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    ニュース解説
     - 見えない解決策−捕鯨問題  [2008/3/17]

ニュース解説
強硬な豪州政府、両国民の感情悪化も

時事通信社シドニー支局:犬飼優

 良好であるはずの日豪関係。これに日本の調査捕鯨が大きな影を落としている。昨年末の総選挙の結果、反捕鯨で強硬な労働党政権が発足し、反対姿勢を強めているためだ。将来的に商業捕鯨を再開させたい日本と、「1頭も殺してはならない」と主張する豪州で議論は平行線のまま。豪州の一部メディアは異常とも言える反日キャンペーンを展開している。両者の衝突が長引けば、豪国民の対日感情だけでなく、日本国民の対豪感情も悪化する恐れがある。

◆捕鯨船を監視◆

「あれは調査ではない。虐殺だ。残酷かつ野蛮な行為だ」−−。豪州のピーター・ギャレット環境相は昨年12月19日、こう言って日本の調査捕鯨を激しく非難した。
 政権発足からわずか2週間後。ラッド労働党政権は選挙前の公約通り、南極海で操業する日本の調査捕鯨船を税関船を使って監視すると表明した。写真と映像を撮影し、それらを証拠に、国際司法裁判所に調査捕鯨の違法性の提訴を検討するという。会見にはスティーブン・スミス外相も同席し、捕鯨阻止に賭ける新政権の意欲を示した。
 南極海での調査捕鯨は毎年12月から翌3月まで行われる。今シーズンは例年のミンククジラ(捕獲数850頭前後)などにザトウクジラ(同約50頭)が加わる計画だったが、日本政府は豪州の発表から2日後の12月21日、ザトウクジラを捕獲対象から除くと発表した。
 ザトウクジラは豪州では東部沿岸などでホエール・ウォッチングの対象となり、観光資源になっているためで、日本政府が豪国内の反対の声に配慮した形だ。

◆冷静な議論にならない豪州◆

「感情的にならず、専門家同士で冷静に議論していくことにしましょう」−−。スミス外相は1月末の訪米の帰途、日本に立ち寄り、高村正彦外相と会談した。ラッド政権発足後、面と向かう初の日豪外相会談だ。両氏は捕鯨問題で意見の相違はあるものの、これが両国の良好な関係に影響を及ぼさないことを確認した。
 ところが、そのわずか1週間後。反捕鯨キャンペーンを続ける大衆紙デイリー・テレグラフ紙の一面にスクープ写真が大きく掲載された。日本の調査捕鯨船「日新丸」がミンククジラ2頭を捕獲し船内に収容する様子が写っている。同紙はこの2頭を母と子として断定。見出しも「これが調査と言えるのか」として、調査捕鯨が残忍な行為であるかのように報道した。
 この写真は豪州政府の監視船が撮影したもので、同紙に掲載された後、映像とともにほかの報道機関にも公開され、世界中に配信された。日豪の外相会談で「感情的にならない」ことで合意したはずが、ギャレット環境相は記者会見し、「この写真を見て、悲しさと同時に気分が悪くなった」とまで語り、国民の反捕鯨感情を煽る行為に出た。
 豪州国内だけではない。欧州連合(EU)欧州委員会は、声明を発表し、「テレビ画面に映し出された映像によって、科学調査を隠れみのに、捕鯨に対する国際的な禁止措置を軽視する国(=日本)の存在が再認識させられた。欧州連合(EU)の加盟国は、クジラ類の保護のために力を合わせなければならない」と、欧州の反捕鯨国を勢い付けてしまった。 
 豪側の対応に対し、若林正俊農水相は「調査船の写真などが出て、決して冷静とも思えないコメントが出されている。外交ルートを通じて、我が方としては遺憾(いかん)の意を表明し冷静に対処してもらいたい」と不快感を示した。

◆前政権は政治、経済関係を優先◆

 日本は「調査捕鯨」をクジラの生態系を調べるため、捕獲つまり殺して行う必要があると主張している。これに対し、豪州は殺さなくても調査は可能との立場で、両者は「殺す」かどうかの1点で大きな違いを見せている。
 日本は商業捕鯨の再開に向けた調査捕鯨。このため、「殺さない」調査捕鯨は、商業捕鯨の断念につながり、日本政府としてはとれない選択だ。どちらかが譲らなければ、両者は対立したままとなる。
 しかし、この隔たりは今に始まったことではない。ハワード前政権の時も同じだった。ただ、前政権は日本との経済、政治関係を優先した。前政権は「捕鯨問題の解決は難しい」と判断したのか、この問題ではなるべく両国間に波風を立てず、避けていた節がある。
 対米関係を最重要視するハワード前首相は、米国と同盟関係にある日本との政治関係を「アジア太平洋で最も信頼できるパートナー」として位置付けた。
 05年2月、小泉純一郎首相(当時)がイラク南部に駐留する自衛隊の警護を豪軍に要請した際は、即座に快諾した。
 また、昨年3月には自衛隊と豪軍の関係強化を図る「日豪安保共同宣言」に両国首脳が署名。日本が米国以外と安保分野で協力関係を結ぶのは初めてで、日豪の政治関係は過去になく親密になった。
 これに対し、ラッド政権は前政権の「米国追随」から脱却し、米国には是々非々で対応する「対等外交」を進めようとしている。その方針から言えば、日本はハワード政権下ほど重要視されていない。それが、捕鯨問題での対日強硬策としても表れている。

◆裁判に負ければ、捕鯨にお墨付き◆

 ラッド政権は監視船によって集めた証拠をもとに国際司法裁判所に提訴を検討している。
 豪州政府が何を根拠に違法性を主張するかはまだ明らかになっていないが、仮に提訴すれば、日本政府は「調査捕鯨は国際捕鯨委員会(IWC)によって認められている権利で、合法だ」と主張することになる。
 ただ、豪州側にとって、国際司法裁判所への提訴は大きなリスクを伴う。裁判に負ければ、国際司法裁判所が「調査捕鯨は合法」という「お墨付き」を与えることになり、逆に豪州政府は窮地に陥ってしまう。ラッド政権はそのリスクを冒してまで裁判に踏み切るのか。
 そもそも、捕鯨船の監視の公約は、ラッド労働党が当時のハワード政権の捕鯨対策が「手ぬるい」として選挙直前に急きょ出してきたもので、熟慮した結果でない感がある。その証拠に公約では監視船に豪軍(ADF)の船を使うとしていたが、さすがにそれは問題であるということで引っ込め、税関船になった経緯がある。
 ラッド政権はこのまま対日強硬策を続けるのか。日本にとって捕鯨に関してはハワード前政権のスタンスが理想的だが、そこまで行かないまでも、ある時点で矛を収めるのか、今後の対応が注目される。

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