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    STREAMLINE
     - オーストラリア経済の動き (2008年4月〜2008年5月)  [2008/6/26]

STREAMLINE鳥居税務会計事務所代表 鳥居育雄

オーストラリア経済の動き
(2008年4月〜2008年5月)

連邦予算案の発表と経済学の常識

 労働党政権による13年ぶりの連邦予算案(2008−09年度)が5月13日、ウェイン・スワン連邦財務相により発表された。キーワードは、「インフレ対策」と「勤労者所帯の保護」であった。ラッド内閣には、この2つの政策目標を両立するための予算案、より正確には財政政策が求められた。
 予算案編成の前提となる豪州経済を取り巻く情勢は、原油などの原材料の大幅な値上がりを背景にインフレが亢進していること、住宅ローン金利の引上げにより、活発であった個人消費に陰りが見え始めたこと、米国のサブプライム問題を契機とする国際金融市場の混乱により株価が大きく落ち込み、企業収益に黄色信号が点滅し始めていることなどが懸念材料となっている。他方、中国やインドなどの新興発展国からの旺盛な需要により、資源ブームはなお継続しており、既に史上最高水準となっている交易条件(輸出価格と輸入価格との比率)になお好転が見込まれ、豪州への収入増が予想されるという、恵まれた状況も存在している。
 大幅な税収増が見込まれ、黙っていても大きな財政黒字となる一方で、食料品やガソリンなどの日常生活費の値上がりに悩まされている勤労者所帯の現状を考えれば、この大きな財政黒字を利用して、所得税の大型減税や社会的給付の思い切った増額があるというのが一般庶民の期待であり、常識でもあろう。しかし、国民経済を増進し、長期的に国民生活の向上を目的とする、マクロ経済政策を提示する経済学の常識は、全く逆の、増税であり、財政支出の削減による、財政黒字のさらなる積み増しである。
 このジレンマに悩んだスワン財務相が採った予算案での処方箋は、中間的な、微温的なものであった。すなわち、財政歳出は前年度の1.1%増に抑えることで217億ドルの財政黒字を確保する一方で、先の選挙公約にも沿った形で、低中堅所得層を中心とする相当規模の減税を実施するというものである。おそらく、この予算案に対する一般国民の評価は「まあまあなもの」というものになるであろう。
 野党の自由党・国民党連合は、「労働党政権お決まりの大型歳出、大幅増税」と批判している。他方、エコノミストなど経済専門家の多くは、「減税に代えてスーパー繰入れにすべきで、歳出の削減が不徹底」としている。このような反対の評価を受けることに、この予算案の中途半端な性格が示されている。ずっと前から、インフレ対策を強調していたスワン連邦財務相としては、経済学の常識は十分理解しながらも、現実の政治の場では、妥協せざるを得なかったのであろう。
 客観的に見て、この予算案がインフレの歯止めとなり、金利の引上げ阻止に大きく貢献するとは考えにくい。


左からフォートエスキュウ・メタル社のスティーブ・アラード港湾長、アンドリュー・フォレスト社長、ブルース・マコマス運炭鉄道長
左からフォートエスキュウ・メタル社のスティーブ・アラード港湾長、アンドリュー・フォレスト社長、ブルース・マコマス運炭鉄道長



主な経済指標の動き(2008年4月)
  All Ords $US / $A TWI

\/$A

日経ダウ Topix
先月末 5414.5 90.95 68.3 91.98 12656.42 1230.49
月 末 5657.0 93.60 70.7 98.38 13849.99 1358.65
最 高 5687.7 95.05 71.3 99.10 13894.37 1361.75
最 低 5410.9 91.23 68.8 92.34 12917.51 1246.24

イエマNSW州首相
電力民営化で不退転の決意

 史上最高の原油価格をはじめとして、石炭価格の急騰など、世界的な需要の拡大により、エネルギー原料価格は今後ますます上昇することが見込まれる。これらをインプットとする電力も例外ではない。また、地球温暖化防止対策としてのコストを考慮すると、なおさらである。
 この価格上昇分は、最終的には消費者が負担することになるが、問題は、経営の効率化や技術革新により、このコスト増のうち、どれだけを吸収できるかであろう。経営の効率化という点では、経験的に公営よりも、民間部門の方が優れていることは明らかである。ここに、電力に関する発電・送電・売電という公共性の極めて高いインフラ施設を民営化する大義名分がある。NSW州の電力施設を民営化する構想は、もう10年来のものであるが、ここにきて、実現できるかどうか本当のヤマ場を迎えている。
 5月4日に開催されたNSW州労働党大会では、702対107という、圧倒的な大差で、電力民営化案が否決された。提案したモリス・イエマ州首相やマイケル・コスタ州財務相には、屈辱的な票差であった。それにもかかわらず、両氏は民営化推進を追求するとしており、5月15日に開催された議員総会でも、この方針を確認した。
 これまでの議論で、民営化を推進する側の主張は、次の通りである。

◆需要の増加、既存設備の老朽化による新規設備投資が140億ドル必要なこと
◆温暖化対策のための多額の投資や経費が見込まれること
◆売却による収入(150億ドルと推定)を交通、学校などのインフラ整備に使えること
◆民間部門の方が経営的に効率的であること

 民営化に反対する論拠としては、次のように主張されている。

◆民営下では、電気料金が上昇すること
◆公営電力会社からの配当金がなくなること
◆現在の経済情勢では、最大80億ドルの売却収入しか見込めないこと
◆基本的なインフラ施設は、州政府の管理下におくべきであること

 反対している中核的な勢力は、労働組合であり、結局のところ、民営化後の経営合理化による雇用削減を恐れていることに尽きるようである。NSW州の電力民営化では、当初の全面売却から、反対勢力を懐柔するために、配電関連設備の温存、リース方式への転換、ボーナスの支給など、構想が一歩一歩後退している。これ以上後退すれば、民営化に値しないばかりでなく、予定される売却収入も入らないことになる。
 1995年に当時の連邦首相で、全国的な電力線網の施設整備と卸売電力を売買できる電力市場の創設に関与したポール・キーティング氏は、新聞に投稿し、現在のオーストラリアの発電の大半は民間企業により行われていること、電力市場の創設により競争的になっていることを強調し、反対している労働組合の姿勢は、20世紀的で、時代遅れであると批判した。
 5月6日の新聞には、州政府がイエマ首相の署名入りの公開状の広告を掲載し、次の諸点を強調し、民営化への理解を求めた。

◆電力需要は増加しており、このままでは、供給不足になる懸念があること
◆送電施設の根幹部門は公有として残し、発電と売電に民間の投資を呼び込むこと
◆独立した監視機関により、電気料金などは規制され、消費者保護に資すること
◆発電所の職員は、5年間雇用が保証され、売電関連職員は、現状のままであること
◆売却収益は、公共サービスの向上に使用されること

 その戦闘的な発言により、党大会で反対派から罵声を浴びせられたコスタ州財務相をはじめ、イエマ氏やキーティング氏も労働組合運動に従事した経験があり、その恩恵により大臣という重職に就いたという経緯もあろう。したがって、現在の労働組合指導者から見れば、労働組合運動への裏切りということになるが、民営化というのは時代の流れである。
 イエマ州首相としても、大々的な新聞広告を出した以上、不退転の決意を示したものと言える。民営化案を審議する州議会では、反対に回る(Cross the floor)議員も予想される。
 イエマ氏は、5月15日に開催された閣議と議員総会で、民営化はリース方式ではなく、売却によるものであることを明らかにし、民営化に向けての固い決意を示した。就任後の総選挙では、何とか勝利したものの、医療、教育、交通などの問題で失政を繰り返し、存在感の薄かったイエマ政権が、民営化という乾坤一擲に出たものである。温暖化対策や排出権取引の導入により、エネルギー価格の急上昇が懸念される現在、全国経済の4割を占めるNSW州で電力民営化により電力料金の抑え込みに成功するのかは、豪州経済全体に与える影響も小さくないであろう。


鉄鉱石生産に
第4勢力の出現

フォートエスキュウ・メタル社のクラウドブレイク炭鉱
フォートエスキュウ・メタル社のクラウドブレイク炭鉱



 オールド・テクノロジーの代表とみられていた鉄鋼への需要がここ数年で急増している。中国やインドでの経済成長により、今後はますます重要が増加し、原材料である鉄鉱石、原料炭(Coking coal)や鉄スクラップをめぐって資源争いまで予想されている。
 以前は、需要者側である日本の大手鉄鋼メーカーが、供給者側との交渉により、各年度に鉄鉱石や製鉄用石炭のプライス・セッターの役目を果たしていたが、この構造は崩れ、中国が価格主導権を握り始めている。他方、供給者側でも、経営統合などにより供給元が集中する傾向がある。
 生産地が比較的散在している石炭と異なり、生産地が偏在している鉄鉱石は、この傾向が顕著であり、ブラジルのベイル社、英国・豪州のBHPビリトン社、リオ・ティント社が世界生産の7割を独占している。
 今後4番目の勢力として、ビッグ3に近づこうとしているのがフォートエスキュウ・メタル社である。同社は、WA州ピルバラ地区からの初めての商業用出荷をポート・ヘッドランド港で5月15日に行った。同社は、今後生産を順次拡大し、来年末までには年間6,000万トン、最終的には、2億トンの生産を目指しており、その時点で4番目の鉄鉱石生産者となる。
 社長であるアンドリュー・フォレスト氏は、鉱業での企業経営経験が非常に深い。以前には、ニッケル生産で名を挙げたアナコンダ社の経営者であったが、主導権争いに敗れ、去ったという苦い経験もある。その後、フォートエスキュウ・メタル社を立ち上げ、ピルバラ地区での鉄鉱石開発計画に参加し、採掘権を取得した。
 本格的な商業生産をする前から同社の株価は値上がりし、そのお陰で、36%の株式を保有するフォレスト氏は、ジェームズ・パッカー氏を抜いて、全豪一の資産を持つとも言われている。また、現在、同社会長であるハーブ・エリオット氏は、数々の企業経験があるが、1960年のローマ・オリンピック大会でのゴールド・メダリスト(陸上中距離)としても著名である。
 フォートエスキュウ・メタル社の経営上の問題点は、豊富な鉄鉱石資源を持つものの、輸送手段が確保されていない点であろう。この隣接地区では、BHPビリトン社とリオ・ティント社が鉄鉱石の生産を行っており、それぞれが積出港までの鉄道路線を保有している。
 フォートエスキュウ・メタル社は、このインフラの利用をめぐって両社と係争中であるが、この両社間で交渉されている経営統合の行方によっては、この裁判にまで影響が及ぶこともあり得る。
 同社の大株主である米国ヘッジファンドの保有株を中国企業が取得するとの話もあり、フォレスト氏としては、再度経営権が奪われることのないように、商業生産が軌道に乗ったとしても、安閑としてはいられないであろう。いずれにしても、資源をめぐっては、今後ますます、争奪戦の様相を呈してきているようである。

 このほかの経済ニュースとしては、大手銀行ウエストパック銀行とセント・ジョージ銀行が経営統合することを発表したこと、連邦予算案の発表で加入者の減少が見込まれる民間医療保険業界での経営統合が続出しそうなことなどが大きな話題となった。

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