豪州国内線の航空事情
- タイガー・エアウェイズ [2008/3/13]
タイガー・エアウェイズ参入で
本格的な格安航空時代の到来か
文=木村哲郎ティーグ
好景気による物価上昇の続くオーストラリアで、確実に値下げの続いている“商品”がある。国内線の航空料金だ。路線によっては、1990年代終わりの半額を割っているものもある。その背景には、格安航空会社の躍進が挙げられる。簡略化したサービスとインターネットを中心とした販売戦略でコストを徹底的に削減。利用客の求める料金の安さを武器に、オーストラリア国内中に格安航空会社の路線が広がった。シンガポールからの『黒船』タイガー・エアウェイズ参入を機に、オーストラリア国内線航空事情を考察してみたい。
(写真)市場に参入したシンガポール航空系のタイガー・エアウェイズ

著者プロフィル
木村哲郎ティーグ
(きむら・てつろう・てぃーぐ)
フリーランス・ジャーナリスト兼翻訳家。南オーストラリア大学大学院ジャーナリズム学科卒。日本語では環境問題やオーストラリア時事を中心に執筆。英語ではオーストラリアおよびニュージーランドの各新聞に日本関連の記事を出稿している。日刊ベリタ、オーストラリア通信員。
Web: www.nikkanberita.com/tets_kimura
カンタス・グループの格安航空会社ジェットスターの機体
タイガー・エアウェイズの旅客機内。座席にヘッド・カバーを付けないなどのコスト削減を徹底
ヴァージン・ブルー航空のボーイング737型機
▼格安時代への夜明けは業界2位だったアンセットの倒産
2001年9月14日。当時のオーストラリア航空業界で2位、日本に置き換えれば全日空にあたるアンセット・オーストラリア航空が、一夜にして事実上の倒産をした。1万6,000人の雇用が一瞬で失われ、オーストラリア史上最大で最悪の失業問題となった。
倒産の原因は、より大きくより華やかにを目指した、既存のやり方にのっとった経営戦略。90年代半ばから就航を始めたアジア各都市への国際線事業は失敗と言われながらも最後まで完全撤退をせず、シドニー五輪の公式スポンサー権取得も国内線が中心であったアンセットには意味のない投資にしか過ぎなかった。同社の資金は食いつぶされる一方であり、最終的には1日で130万ドルの赤字を計上していたとされる。
倒産直後にはカンタスがアンセットを救済買収する可能性も報道されたが、提示額が1ドルだとされたにもかかわらず、カンタス側はこれを拒否。時代はそもそも、従来の航空会社のあり方そのものに疑問を持ち始めていた。
アンセットの転落を助長させた要因の1つに、ヴァージン・ブルーの就航が挙げられる。同社は英国の大実業家であり、航空業界の風雲児でもあるリチャード・ブランソンが「オーストラリア国内の航空料金は高すぎる」と設立。ヨーロッパでは既に主流になりつつあった格安航空会社の“徹底的な合理性を追求した運営方法”を十分な資金力とともに採用。00年8月に運行を開始した。
機内での飲食は有料。家賃の高い市内中心部に販売オフィスを持たず、チケット販売はインターネットが中心。また航空機をボーイング737に限定し、メンテナンスの費用も抑えた。マーケティングも若者を強く意識したものであり、ビジネス客をターゲットとしていた従来の航空会社とは大きく異なった。
▼ヴァージン・ブルーの「既存化」も、ジェットスターが就航
ただ、アンセット倒産により、ヴァージン・ブルーは一晩で「チャレンジャー」から「オーストラリア第2の航空会社」へと、いやがおうにも姿を変えることになった。マイレージ・プログラムなどビジネス客を意識したサービスも始め、一昨年には空港ラウンジの運営も開始。もはや、当初の姿であった一格安航空会社からは脱皮した感がある。
格安航空時代へと向かっていた流れは逆行しつつあったのだが、既存の生き残りであるカンタスは04年3月、格安航空ジェットスターの運行を開始。カンタス・グループを、ビジネス客や裕福な客層をターゲットにしたカンタスと、手軽な料金で誰もが利用可能なジェットスターに二分させ、航空料金でヴァージン・ブルーを選ぶ顧客をジェットスターで取り返しにかかった。
ジェットスターが本社を置くメルボルンでは、通常メルボルン空港と呼ばれるタラマリン空港だけでなく、より空港使用料の安い、市内中心部から50キロ離れたアバロン空港も積極的に使用。値段の安さで勝負をかけた。
▼『黒船』タイガーの就航−本格的な格安航空時代の幕開けか
昨年になり、オーストラリア国内線事業に乗り込んできたのは、シンガポール航空傘下のタイガー・エアウェイズだ。タイガーはメルボルン・タラマリン空港を国内線唯一のハブ空港とするハブ・アンド・スポーク方式を採用し、今年3月までに国内12都市に就航。空港使用料の高いシドニーやブリスベンへの進出を否定するなど、オーストラリア生まれの航空会社であれば考えつかないであろう経営戦略でコスト削減を追求している。
昨年、メルボルン―ダーウィン便を片道79ドルで発売した時は、ジェットスターからも「安すぎる」と批判を受けたくらいだ。
そのジェットスターは、期間限定のプロモーションなどでタイガー社に対抗しつつも、アラン・ジョイスCEOが今年1月、「料金が安ければ競争に勝つというわけではない。利用者は世評も気にする」と発言。安全への評価など信頼性の高いカンタス系のブランド・ネームでタイガーに対抗していく姿勢を示している。
反するタイガー側も、親会社は高い安全性が裏付けられているシンガポール航空であり、オーストラリア政府による安全基準はもちろん満たしている。コスト削減には、使用航空機をエアバスA320に一本化し、短い折り返し時間を徹底。ヘッドカバーのない座席を使い、着陸前には乗客にも座席周りの清掃を呼びかけている。
タイガーは今後、ゴールドコーストを第2のハブにするのではと噂されており、これが決行されれば、シドニーとブリスベンを除く国内各都市から、“文化の首都”であるメルボルンと、“国内随一のリゾート地”であるゴールドコーストに「飛行機1本」で格安に足を伸ばすことが可能になる。
ジェットスターも、アバロン空港からタイガー社の就航していないシドニーおよびブリスベンへの増便を発表している。
格安航空会社がネットワークを広げるヨーロッパや東南アジアでは、新たな客層が飛行機を使い始め、庶民の生活が変わったとも言われている。有給休暇やスクール・ホリデーをフルに活用した週単位での休暇を好むオーストラリア人だが、格安航空の発展が続けば、1泊や2泊の短期旅行を楽しむことにもなり、オーストラリア人の生活様式が変わっていくのかもしれない。
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