税務&会計 REVIEW
- マネー・ローンダリング対策で取締役は個人的責任を負うことに(第2回) [2008/2/08]
税務&会計 REVIEW
アーンスト・アンド・ヤング
パートナー/日系ビジネス・サービス・ナショナル・ディレクター:菊井 隆正
マネー・ローンダリング対策で
取締役は個人的責任を負うことに(第2回)
前月号に引き続き「マネー・ローンダリング防止およびテロ資金対策(以下AML/CTF)新法について。前月号では、従来の金融機関だけでなく、今まで対象外とされていた企業なども新法に遵守する義務が生じたこと、遵守しなかった場合には個人として責任が問われ、厳しい罰則が課されることなどを説明しました。今回は、その新法で企業に要求される5大主要条件について考察します。
1. 顧客に対する本人確認
AML遵守により、企業が顧客に対して適切に本人確認をすることが義務付けられます(一般にKYC:Know Your Client - 「顧客熟知」と呼ばれる)。この意味の捉え方についてはそれぞれの企業に委ねられます。この法令において企業は顧客のリスクの程度によって適切な統制とチェック機能を決定する自由裁量が与えられています。対処方法として、特徴のある必要書類を何点か要求したり、多くの金融機関がオンラインで信用調査を行うのと同様に本人の電子確認を行ったりします。
ここで留意すべき点は、信用格付け調査が本人確認作業ではないことです。低い信用格付けだからといって、マネー・ローンダリングのリスクがあることを示すわけではありません。実際多くのマネー・ローンダリングの状況において、資産流入額を調査するために、信用格付けをあてにすると思われがちですが、個人の信用状況は重要ではないのです。
善良なAML職員にとって重視すべき点は、何年も前にその顧客にクレジット・カードの支払不履行があったかどうかではなく、顧客の本人確認に首尾一貫性があることなのです。
また、リスクをよく理解しないで本人確認を第三者に頼ることについても注意しなければなりません。英国の経験では、本人確認の情報の質が第三者によってばらつきが大きく、法令遵守していないままである可能性があります。
取締役は、提供された第三者の情報源が何のデータに基づくものか疑問を持たなければなりません。幅広い公式・非公式の情報源を有し、全調査の記録を保存する能力がある提供者を探せば、どんな不正行為の申し立ても実証できるのです。
本人確認により、本人が言っている身分内容が確実に本当であるか、一定の確信を得る必要がありますが、その確認は時間や利便性、企業や顧客が負担する費用の点においてバランスのとれたものでなければなりません。
顧客から本人確認の情報を得ることが大きな課題になります。取締役は、自社が良好な消費者経験を提供しつつも、いかに顧客の本人確認に必要な条件を満たしていくのか、その計画内容を理解する必要があります。このバランスが崩れると法令不遵守になるか、市場競争力を失うことになります。
2. 取引の監視
顧客に対する本人確認はマネー・ローンダリングという難題を紐解く鍵の1つに過ぎません。企業は顧客の取引を認識し追跡調査する必要もあります。
通常の取引が何であるか理解して初めて不自然な取引を監視することができます。企業は取引の監視を不正の観点から非常によく行っていますが、すべての不正行為者がマネー・ローンダリングを行う一方、マネー・ローンダリングを行う者がすべて不正行為者というわけではありません。不正行為の調査員は大抵、信用が確認されれば並外れた金額の支払を行う者でも警戒しないのですが、クレジット・カードの口座に前金で入金している場合はマネー・ローンダリングである可能性があります。取引の監視は、顧客が行おうとしていること、顧客が自分について話したこと、同様の顧客や同等のグループから予想できることなどを考慮に入れた上で不自然な活動を見つけ出すことを要求しています。
繰り返しになりますが、解決策がそれぞれの企業が必要とする要件に正確に合致しない限り、第三者に問題を委ねることは注意が必要です。第三者機関による取引監視システムを利用することもできますが、自分の事業にとって適切であるかどうかをまず確認しなければなりません。既にシステムを利用している人々を参考に、慎重に確認し、実際の場面に対してどの程度の確率で警告が出るのか見極めてください。これらのシステムの中には何百、何千もの警告を発するものもあります。それぞれの警告に対して骨の折れる追跡調査を必要とし、結果として非常に過剰処理される解決策になってしまいます。スタッフやシステムに多額のお金を費やす事は自分の事業に対してより良い解決策を保証するものではありません。
3. 疑わしい取引の報告
疑わしい取引の報告は、取り扱う要件の中で最も困難な課題の1つです。問題は、1度不審な行動を見つけてしまった場合、その顧客をどう扱うかです。引き続き口座からお金の出し入れをさせますか? もし口座を閉じてそれがシステムの誤警報だった場合、ぬれ衣を着せられて激怒した顧客に訴訟を起こされることからどう身を守りますか?
企業によっては、第三者機関が疑わしい取引に対して比較的素早く対応する限り(英国では平均3日間)、これは問題にならないでしょう。例えば、投資マネジャーが顧客から投資金を小切手で払戻すよう依頼された場合、制度上あらかじめ払戻し猶予期間が与えられており、その間に対処ができ、顧客がそれを知っている場合は問題にならないでしょう。
それとは対照的に、インターネット・バンキングの場合、企業が阻止しない限り、顧客はその日のうちに口座から全額移動させることができるのです。その資金を出し入れさせた場合(状況にもよりますが)、公の罰則はないかもしれませんが、麻薬カルテルやテロリスト集団の資金源となったということで致命的な風評リスクを負うことになります。したがって非常に難しく、細心の注意を要するポリシー分野です。
4. 記録保存
AMLにおける記録保存は、比較的簡単な事ですが、裁判所の命令で記録を提出するよう求められた場合、企業は即座に取り出せるようにしておかなければなりません。古いシステム周辺の問題もまた、顧客データが容易に分析できるフォーマットになっていないという問題をもたらす可能性があります。
英国におけるAMLの記録保存で生じた思わぬ副産物は、合併・買収とAMLの記録保存との関連性が増していることです。顧客の本人確認に関する記録の質や状態により、その手順が法令に遵守していない場合、購入者は将来改良にかかると思われる費用を評価し、買収金額の減額を要求してくるでしょう。
例えば、記録が基準を満たしておらず、大幅な改良を必要とするようであれば、その費用は軽く数百万ドルになり、事業の将来収益に重大な影響を及ぼします。またAMLの統制手続きが脆弱であれば、通常、後になって罰金を含む法的措置が取られる可能性が高くなることで、買収金額を左右し、真の企業価値に影響を与えることになるでしょう。合併・買収に関係する企業においてはAML/CTFの問題を考慮するためにも専門家のアドバイスを求めることを推奨します。
5. AML/CTFプログラム
AML/CTFプログラムを文書化するという必要条件により、企業は新制度の下ではあまり身動きが取れなくなります。これは当局に法令遵守を実証しなければならないからです。当局がプログラムに即してその企業を審査することができるように、AMLプログラムは文書化されていなければなりません。それにより、当局は企業が申告したプログラムを考察し、彼らが見つけた事項と比較することができるようになります。もし企業が行うべきことを実行していなかった場合、その企業は法令遵守に違反していたことになり、自社基準に反していたと容易に判断される可能性があります。
結論
法令不遵守による個人的・企業的コストという点で、豪州の取締役にとってAMLは今年の主な課題になるでしょう。
取締役会が熱心にこれらの問題を理解しようとしない限り、企業はAMLプログラムを過剰設計してコストを無駄にし、顧客を失ってしまうか、過小設計をして規制当局に悩まされ、多額の罰金を支払い、風評を落としてしまうことになります。
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