナさんが芸者になる場所として選んだのは、東京・浅草の花柳界。自身が長年東京に住んでいたこと、また浅草の花柳界が数百年という長い歴史を持つことや、昔の東京の姿を残す風景が撮影で絵になると思ったのが理由だ。いずれにせよ、浅草の花柳界はフィオナさんの申し出にさぞ驚いたことだろう。
「外国人が芸者になるというのは歴史上初めてですから、当然簡単には受け入れられず、花柳界の皆さんを説得するのにかなりの時間を費やしました。幸い慶応大学のOBの方など、顔の効く方たちが応援してくださったんです。それがなければとても入れない世界です」。フィオナさんの熱意と周りの人々の援助により、門が開いた。置屋(芸者を抱え、求めに応じて茶屋・料亭などに差し向ける家)を紹介してもらい、芸者修行を開始した。
 戦前、芸者になるには、子どものころから置屋に入り長い修行時代を経ることも多かったようだが、フィオナさんによれば浅草の花柳界で芸者になるまでの修行期間は、現在通常1年ほど。その期間、料亭で仲居の仕事をしながら芸者の仕事を観察したり、お茶、踊り、太鼓、横笛の稽古、そのほか数限りない慣習や礼儀作法を置屋の「お母さん」から叩き込まれる。
 もちろんフィオナさんが外国人だからといって特別扱いを受けるようなことはなかった。「芸者は芸者。外国人だから大目に見てもらえるということはありません」。生まれの違いを甘えにしていたら、続かない世界なのだろう。
 彼女が修行時代一番つらかったというのは、正座。「芸者衆は座布団を使いません。お座敷は最低2時間、その間しびれても何もできないので、早く慣れるしかない。体重が1キロでも余計にあるとつらいと年配のお姐さんが教えてくれて、痩せる努力もしました」。芸の中では横笛が最も自信があったが、苦労はそこにもあった。「フルートをやっていたのできれいに音は出せるんですが、邦楽のタイミングは洋楽と違うのが難しくて…」。
 日本に長年住み見事な日本語を話すフィオナさんにとっても、予想以上に大変な修行時代だったが、ひと通りの芸と作法を身に着けた昨年12月18日、ついに芸者としてのお披露目を果たした。芸名は、伝統としてお母さんの名前から「幸」の1文字をもらった。先輩芸者のお姐さんたちや置屋、料亭など、浅草花柳界の関係者100件以上に朝から晩まで挨拶して回った。こうして芸者「紗幸」が誕生した。

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浅草の花柳界は、雷門の向こう、浅草寺観音堂の裏にある

■プロジェクトとして、業として
 現在、紗幸さんの毎日は、昼間に師匠と一緒にお茶や踊りなどの稽古を1、2時間行うほか、自分1人での稽古、練習会や浅草で行われるイベントに参加、夜は多い時にはお座敷3カ所に出るという多忙さだ。「芸者」とは、すなわち「芸」を持つ者。プロとして芸は一生磨き続けなければならない。紗幸さんはそんな日本伝統の業に誇りを持って、日々精進している。
 またドキュメンタリー映画の方はというと、忙しい合間を縫って芸者としての自らの生活を撮影している最中で、完成したらオーストラリアを含む数カ国で公開の予定だ。そのほか芸者文化を紹介するプロジェクトの一環として、浅草の芸者衆と来豪も考えている。「大学の日本研究学科を訪ねたり、日本関係のフェスティバルに参加したりして、芸者文化を公開したいです。スポンサーの応援があると助かりますので、皆さんご紹介をよろしくお願いします」とのこと。
 最後に気になる質問を1つ。社会人類学のプロジェクトのためになった芸者、映画完成の暁にはすぐに辞めてしまうのだろうか ? 答えは、否。「最初はプロジェクトとして始めましたが今はそれ以上に没頭しています。歴史上初めてのケースとして芸者になれたので、すごくありがたいことですし、がんばって一人前の芸者にならなければと思います」。
 紗幸さんを指名してお座敷遊びをしてみたいと思った人は、「紗幸」のウェブサイトを通して連絡すれば手配できるとのこと。東京に行く機会のある人は、日本伝統の業に励む紗幸さんの活躍ぶりを見ることができるだろう。

■紗幸ウェブサイト:www.sayuki.net
■浅草花柳界ウェブサイト:www.asakusageisha.com
※参考資料:「お座敷遊び 浅草花街 芸者の粋をどう愉しむか」浅原須美・著 光文社新書

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Photo: Kerry Raftis

紗幸プロフィル

本名フィオナ・グレアム。メルボルン出身。15歳の時交換留学生として日本に渡り、現地の高校を卒業。慶應大学で心理学学位を取得後、英国オックスフォード大学でMBA、社会人類学の博士号取得。07年、浅草花柳界で芸者になるための修行を始め、同年12月19日芸者として正式にお披露目を行う。

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