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- オーストラリア経済の動き(2007年12月〜2008年1月) [2008/5/15]
鳥居税務会計事務所代表 鳥居育雄

サブプライム問題による損失と世界経済
1900年代の日本の銀行が抱えた不良債権の金額と同じように、サブプライム問題による金融機関の損失額は、発表の度ごとに金額が増加している。この問題が明らかになったころには、2,000億米ドル(約20兆円)と言われたものが、4,000億米ドルとなり、4月11日に国際通貨基金(IMF)から公表された数字では、最大1兆米ドルとなる可能性が指摘された。
サブプライム融資に関連する債権は、さまざまな債券に形を変えて世界中に拡散しているとされているので、その影響の把握が難しいという事情もあるが、同時に、金融機関側が住宅価格の回復を期待するという楽観的な見通しを持っていることも、日本の経験と同じであろう。
欧米の金融機関は、日本の大手銀行グループに比べて厳格な経営方針や慎重な融資姿勢を採っているという評価が事実ではないことが明確になった。米国最大の金融グループとされるシティ・グループのサブプライム融資に関連する累積損失額は400億米ドル(約4兆円)を上回っている。ただ、日本の金融機関と異なるのは、早期の人員削減による経営の立て直しという、素早い対応策を採れることであろう。同グループは、世界中で1万人に及ぶ人員整理を明らかにしている。
日本の金融機関の被る損失額は、現時点では1兆2,000億円と予想されており、就任早々の白川日銀総裁も、銀行経営に大きな影響を与える問題とはならないとの認識を示した。しかし、地方銀行や信用金庫・組合の中には、資産規模に比べて過大の損失額を抱えるものもあり、必ずしも楽観的にはなれない恐れもあろう。
このような大きな金融機関の損失が米国経済に与える影響は、金融政策や財政政策のフル稼働にもかかわらず、経済成長の減速や景気後退となって現われ、それがひいては、世界経済にも大きな波及をもたらすことになる。4月始め、国際通貨基金は、今年の世界経済の予想成長率を3.7%と下方に修正した。昨年10月の時点では4.8%とし、今年1月では4.1%としていたので、このような大きな下方修正の要因には、急激な原油高とともに、サブプライム問題があることは明らかである。
株式投資関連企業の経営破綻続出
株式市場の全体の動向を示す普通株価指数で見ると、豪州株式価格は、最高値であった昨年11月の時点より20%程度値下がりしている。これだけの下落となれば、それなりの大きな影響が出てくる。既に株価の不振を背景に、経営破綻を迎えた企業があるが、特に、株式投資に直接関連する業界では、その風当たりをまともに受けている。
株取引仲介業のTricom社が売買代金の決済が所定通りにできず、遅延した事態となったが、今度は、株式投資仲介・資産運用企業のOpes Primeグループが経営破綻となり、管財人の手にゆだねられることになった。
同グループのビジネス・モデルは、従来特定の資産家に限られていたマージン・レンディング(株式投資資金の大半を借りて投資を行い、多額のキャピタルゲインを目的とする。リターンも大きい代わりに、リスクも大きい投資手法)を一般の人も参加できるように、銀行などからの融資を一体化したものであった。通常のマージン・レンディングでは、取得した株式は投資者の所有となり、それが融資への担保となったが、このビジネス・モデルでは、自動的に銀行などに対する担保物となり、株価が一定水準を下回るようになると、銀行側が担保権を行使し、株式を売却する仕組みであった。
ただし、この点は、投資家には正しく説明されていなかったようである。投資家は、経営破綻した後になって、株式が売却されており、Opes Prime社に対する無担保の債権者であることを知らされた形となった。
Opes Prime社の経営破綻問題の発端は、イースター休暇前に同社の会計処理に不自然な点があり、多額の穴が空いていることを、主力銀行であるANZ銀行などが知ることに始まった。同銀行は、直ちに管財人を任命し、Opes Primeグループは、事実上、経営破綻となった。ANZ銀行側は、素早く担保権を行使し、株式を売却することで未返済資金の回収に乗り出したが、この行為が物議を呼ぶことになった。株式を所有すると主張する投資家が売却の中止を求める仮処分を申請し、これがNSW州最高裁により一部認められたからである。
また、一連の騒動の間には、有名スポーツ選手や芸能人の弁護士として知られているクリス・マーフィー氏が、投資家として多額の損失を被った人として登場するというおまけまでついた。同氏は、Opes Prime社長との懇意な関係から、通常は75%が上限とされる借入率(投資額全体に占める借入金の割合)が95%であったことも判明し、特別な取り扱いを受けていた。マージン・レンディングでは、株式時価が一定金額を下回った場合には、投資家に連絡し、追加担保を出さない限り、24時間以内に株式を売却して、資金を確保するのが通常であるが、クルス・マーフィー氏の場合には、これも発動されなかった。
Opes Primeのケースについては、豪州証券投資委員会(ASIC)や豪州証券取引所(ASX)がもっと早くから問題を認識すべきであったとの批判が出されている。Opes Primeは未上場企業であるが、1,200人を超える投資家を抱えており、これらの機関は、当然、問題の所在を知っていたはずだからである。
担保権を行使して貸付債権の回収を図ったANZ銀行は、現在の価格で株式を全部売却すれば損失を出さないことになりそうである。しかし、ANZ銀行は先のTricomの場合に続いて融資先企業の経営破綻を迎え、その後のあわてふためいた行動とあいまって、金融機関としての定評に大いに傷がつく結果となった。同銀行は、ジョン・マクファーレン前頭取の下、業績を拡大したが、その過程で緩過ぎた基準による融資があったのではないかとの指摘を受け、マイケル・スミス頭取は、社内調査委員会を発足させ、問題点の摘発に乗り出すことになった。
Opes Primeグループに投資した人は、現時点では、3億5,000万ドル程度の損失となっている模様である。全体の投資額は約1,500億ドルとされており、株価の下落率を上回る損失を出している。通常のマージン・レンディングとは異なる仕組みについての不十分な説明や担保権行使の違法性を訴えるなどの法的手段は残されているが、投資家による損失の負担は免れないであろう。リスクの高い投資とは承知の上であったが、今後は、より慎重な姿勢が求められる。
4月13日には、別のマージン・レンディング専門会社Lift Capital社も6億5,000万ドルの負債を抱え、事実上経営破綻した。このほかにも、いくつかの企業が破綻寸前にあるとされている。株式投資の持つリスクをこの株価下落は教えているようである。
マードック家とパッカー家の確執の果て
シドニーでのメディア事業を舞台にルパート・マードック氏と故ケリー・パッカー氏を頂点とする、マードック家とパッカー家のメディア主導権を巡る激しい戦いは、アデレードを拠点としていた故キース・マードック氏の事業を引き継いだルパート・マードック氏がシドニーに進出して、故フランク・パッカー氏と激しくやり合い、その後、子どもであるケリー・パッカー氏とも対立したが、3代目に当たるロクラン・マードック氏とジェームズ・パッカー氏の間では共同事業を行うまでに変化していた。
両氏が出資した電話事業ワンテル社は、2001年に経営破綻し、両者合わせて10億ドル近い損失を出したものの、両人の関係は良好と伝えられていた。その後、2人をめぐる環境は大きく変化した。
ロクラン・マードック氏は、ニューズ社経営の後継者とみられていたが、父親と離れてオーストラリアに戻り、小規模な投資会社を経営し、他方、ジェームズ・パッカー氏は、父親の死亡後、企業経営の舵をカジノを中心とするギャンブル事業に大きく切った。それぞれが偉大な企業経営者である父親への複雑な思いを背景に、両者の意図が再び合致したのが、チャンネル9や出版事業を行っている上場企業Consolidated Media Holdings (CMH)の私的会社化であった。
すなわち、ジェームズ・パッカー氏は、持株を売却して得た資金をカジノ事業に振り向け、ロクラン・マードック氏は、メディア事業で采配を振るうことができるようになるというこの構想は、今年1月に明らかにされ、市場ではそれなりに評価された。
問題は、32億ドルという所要資金の調達であり、両者は米国の投資会社SPOPartnersの支持を取り付けたとしていた。しかし、その直後から、最悪のタイミングで世界中の株式市場は混乱状態となり、この構想に暗雲が漂い始めた。
SPOPartners側は、世界中の信用収縮による影響、このところの豪ドル高や、特に視聴率競争で惨敗気味のチャンネル9を柱とする豪州メディア事業の将来性への懸念を理由に、出資を取りやめることにした。ロクラン・マードック氏は、米国での新出資者をあわてて探し、設立間近のProvidence Equity Partnersを見つけたものの、今度は、ジェームズ・パッカー氏が持株率を下げるなどの条件変更を主張し、また、売却する株式の価格で折り合うことができず、この構想は最終的に頓挫することが4月7日に明らかとなった。
対外環境の変化という、不可抗力の要因はあったものの、父親世代の実績と比較すると、両者が事業遂行に対する執念や力強さに欠けていることは明白であった。ロクラン・マードック氏は、最後までの詰めに甘さがあり、ジェームズ・パッカー氏は、わずかな価格差に拘泥し過ぎた。
マカオやラスベガスでのカジノ事業に大きな投資を行っていて、自分の事業に集中できるジェームズ・パッカー氏と異なり、現時点では、大きな足場を持たないで、オーストラリアでのメディア事業に再起を掛けているロクラン・マードック氏は、別の起業構想を持っているとされている。両者の友情がどうなるのかは分からないが、少なくとも、将来的に再び共同事業を行うようになるまで修復するのは難しいであろう。
両者とも、偉大な父親の業績を超えられるかどうかは、なお今後次第であるが、今までの実績では極めて困難なようである。
このほかの経済ニュースとしては、製鉄用石炭の新年度価格が一気に3倍増となったこと、自動車での小型車志向がさらに強まり、今年3月までの3カ月間での新車販売ではトヨタのカローラが初めてホールデン社のコモドアーを上回ったこと、自動車車種の削減を実施したバトン・プランで日本にも名を知られたジョン・バトン元連邦産業相が死亡したことなどが大きな話題となった。
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