税務&会計 REVIEW
- オーストラリア排出権取引システム −税務政策の重要性 [2008/8/02]
税務&会計 REVIEW
アーンスト・アンド・ヤング パートナー/日系ビジネス・サービス・ナショナル・ディレクター:菊井 隆正
オーストラリア排出権取引システム −税務政策の重要性
二酸化炭素(CO2)排出量削減に向けた規制と取組みの必要性は、企業や政府が直面している重要な課題の1つです。そのような中、オーストラリアでは2010年の発行に向け、オーストラリア排出権取引システム(AETS)の開発を進めています。ペニー・ウォン豪州気候変動・水資源相はこのAETSについて、次のように語っています。「1980年代の貿易自由化以来、オーストラリアで最も有意義な経済改革となるでしょう。周到で良識的な経済運営が必要とされる時代が到来します」。
AETSの導入にあたり、オーストラリアが競争力のある魅力的なビジネスの場であり続けるためには、オーストラリア税制の調整が必要になります。排出量削減義務のあるこの新システムに対応する効果的な税制調整は、政策立案プロセスにおいて、税金の問題を考慮しなければなりません。既に政府および財務省を含む各アドバイザーがこれらの問題に対する取組みを開始しています。
オーストラリア勅許会計士協会(以下、協会)とアーンスト・アンド・ヤングによる共同報告書「オーストラリア提唱の排出権取引システム−税務政策の重要性」では、現行の税制の枠組みにおけるAETS共存の対応策に焦点を当て、排出量抑制環境への移行を促進するような税制調整を検討しています。
AETSは以下のようなキャップ・アンド・トレード方式になります。
■ オーストラリアの上限値(排出量目標値)は、2008年9月に発表されるロス・ガーノー教授の報告書(ガーノー報告書)に基づき政府が決定する。
■ 排出権(permits)および相殺権(offset credits)は企業間で取引が可能である。
■ 排出権および相殺権の上限値を超過して温室効果ガスを排出した企業(および経営者)に対し、罰金が科せられる。
所得税(国際課税を含む)、消費税、石油資源税、印紙税(州税)、その他税金などを含むオーストラリア税制はAETS導入に伴う影響について適切に対処する必要があります。AETSを開発する際には、排出権と相殺権だけでなく設備投資や研究開発(R&D)に関する税金の問題も発生します。企業の事業戦略を策定する上でAETS構築プロセスとしてこれら税金の問題を明確にさせなければなりません。
本報告書ではAETSに関わる企業に対して次のように言及しています。
■ 法令の明文化を通してAETSが及ぼす税
務上の影響について確実にさせる必要がある。
■ AETS導入による税務上の影響が公平である必要がある-AETSは、税制の誤認識、ブラックホール(損金算入機会損失)、その他不利益を生ずるべきではない。
■ 経済的影響を補填するため、また今後継続的に達成しなければならないCO2排出量の削減を支援するために、インセンティブを必要とする。
本報告書ではすべての主要な関係企業について税務上の取扱いを検証しています。
■ 企業-特にAETSにおいて「適用範囲に含まれる」会社。
■ 相殺権のプロバイダーおよびCO2の相殺と隔離に従事する会社。
■ トレーダーおよび投資家効率的な市場メカニズムにおいて排出権を売買することにより、効率的に排出権の取引と使用を行い、排出権に流動性をもたらすビジネスを含む。
現在の税制
所得税、消費税、石油資源税、間接税、州税における既存枠組みに対する評価
アーンスト・アンド・ヤングおよび協会による検証では、AETSに対して現行の所得税法が有効に対応するために、あえて所得税法を変更する必要はないと提言しています。
AETSの税務上の影響を明文化するために、次のようなことを行う必要があります。
■ AETS導入時の排出権無料配分の受取について非課税にすること。
■ 排出権および相殺権の売買に関する税務上の取扱いと通常の事業経費とを調和させること。
■ 排出権に関する費用について、税務上損金算入の対象になるか否かを明示すること。
■ 承認されたCO2の相殺活動に対する税務上の取扱いを明示すること。
将来におけるAETSとオーストラリア以外の行政区域で行われる排出権取引との相互関係、ならびに排出権相などの取引を取扱う第2の市場形成から生じる税務上の問題の明確化が必要とされます。
行動の変化と排出量削減活動への投資の促進
AETSはCO2排出量削減へと企業の行動を促進する強力なツールとなります。しかし、企業にはこのAETSによる新しい環境に適応した企業活動する上で、資金不足や経済の不安定さから、大きな打撃を受けることになるでしょう。果たして本当に企業の行動を促進するツールとして税制を利用することが、税務政策上必要であり、適切なのでしょうか。 今までの経験からみて、税制の悪用や課税漏れを防止するため、周到に税制調整を検討する必要があり、また税務調整の利得を計ることは困難なことであると同時に、非常に重要なことでもあります。なぜならば、これらの調整は最終的に納税者の資金で行われるからです。 気候変動への取組みはオーストラリアが直面している重要な課題であるため、税務上のインセンティブがビジネス・リスクの可能性を回避するように構築されているのであれば、必ず効果的に機能するはずです。 政府は今後AETSの導入によって企業に多大な負担がかからないよう、税務上のインセンティブについてさらに検討するべきであり、またAETS導入時に生じる排出量削減およびそれに関する構造変更のための設備投資について、インセンティブの移行措置も検討すべきであると言えるでしょう。 税務上のインセンティブとして可能なものは以下の通りです。
優遇措置を利用しオーストラリアの環境関連革新事業ならびにR&Dを促進する。
* クリーン・テクノロジーに対する適格R&D費用の税額控除率を125%から最高200%に引き上げる。
* クリーン・テクノロジー開発企業に対する還付可能な税額控除範囲を拡大する。
* クリーン・テクノロジーのR&Dに償却資産を使用する企業は、対象施設にかかる費用の3分の1の償却(年間)に対して、現行の125%もしくは適切な償却率を用いることができる。
排出量を削減することを目的とし、既存設備の交換および改造に費消した高額な設備投資からの経済的成果を高める。
* CO2排出量削減を実証できる設備投資に対し、減価償却率の引上げを適用する(例えば120%)。
* CO2排出量削減のために開発された既存設備を補助する機器に対して15%(またはその他適切な比率)の排出量削減投資控除を導入する。
* 排出量集約型産業の企業に対して税務上の欠損金の優遇措置を導入する。
* その他特定の費用に対する税額控除を検討する。
税務政策の協議プロセス
税務政策の方向性は、AETSの政策に歩調を合わせながら展開し、対象となる企業に対して適切に伝えられることが必要です。業界に対し税務上の問題点を明確にするためには、協議を2008年度中に開始する必要があり、首相府および内閣では、AETSの設計や導入を支援する諮問機関を設置するべく動いています。
ガーノー報告書のプロセスを遵守するためには、以下のことが必要となります。
■ 税務政策の選択肢を考慮する際、最大限に透明性を高め協議を行う。
■ 税務政策決定プロセスにおいて、二次的な影響を考慮する必要があることから、収益の影響についても協調的な検討を行う。
AETS導入は、オーストラリア経済における最大限の利得と最小限の混乱を目標とする最良の施策を国民に示す絶好の機会であります。AETSとオーストラリア税制との関連性は今までほとんど注目されていませんでした。しかし、税務政策の枠組みや税務問題への施策が、気候変動プロジェクトに対するオーストラリアの取組みの重要な要素となることは明らかであり、今後の企業の対応および排出量曲線に影響を与えることになります。
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