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- 注目される中央銀行の動き(2008年2月〜3月) [2008/4/19]
鳥居税務会計事務所代表 鳥居育雄
注目される中央銀行の動き
このところ、世界各国の中央銀行の動きが大きな注目を集めている。豪州連邦準備銀行(連銀)は、インフレの高まりを懸念して公定歩合を2月、3月と連続して引き上げ、住宅ローンや個人ローンの支払いに苦しむ庶民の怒りを買う羽目になっている。米国の連邦準備制度理事会(FRB)は、サブプライム問題を契機とする信用収縮、景気後退に対応する形で公定歩合や政策金利を再三にわたり、大幅に引き下げ、実質金利がゼロとなる事態を導いている。英国のイングランド銀行は、中堅銀行を買収して国有化するなど、経営破綻に瀕している金融機関の救済に奔走しているし、同銀行を含め、欧州の各国中央銀行は、金融市場に資金を供給することに懸命となっている。他方、日本銀行では、退任する福井総裁の後任人事が国会での承認を得られず、日銀総裁が空席になるなどの混乱が生じている。世界中を駆け巡る金融の混乱に際し、各国中央銀行の動きがこれほど注目されることも少ないであろう。今回は、特に、日銀総裁の任命がこれまでも政治的であったことを中心にお伝えしたい。
中央銀行の役割
オーストラリアの公務員で最も力があると目されているのは、連邦財務省の事務次官(Secretary to Tresury)である。連邦財務省は、経済政策全般と連邦予算編成に関する権限を持っているからである。以前の日本の大蔵省事務次官も同じであった。
しかし、最高の給与をもらっているのは、連銀総裁と言われている。連銀総裁の年間報酬は50万ドルを超えており、30万ドル超とされる連邦首相よりも高額である。日本でも、日銀総裁の給与は、福田首相よりも多いはずである。
このように、中央銀行総裁の給与が高いことは、その担当する職務が極めて重要であるからにほかならない。一般に、中央銀行の役割とされているのは、発券銀行としての機能(唯一の紙幣発券権限)、銀行の銀行としての機能(通貨量の適正と金融システムの安定など)や政府の銀行としての機能(政府の資金の出し入れの管理や外為管理など)などがあるが、特に重要なのは、金融政策を引き受け、経済全体の安定や成長に責任を負っていることである。
また、近年では、経済の国際化に対応し、為替や国際金融の面で世界各国との協調や連携も重要な役目になっている。G7といわれる主要7カ国財務相・中央銀行総裁会議の一員である日銀総裁は、日本の財務相と同格に扱われるほど、重要な地位を占めている。
連銀総裁の適格性と理事会
通常、連銀総裁の必要な資格として、次のように言われている。
・大学の経済学部を優等な成績で卒業していること
・経済学修士以上の学位を持っていること
・国際通貨基金(IMF)などの国際機関での勤務実績があること
このほかには、年齢的には就任時50歳前後と、日銀総裁と比較すると、10歳以上若くなっている。
グレン・スティーブンス現総裁やイアン・マクファーレン前総裁は、これらの要件をすべて満たしていた。その前のバーニー・フレーザー元総裁は、連邦財務省事務次官からの転身であった。
総裁の任期は7年と長いが、退職時でもまだ60歳前と働き盛りであり、マクファーレン氏のように、その後民間企業の取締役に就任することも普通である。
日銀と最も異なるのは、政策の最終決定権を持つ理事会の構成メンバーであろう。連銀理事会は9名で構成されているが、連銀総裁・連銀副総裁の2名と、連邦財務省事務次官は、あて職(ex fficio自動的に就任)となっている。ほかの理事6名は、著名な企業経営者、学者や有識者から連邦財務相が任命する。現役の企業経営者も含まれており、日本の常識からすると、インサイダー取引などの利害関係があるのではないかと感じられるが、あまり問題とされていないようである。ただし、数年前に、脱税の疑いが指摘され、理事が辞職したことがあった。
これに関連して、今回新たな動きが見られたのは、労働組合出身者の連銀理事就任である。前のキーティング労働党政権時代には、労働組合出身者として、ACTU(豪州労働組合評議会)の実力書記長であったビル・ケルティ氏が理事の1人であった。今回の、ラッド労働党政権の発足により、現職女性理事の退職が今年5月に予定されているので、現ACTU議長のシャロン・バロウ氏(女性)を推す動きが強くなりそうである。
外部理事は、当然、非常勤である。理事会は、原則として、毎月第一火曜日に開催され、連銀総裁が議長を務める。議決内容は、当日午後に公表される。
日銀総裁の適格性
連銀総裁の適格性と比較してみると、
・これまでの総裁は、法学部出身者が多かった。
・戦前は、企業経営者その他異色の経歴を持つ人もいたが、戦後は、同質の人である。
・国際性が豊かな人は、まれである。
法学部出身者は、法律的、行政的規制という点では、優れていたかもしれないが、経済政策の中で金融政策の比重が大きくなり、規制よりも、調整や誘導という面が強くなるにつれて、より経済学や金融の分野で識見のある人が求められよう。
日銀総裁人事を巡る諸問題
日本銀行は、平成10年施行の新日銀法により、法律的には、独立性が強固にされた。それまで、日銀は、大蔵省日銀局、果ては、大蔵省常盤橋出張所(日銀の所在地)とも揶揄されるように、大蔵省(現財務省)の掣肘を強く受けていた。
日銀総裁の人事については、大蔵省出身者と日銀出身者が交互に就任するという、奇妙な慣例が昭和40年代からでき上がった。この場合、大蔵省出身者は、事務次官に限られた。事務次官には、予算編成を担当する主計局出身者が多く就任したので、この慣例が定着した以後のこの大蔵省出身者3名の内、金融行政に経験が深い者は1名だけで、後の2名は、金融にはほとんど経験のない経歴の持ち主であった。
今回の人事問題で、最初に同意を求められ、拒否された武藤敏郎氏やその後の田波耕治氏も、課長時代に金融行政を経験しただけであり、金融制度に精通しているとは言い難かった(もっとも、武藤氏はその後、日銀副総裁として5年間の実績があった)。
要するに、国家公務員としては、最高の力を持つとされる財務省事務次官の、退職後ポストとして、日銀総裁は最高のものであり、大蔵省(その後に財務省)事務次官を2年半という、最長期務めた武藤氏の落ち着き先は日銀総裁しかないというのが、財務省サイドからのごり押しの理由である。
歴史の皮肉というべきか、福田現首相の父親である福田赳夫元首相も、日銀総裁の人事では煮え湯を飲まされた経緯がある。昭和53年、当時の福田首相は、同じ群馬県出身で、大蔵省銀行局長から事務次官を歴任していた澄田智氏(その後第25代日銀総裁に就任)を日銀総裁と考えていたが、自民党総裁選挙で大平正芳氏に敗れ、下野した。大平首相は澄田氏ではなく、日銀副総裁の前川春雄氏を総裁に、澄田氏を副総裁に任命した。大蔵省・日銀のたすきがけ人事(前任の森永氏は大蔵省出身)を強調したが、福田氏へのしっぺ返しであることは明らかであった(前川氏と澄田氏は、その前の日本輸出入銀行では、逆に、副総裁、総裁というポストであった)。
福田現首相は、このような政治的色彩が強く出る日銀総裁人事で、時代の変化を悟らずに、以前の感覚で進めたのが最大の敗因と言えよう。
また、日経新聞などのマスコミが、財務省出身者が中央銀行総裁に就任する例は外国にもあり、おかしくはないと指摘しているのは、日本の行政システムや帰属意識の実態を考慮していないと言えよう。組織への帰属意識が薄く、私益を優先する欧米と、組織への帰属意識が強烈で、場合により、私益よりも組織の利益を優先する傾向がある日本、特に行政組織では、財務省出身者の日銀総裁が往々にして、自己の属した組織のために行動するのは、経験上や現実の行動からも明白である。
新日銀法の下での日銀
新しい日銀政策委員会の制度は、平成10年に施行された新日銀法に基づくものであり、金融政策決定過程の透明性を確保する目的であった。言い換えればそれまでの、旧日銀政策委員会の決定が不透明であり、旧大蔵省の影響下にあったことを物語るものであろう。
日銀政策委員会は、総裁、2名の副総裁と6名の審議議員から構成される。審議議員は、経済や金融に関して識見や学識を持つ者から内閣が任命し、国会の同意が必要とされる。
金融政策決定委員会は、原則として、毎月2回開催され、必要に応じて、関係大臣やその代理人が出席できる(議決権はない)。会議の議事録も、迅速に公表されることになっている。
金融政策を的確に発動し、経済の安定や成長に寄与できるようにし、外国の中央銀行総裁と互角に渡り合える日銀総裁の誕生が望まれる。
連銀による公定歩合の引き上げ
連銀は、3月4日に開催された理事会で、公定歩合(キャッシュ・レート)を0.25%ポイント引き上げ、7.25%とすることを発表した。これで2002年5月から0.25%ポイントの12回連続した引き上げとなり、3%ポイント上がったことになる。連銀は、その理由として、
・需要が生産を上回る速度で拡大していること
・タイトな労働市場が持続し、人材不足が深刻化していること
・資源ブームの影響が続き、交易条件の向上により、所得の増加があること
などを指摘し、現在の物価上昇率がさらに上がる恐れを防止するためとした。
世界の金融市場での信用収縮から、既に国内でも金利が引き上げられているとしたが、その影響はまだ、予測できないとしている。その一方で、これまでの引き上げにより、需要の減速も見えてきており、来年には、インフレ傾向も収まる見通しを示している。
この見通しが正しいとすると、公定歩合の引き上げも今回が最後となり、次回は引き下げとなることもあろう。これから年末までが、今後の金融政策を判断する山場となる。
豪州経済は、インフレ傾向を強めている中で、金利の引き上げが徐々に効果を発揮しているようであり、ナショナル銀行の業況判断調査によると、1月の業況判断は、ピーク時であった昨年半ばよりも相当に落ちている。また、求人状況も、2月には、ここ1年で初めての減少を記録した。総じて、豪州経済は、ピークを過ぎたと判断される。
このほかの経済ニュースとしては、企業の経営危機が続く中、米国での事業拡大を急ぎ過ぎた託児事業最大手のABCラーニング社が米国事業の売却に追い込まれたこと、資産長者番付が発表され、1位が指定席であったジェームズ・パッカー氏が第2位となったこと(トップは、鉄鉱石で財をなしたフォレスト氏)などが大きな話題となった。

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