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    STREAMLINE
     - オーストラリア経済の動き (2008年5月〜2008年6月)  [2008/7/20]

STREAMLINE鳥居税務会計事務所代表 鳥居育雄

オーストラリア経済の動き
(2008年5月〜2008年6月)

景気の減速が鮮明になりつつある豪州経済
 6月4日に発表された2008年3月四半期の国民所得勘定統計では、国内総生産の伸び率が0.6%という、大方のエコノミストの予想をはるかに上回る力強さを示したものとなった。史上最高値の原油高、世界的な金融市場の混乱の余波や特に国内金利の引き上げの中で、このような経済の勢いが続いていることで、インフレの昂進やさらなる金利の上昇があるのではないか、との懸念も生じている。しかし、仔細に状況を見ると、経済の減速傾向が一段と鮮明になったことは明らかである。昨年8月からの4度に及ぶ公定歩合の引き上げ(合計1%ポイント)の効果や世界的な金融市場の混乱と原油高の影響による世界経済の後退は、着実に表に出てきていると判断できる。

 四半期ごとの年間の経済成長率で見ると、昨年12月四半期の3.9%から3.6%に落ち着いていることが、まず指摘されよう。この2年間くらいは、干ばつを原因として、農業部門が経済全体の足を引っ張るという状況が続いていたが、水不足が緩和されたことで、非農業部門と農業部門との格差が解消され、昨年8月以降の連続した公定歩合引き上げの効果が目に見える形で表れている。昨年9月四半期以降の年間経済成長率は、4.3%、3.9%、3.6%と徐々に下がっている。インフレを抑えるという、金融政策発動の目的は達成されつつある状況にある。
 景気の減速傾向は、さまざまな経済指標に表れている。ます第1に、小売業の売上げがほとんど増えていないことから、個人消費意欲が低下している。物価の上昇や金利の引き上げで、消費に回せる余裕がなくなっていることもあるが、家計部門が各種ローンを返済し、バランスシートの改善を図っていることは、望ましい傾向と言えよう。



















































主な経済指標の動き(2008年5月)
  All Ords $US / $A TWI

\/$A

日経ダウ Topix
先月末 5657.0 93.60 70.7 98.38 13849.99 1348.65
月 末 5773.9 95.98 72.8 102.24 14338.54 1408.14
最 高 6035.0 96.20 73.2 102.24 14338.54 1408.14
最 低 5652.7 92.90 70.8 98.19 13655.54 1341.76


 第2に、新築住宅の建築着工件数が明確に減少している。特にNSW州では、実質的に38年ぶりという落ち込みになっている。住宅ローンの承認件数も昨年末以降下降している。景気過熱気味の大きな要因の1つは、過剰な住宅投資とされているので、これも好ましい状況であると言える。
 第3には、企業による信用供与も減ってきている。信用供与額の伸び率をみると、昨年最終四半期当時の年率25%増から、今年3月四半期には年率5%増へと急落した。ナショナル・オーストラリア銀行の事業概況調査を見ても、景況判断が悪化している。同じく、全国商工会議所―ウエストパック銀行の調査によっても指数は落ちており、企業経営者は先行きに悲観的になっていることが分かる。
 さらに、はっきりと状況を表しているのは雇用関連統計である。6月12日に発表された5月の雇用統計によると、全国的には、この月に約2万の仕事が奪われたが、このうちのほとんどがNSW州であった。これは、第三次産業の比率がとりわけ高い同州が、景気動向の流れに大きく左右されていることを示している。
 失業率自体は、前月と同じ4.3%であったのは、仕事を求める人を含む労働力参加率が落ちたからである。雇用の今後の動向については、半年先を示すとされるANZ銀行求人広告件数統計では、5月には前月と比べてわずかに落ちた。広告のチャンネル別では、新聞によるものが13.5%減少し、8年ぶりの大きな落ち込みとなった。他方、インターネットでの広告件数は、ほぼ横ばいであった。
 全体の求人広告が4月に増加したことと合わせると、増加率は今年年央にピークとなり、その後は徐々に減速となると考えられる。4.3%という30数年ぶりに低い失業率となっている現在の数字が今後も大きく低下することはないと言えよう。
 このような景気の減速傾向に対して、反対に加速すると考えられる要因には、新年度からの所得税の減税と資源ブームの恩恵による輸出価格の上昇による収入の増加が指摘できる。
 まず、所得税の減税については、インフレを加速させる恐れのある減税を最小限の規模にしたかったラッド労働党政権は、前ハワード内閣により決定されていた減税に新たに追加することなく、そのまま実施することとしたので、個人消費を大きく増加させることにはならないであろう。むしろ家計部門では消費を増やすよりも、債務の返済を急いでおり、所得税の減税は、個人消費を大きく拡大することにはならないと見られる。
 鉄鉱石や石炭など天然資源の輸出価格の大幅な引き上げに伴う収入増の影響はどうであろうか。今年前半では、集中豪雨やサイクロンの影響により、鉄鉱石や石炭の輸出量が減少したが、今後は港湾施設の整備やフォートエスキュウ・メタル社からの鉄鉱石の新規輸出もあり、農産物輸出の回復と相まって国民所得の増加に寄与することは確かである。しかし、世界経済の減速によりこれらの天然資源に対する需要は頭打ちとなると見られる。したがって、豪州経済全体から見れば、経済を大きく加速させる要因にはならないであろう。
 インフレに最も影響を与えると見られる賃金動向はどうであろうか。インフレ傾向やタイトな労働市場を反映して、賃金は大きく上昇している。3月四半期の国民所得統計によると、この四半期には1.5%上昇し、年間では7.2%となり、労働力の不足傾向により、近年にない上昇傾向を示していた。しかし、これも落ち着く傾向にあり、失業率の低下が底打ちしたこともあり、今後は、賃金の上昇の勢いも収まるものと見られる。
 インフレの抑え込みに躍起となっている豪州連邦準備銀行(連銀)が5月にもさらに公定歩合を引き上げるのではないか、という観測もあったが、6月3日に開催された連銀理事会の後に公表された議事録によると、今後当分は金融政策の発動はないものと思われる。すなわち、理事会の議論では、これまでの金利引き上げの効果が浸透してきており、この政策設定を今後も見守る必要があると強調されている。
 その理由としては、上述したように、個人消費、住宅投資、信用供与などの落ち着きが指摘された。このような見方は、5月理事会でのインフレ懸念とは、大きく変化している。特に指摘されたのは、小規模小売業での売上の上昇鈍化である。今年に入り、大規模な小売業よりも売上の伸びが大きく低下していることは、個人消費の減速を示すものとした。 もっとも、輸出価格の上昇や賃金圧力の高まりによるインフレ懸念もなお、指摘されている。連邦政府の予算案に対する評価では、インフレの抑圧という観点で、インフレ圧力を加速させるものではない、と評価した。金融政策と財政政策が一体となって、総需要の抑制に努めることがインフレを抑える唯一の方策と考えたものと見られる。
 5月の連銀理事会の議事録発表後には、市場では年内にさらに3回の公定歩合の引き上げがあるとの見方もあったが、6月理事会の後では、あってもあと1回というのが、一般的な見方となっている。
 豪州経済は、軟着陸を目指し、ゆるやかに減速中である。

海外進出でまたつまずく
−大手損保IAG社の場合

 IAG(Insurance Australia Group)と言われてもあまりピンと来ない。しかしロード・サービスNRMAの損保事業部門と言えば、多くの人が株主となっている企業である。
 IAG社では、損保QBE社からの買収申込みを拒否した経緯や英国への事業進出の成果が一向に出ないことへの批判から、マイケル・ホウカー社長が辞任に追い込まれるという事態になった。これまでも、生保最大手AMP社や大手銀行NAB(ナショナル・オーストラリア銀行)など海外進出での失敗から、大きな経営危機を迎えた豪州企業が数多い。その経緯を見てみたい。
 NRMA(National Roads & Mortorists Association)は、ロード・サービスを柱とする自動車関連サービスを行う相互組織として1925年に発足した。その後、事業対象を家屋や家財などを含む損保事業全般に拡大し、また、NSW州とACTから全国に展開するようになった。海外での事業では、タイをはじめとする東南アジア地域で地元企業に資本参加して進出を図った。
 2001年には、ニュージーランドでも大手企業買収により、大々的に事業に乗り出すことになった。この間00年には、損保事業部門を本体のNRMAから分離独立して株式会社とし、株式市場に上場した。英国への進出は06年からで、損保企業合計3社を買収し、本格的に事業を開始した。
 しかし、金融の本場であり、競争が激しい英国市場では、予期されたほどの成果が上がっていない。英国では、買収した企業グループのブランド名で、個人・企業向けの自動車保険、個人事故保険、家屋・家財保険や企業保険を取り扱っている。いずれの分野でも市場シェアが大きくなく、特に新しいビジネス・モデルを導入した訳でもなく、旧態依然とした形でやっているのであるから、大きな成果を望むことには土台無理がある。
 AMP社もNAB銀行もそうであったように、買収した相手は中堅企業で、企業規模や市場シェアが中途半端なのである。ありていに言えば、高い買い物をしたのである。投資資金が大き過ぎれば、高い投資利益を求めることはできない。
 なぜIAGが前例の轍を踏んで、同じような失敗を繰り返そうとしているのかは不明であるが、おそらくは、金融の本場である英国に進出することで、国内の事業にも有形無形の大きな利益があると考えたのであろう。
 英国への事業展開を推進したホウカー社長に最大の責任があることは確かであるが、それを承認した取締役会、特に会長であるジェームズ・ストロング会長(過去にカンタス航空社社長などを歴任)にも責任があることは、明かである。しかし今回、業績不振の責任を取って辞任したのは、ホウカー社長だけであった。その背景として、QBE社からの買収申込みを拒否したことへの引責が考えられよう。
 拒否の理由は、会社の将来性に比べて、買収申出価格が低過ぎるというものであった。大株主である投資ファンドの中には、公然と批判した動きも見られた。業績の停滞もあって、これらの批判をかわすために社長1人が責任をとったものであろう。
 後任には、副社長のウィルキンズ氏が指名された。同氏は、同じく損保大手で、ほかの金融グループに買収された旧プロミナ社損保事業のトップであり、IAG社に移ってから1年もしないうちに、IAG社長に就任することになった。損害保険事業に経験のある人が少ないという指摘もあり、その意味では、最適な後継者と言えるであろう。
 IAG社が英国事業を立て直し、収益性を高め、株価の回復を図る手腕が、ウィルキンズ氏に問われている。 このほかの経済ニュースとしては、同じくワイン事業を高く買い取り過ぎて業績の悪化したビール業最大手フォスター・グループの社長が辞任したこと、1980年代に経済界の寵児となったものの、当時として史上最大の倒産劇となったボンド社の最高経営責任者であり、詐欺罪で刑務所生活も経験したアラン・ボンド氏が資産長者番付に再登場したこと、新世代の投資銀行として何かと話題を提供したバブコック・ブラウン社が自社株の暴落を契機に大きな危機に直面していることなどが大きな話題となった。

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