国際ニュース反射鏡
- ヒマラヤの王国で民主選挙 [2008/4/29]

ネパールとブータンの場合
4月10日、ヒマラヤの王国、ネパールで9年ぶりに国政選挙。国王の圧政に反対する武装勢力の共産党毛沢東派(マオイスト)との10年間の内戦が、やっと終わって制憲議会選挙にこぎつけた。南西アジアの最貧国が民主化への一歩を踏み出す。隣のブータン王国でも初の総選挙。秘境の王国に吹く政治近代化を現地にみた。
筆者紹介・青木公(あおき・ひろし)朝日新聞社友。日豪プレス創刊時に朝日新聞シドニー支局長。定年後、東南アジア、中南米、アフリカ大陸などの途上国を毎年、訪問・取材。現在、国際協力機構(JICA)サポーター。著書に『ODA最前線』『中高年はつらつと海を渡る』『ブラジル大豆攻防史』ほか。海外日系紙に寄稿
写真:首都カトマンズ都心の街並み
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| 「これが日本から供与された投票箱ですよ」とJICAネパール職員(中央)と話す選管局長(左) |
08年1月下旬、筆者はヒマラヤ観光・登山シーズンのネパールにトレッキングのため訪れた。標高1,400メートルの首都カトマンズは、人口集中と中古車によるスモッグで、雪の峰々がかすむ。乾季に小雨で、水力発電は不足で、停電は1日6時間。ガソリン高などで、集会やデモがあって交通マヒにも出会った。
ミャンマーでは政治集会やデモも軍事政権によって規制されているが、ネパールでは北部の山村でも、電柱に選挙公報ポスターが貼られ、カトマンズでは政治集会が催され、自由の風が吹いていた。
現国王の強権統治に武力で挑んだ共産党毛沢東派。マオイストと聞くと、北隣の中国と縁がある勢力を連想するが、中国政府が否定する通りに、共産党主義グループとは言えず、国王や政治情況に改革を求める若い知識層も含めた、世直し勢力。国軍と武闘を繰り返し、民衆の被害者も多く出たが、06年に停戦協定ができ、国王の退位と民主憲法を作る議会選挙にこぎつけた。
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| ネパール北部ムスタン地方の山村。電柱に広報ビラが貼られ… |
内戦終わり9年ぶり投票
日本はネパールへの支援主要国で、内戦が終わると国連ネパール支援国のメンバーとして、07年春からマオイストの駐屯地で武器監視のため、自衛官6人を派遣した。国際協力機構(JICA)は、選挙業務の研修のため、ネパール中央選管の幹部を日本に招いて、日本の地方選挙運動や、投・開票の現場を見聞させ、9年ぶりの選挙がスムーズに進むように支援。透明で軽い投票箱を数万個、贈った。それでも、政党間の争いで選挙は2回も延期され、やっと4月実施へ。
東京や愛知で、日本の選挙制度や、選挙運動を見聞したネパール選管の幹部に、どのような選挙事務の改善が進んだかを聞いた。
「日本では大都市でも数十分間で開票がすむのに驚いた。投票所ごとに開票するのは止めて、投票箱を1カ所に集めて、票を数える」
「有権者に、投票所への“招待状”を出して、投票に来てもらうようにする」
「女性も投票所に来られるように、女性の投票立ち会い人を増やす」
「日本から贈られた投票箱は軽くて運搬がしやすく助かった。古いのは男でも1人では持ち上げられなかった」
「日本のように政党助成金があれば、政治活動はより活発になるだろう」
若い選管職員の中には、選挙そのものを経験したことがない世代もいる。有権者の識字率は低いので、選挙があるのを知らない社会だから、国際支援は欠かせない。
投票用紙の印刷には、アメリカがインド製の最新印刷機を供与。隣のインドは、カトマンズ都心区に限るが電子投票機を贈った。援助合戦だ。先進国の援助がなければ、政府の財政が成り立たないので、民主的な選挙を行う経費もまかなえない。

ブータンでは王室主導
ところで、ネパールの東隣のブータン王国では、3月24日に初の下院選挙が行われた。国王・王室自体が、選挙と憲法制定を国民(人口70万)に呼びかけ、「模擬投票」をやったり、自由選挙の広報を06年以来、進めてきた。ワンチュク前国王は、国民総生産(GHP)より国民総幸福(GNH)という構想を打ち出し、指名制の国会を、選挙制にする施策をとって、現国王に引き継いだ。国王といえば、強権や腐敗がつきもので、ネパールでは失政が王室廃止につながった。ブータンの王室主導の民主化は、実験的ともいえる。
2つの王国は、インドと中国という2大国に挟まれた微妙な位置にある。ネパール人は、インドへの出入りは自由。ヒマラヤ越えで中国製品は溢れている。中国・チベット自治区では反中国の騒乱が起きた。ブータンは、ヒマラヤの雪どけ水による水力発電をインドに売って、自給自足の経済を保っている。大国のはざまの小国として、独立、自立を守っていくのは、容易ではない。国際社会に支えてもらうには、民主化、選挙が欠かせないのだろう。
クリントン、オバマのハリウッド風の予備選ほど注目は浴びないが、国家の未来をかける選挙があるのを知ってほしい。
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