大使インタビュー
- 小島高明・駐豪大使に聞く [2008/5/31]

良好な関係を当然視せず
価値観を共有する国として
さらなる関係発展を目指す
小島高明駐豪大使は4月16日、シドニー市内で本紙のインタビューに応じ、戦後、経済・貿易面での相互補完関係を軸に安全保障面でも新たな信頼関係を熟成しつつある、新時代の日豪関係について展望した。
プロフィル
こじまたかあき●駐オーストラリア特命全権大使。在中華人民共和国参事官、在連合王国公使、在サンパウロ総領事、在米公使などを経て、2002年国際情報局長、2004年駐シンガポール国駐箚特命全権大使。2007年11月現職に就任。
――まず駐豪大使の辞令を受けた時の感想をお聞かせください。
豪州の駐在は初めてですが、外務省入省時、一番最初に配属された部署が(オセアニア、太平洋島嶼国を担当する)「大洋州課」でした。この部署で1年間勤務した関係上、直接の駐在経験はないものの1970年代前後とそれ以降の豪州は常に感心を持っていました。
その後、在外では英国、インドネシア、中国、米国、ブラジルなどの勤務を経て、直前はシンガポールにおりました。結果的にアジア太平洋の部署が比較的多かったわけですが、豪州はアジア諸国や日本にとって非常に重要な国という認識を持っています。そのため、重責だという思いと同時に非常にやりがいのあるポストだと感じました。
――豪州着任後感じられた事柄の中で、最も印象的だったことは何でしょうか ?
豪州の方は非常に親日的であるということを聞いていましたが、実際にいろいろな方々に接してそれを再確認できました。日本と豪州の両国がこれまで何十年もかけて築き上げてきた良好な関係を、こちらの方もとても評価されているということをとても印象的に感じます。
他方、着任前後から、豪州では日本の調査捕鯨に対する問題がクローズアップされています。全般的には良好な関係と言える中でも、この件についてだけは感情的な問題として従来よりも大きくなっているという感想を持っています。
――貴使は、駐豪大使になられる前に駐シンガポール大使を務められた。この2つの任地を比べてどう思われますか ?
いろいろな意味で異なる点、似ている点があります。まず国のサイズからして違います。シンガポールは東京23区くらいの大きさですが、他方、豪州は広大な大陸です。また、“資源の宝庫”である豪州に対してシンガポールには資源が全くない。これは日本以上です。
ただし、よく見てみると似ている点もある。自由貿易、外国資本の受け入れといった「自由市場経済」が両国のベースにありますし、もともとは英国の植民地であり、英連邦の一員であるというつながりもある。
また、かなりの数のシンガポール人が豪州に留学したり移住したりしています。そして反対に、経済的な地域のハブとしての要素があるシンガポールには、豪州の方が1万人近くも働いておられる。そういう意味では、似ているというか、共通の部分があるという気がします。
そして、両国とも極めて親日的であることや、日本との貿易、日本からの投資といった日本との経済関係が、それぞれの国の発展に大きな役割を果たしていることなど、共通している部分は多いと言えます。
――現在の日豪関係の現状をどのように評価されていますか ?
日本と豪州との関係は、特に最初は資源の開発という分野において双方にとって非常に重要でした。1957年に交わされた日豪通商協定をきっかけとし、緊密で良好な経済関係は、長年にわたり徐々に築き上げられました。
それがその後、単なる経済関係だけではない、さらに幅広い交流が拡大するきっかけとなったのが、1976年の日豪友好協力基本条約でした。これを契機に人的交流も非常に発展しました。人の往来も非常に多く、JETプログラム(総務省、外務省、文部科学省の協力の下、自治体国際化協会の調整によって実施されている「語学指導などを行う外国青年招致事業」)で日本を訪れる豪州人や、双方の旅行者もとても多い。そして、豪州に暮らす在留邦人の数も多く、豪州は、米国、中国、ブラジル、英国に次いで世界で5番目、その数は約6万人に上ります。ちなみに私は結果的にこれらの国をすべて在勤したことになります。
いずれにしましても、それだけ在留邦人の方がいらっしゃるということは、企業活動や留学など、さまざまな分野で日本との関係が密接であることの1つの表れだと言えると思います。そういう意味では人的交流がますます太くなっているなという感じがします。
そして、人的交流あるいは経済的関係の発展をベースにした日豪関係が近年、その重要性をさらに深めることができたのは、やはり、アジア太平洋地域の中で日本と豪州が基本的な価値観を共有している国であるからだと言えます。
両国は「民主主義」や「基本的人権」、さらには「自由市場経済」「法の支配」などの基本的な価値観を共有している。そして、両国とも米国と同盟関係にあり、戦略的な外交目標も共有している。ひと言で言うと、「包括的な意味での戦略的パートナーである」という関係になってきています。
この関係は特に最近進展しています。昨年3月には日本と豪州は安全保障の協力についての共同宣言を行い、そういう意味で「包括的な意味での戦略的パートナー」としての重要性をますます確認していると言えます。
ただ、もちろん問題がないわけではなく、1つは捕鯨問題というトゲがある。これを何としても、お互いの立場の違いはあっても、全般的に良好な関係を阻害しないような形で対処していきたいと思います。
また私は、こちらのいろいろな日本政府関係者の方に申し上げていますが、この良好な関係を当然視することなく、常に両国の友好関係を促進していかなければいけないと思っています。
――オーストラリア在任中に実現したい優先課題は何でしょうか ?
日本と豪州には、ワーキング・ホリデー制度で若い人が双方向で旅行や社会経験をできるという環境がありますが、この制度を利用して若い人の交流をさらに深めていただきたい。というのも、若い人同士の理解こそが、今後の日豪関係の発展のために非常に重要だと思うためです。互いの国を訪問し滞在することで、その国やその人を知る機会になる。そしてその機会を通じて両国の親善関係が増進されていくと思うのです。
また最近、北海道のニセコなどのスキー・リゾートに訪問する豪州人旅行客がとても多く、当地でホテルやレストランを経営されている豪州の方もいると聞きます。スキーであれJETプログラムであれ何であれ、1度でも日本を訪れてもらえればきっと日本の魅力を感じてもらえるはずです。そして、それをきっかけとしてリピーターになってもらえるかもしれません。
外国人の方の中には、日本は物価がとても高いというイメージを持っている方が多いのですが、今の日本は実際にはそうではありません。こちらにある国際観光振興機構(JNTO)や旅行代理店の方などとも協力して、そのイメージを払拭し、ぜひ若い方の日本への旅行・滞在を奨励したいと思います。
――最後に在豪の日本人にメッセージをお願いいたします。
駐在の方や永住の方、学生の方など、多くの方がいろんな形で滞在されていると思いますが、豪州は勤務地としても、また生活する上でも、世界でも稀に見ると言えるほど恵まれた環境ではないかと思います。皆さんにはその環境を満喫すると同時に、せっかくですので、豪州のほかのコミュニティーの方ともぜひ溶け込んでいただきたい。そのような草の根の交流の中で、さまざまな立場で両国の理解の増進に努めていただけると非常にありがたいと思います。
付け加えますと、豪州は基本的に安全な国ではありますが、治安の問題がないわけではありません。くれぐれも身の回りの安全にご注意いただきたいと願っています。
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