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- オーストラリア経済の動き (2008年6月〜2008年7月) [2008/8/18]

鳥居税務会計事務所代表 鳥居育雄
オーストラリア経済の動き
(2008年6月〜2008年7月)
経済の歴史は繰り返す
米国連邦政府は7月14日、住宅ローン貸出し返済金の滞納増加により、業績が悪化し、株価の急落と資金繰りの困窮に直面している連邦政府系住宅抵当融資企業2社の救済策として、資金融資と株式の買い支えを発表した。
株式が上場されているのに、連邦政府系とされるのは、この2社の設立は、1930年代の大恐慌に対するいわゆるニューディール政策に基づくものであり、その後も暗黙のうちに、連邦政府が債権保証していると見られているからである。
つまり、形式的には民間企業に対して米国連邦政府は、公的資金を投入して経営を支えるという決断を行ったのである。今年3月サブプライム問題を契機として実質的には経営が破綻したベア・スターンズ社の問題よりも、今回の例は、はるかに深刻と言えよう。
不動産ブームと巨額の融資→景気の低迷や金利の上昇に伴う滞納返済額の累積による不良債権の急増→業績の悪化と株価の急落→資金繰りの困難→政府による救済策の実施という流れは、1990年代の不良債権による日本の銀行経営の悪化と同じパターンである。サブプライム問題が発覚した昨年夏以降の全米トップ十大銀行の会計上の損失額は、この1年間で2,000億米ドル(約21兆5,000億円)を上回る見通しとなった(最大のシティ銀行グループだけで約6兆円という大きさである)。
歴史は繰り返すとされるが、経済や企業経営の歴史でも同じようなことが繰り返される。1980年代初め、メキシコやアルゼンチンなどに対する巨額な融資が焦げ付いた経験のある米国大手銀行も、経営者の交代があったためか、また同じ轍を踏んだことになる。米国連邦準備制度理事会バーナンキ議長は、議会証言で、日本での経験を教訓としたいとの、発言を行ったが、まさに歴史は繰り返すということであろう。
マイナスとなった 投資運用
新年度を迎えた豪州経済の現状は、景気への先行き不安と株式価格の大幅安という、局面に直面している。
今年6月末時点の1年間で株式指数では17%下落し(ASX200指数。全上場株式では16.5%)、1982年6月時点以来の最悪の1年間となった。発行株式の時価総額では約4,000億ドル(40兆円)が消えたことになる。
史上最高値となった昨年11月1日の水準からは23%を超える下落となる。資源ブームの追い風が残り、原油高によるエネルギー関連株の高騰の中での結果であった。株価の足を引っ張ったのは、銀行や投資関係企業を中心とする金融関連株である。
昨年11月までの株式ブームの主役であったこれらの金融関連株は、米国を発生源とするサブプライム問題の向かい風による業績の悪化も手伝って、金融株式全体としては、株価のほぼ3分の1を失った。中でも躍進する豪州経済の象徴と見られた四大大手銀行は、最高値時から4割前後も急落するという惨憺たる結果となった。発行株式の時価総額では、ベストテンの上位を独占していた四大銀行も、躍進する資源企業に押し下げられる形となった。
株価下落の影響は、投資家だけでなく、広く一般国民にも及んできている。7月4日には、2007年度(07年4月〜08年3月)の日本の公的年金財政の投資運用実績が、運用を行っている年金積立管理運用独立行政法人から発表されたが、結果的には6兆円近い運用損となり、運用利回りマイナス6.4%という、過去2番目に悪い結果となった。
実質的に政府が運用している日本と異なり、さまざまな民間企業(ファンド)が多様な投資(ハイリスク・ハイリターンからローリスク・ローリターンまで)を行っているオーストラリアの退職年金(スーパー)では、2008年度(07年7月〜08年6月)の集計が出そろったわけではないが、平均(中間値による)してマイナス6%程度と推定されている。
一部は、専門家に運用委託されているものの、基本的には素人と言える準公務員が運用している日本の利回りと、報酬を得て運用を行っているプロのファンド・マネジャーの運用実績とがほとんど同じ結果となった。
預金のみで運用すれば7%近いリターンが得られるオーストラリアと、国内の預金運用ではほとんど利回りが得られない日本とでは、投資運用環境が大きく異なっている。オーストラリアのファンド・マネジャーは、税制上の優遇措置もあって、配当があり、キャピタルゲインも目的とする株式投資を中心に運用している。
したがって、株価が大きく下落したことでマイナスの運用実績となったものである。ファンド側では、単年で見るのではなく長期的に運用実績を見てほしいとしている。確かに過去3年間を見れば、平均で10%近いプラスの運用となっている。これもこの期間、株価が堅調に推移したためであるが、問題は、大きく変動する株式投資に片寄り過ぎていることであろう。
今年6月までの運用資産別平均利回りをみると、国内株式で12%、海外株式で13%のマイナス実績となっているのに対し、不動産投資では15%、預金運用では7%、公債運用では5.5%のプラス実績となっている。もっとも、株式投資でも、資源株にのみ投資すれば、30%を超える利回りを確保できたとみられている。
長期的な運用を目的とするスーパーのファンド・マネジャーが、株式投資に偏重することなく、投資先資産をもっと多様化していれば、おそらく違った結果となったであろう。
日本の公的年金の運用でも、もっと高い収益を目的に、民間の投資専門家に運用を全面的に任せるべきだ、との意見もある。しかし、年金という性格を考えた場合、より安全性の高い、安定した運用に重点を置くという点を重視すべきであろう。
オーストラリア型 温室ガス排出権取引
地球の気候変動の要因とされる温室効果ガスを削減するための有力な方策として、排出権取引制度の導入が検討されている。これは、1997年の京都議定書で認められたもので、比較的少ない総費用で削減効果が期待できる特徴が主張されている。
先進国の中では、アメリカと並んで、排出ガスの削減枠組み制度の参加に消極的であったオーストラリアは、労働党政権になって以降、より積極的にこの問題に取り組む姿勢に転じた。
ケビン・ラッド連邦首相からの委託を受けてこの問題を検討していたロス・ガーノー教授は、7月4日に500ページ以上に及ぶ報告書を発表し、2010年から直ちに排出権取引制度の導入を提言した。この提言の前提は、現状をこのまま放置すると、西暦2100年までには、オーストラリアが抱える環境問題が致命的となり、取り返しがつかなくなるというものである。
例えば、現在、最大の環境問題となっているマレー・ダーリング水系地域では、農地面積の9割以上が耕作不適地になると推定し、的確な対策を採れば、わずかに失われることですむとしている。この制度の導入により、ガソリン、電力・ガスや食糧の価格は上がるものの、現在の原油高ほどの影響はないとしている。
問題なのは、具体的な仕組みの中身であろう。この問題の難しさは、国内取引や国外取引での排出権取引の前提となる削減目標値が、先ごろの北海道洞爺湖サミットでも具体的に決まらなかったことに象徴される。利害が反するとみられる、先進国と発展途上国との対立から、削減目標値については、次の総会に先送りされた。仮に、世界全体での削減目標値が決まったとされても、国内で排出権取引制度が有効に機能するようになるには、多数の排出施設所有者間での合意が必要となり、それは簡単ではないであろう。
各企業の生産コストに密接に関連するだけに、経済学的に有効であるとしても、現実の場で排出権取引制度が円滑に運用されるためには、まだ多くの問題の解決が必要になるとみられる。
| 主な経済指標の動き(2008年6月) | ||||||
| All Ords | $US / $A | TWI | \/$A |
日経ダウ | Topix | |
| 先月末 | 5773.9 | 95.98 | 72.8 | 102.24 | 14338.54 | 1408.14 |
| 月 末 | 5332.9 | 96.44 | 73.4 | 103.39 | 13481.38 | 1320.10 |
| 最 高 | 5781.2 | 96.44 | 73.4 | 104.86 | 14489.44 | 1430.47 |
| 最 低 | 5332.9 | 93.63 | 72.0 | 101.16 | 13481.38 | 1320.10 |
そのほかの経済的動向
雇用市場の動向については、タイトな環境が続いているが、この状況も終わりに近づいているようである。連邦統計局の資料によると、求人数は、今年4月までの3カ月で前期比で3.4%増加した。これは、対前々期比の2.7%減に反する動きであるが、ほかの経済指標が経済の減速を示していることと合わせると、おそらく現在が頂点であり、今後、雇用の増加ペースは鈍るものとみられる。経験的にも、一本調子で動いてきた後、四半期の数字が不安定な動きを見せるのは反転の契機であることが多い。
半年先の雇用状況を示す先行指標とされるANZ銀行求人広告件数統計によると、6月の求人広告件数は、新聞とインターネットの合計で対前月比3%の減少となった(季節調整値)。これは、5月の1.7%減に続くものである。このことは、今年初め以降、求人の増加が鈍っていることを裏付けるものであるが、技能職に対する求人は、依然として力強いものがあり、今後も雇用増加数が急低下するとか、失業率が大幅に下がるようなことはないとみられる。 今後の金利の動きを最も大きく左右するのは、賃金動向であるが、その雇用賃金の行方に影響を与える最低賃金の改定がこのほど公平賃金委員会より発表された。この決定により、21ドル66セントの引上げとなり、543ドル78セントとなった(週35時間として、時間給15ドル54セント)。
この賃上げ率4.2%は、ちょうどインフレ率に見合うものであり、使用者側の引上げ認容額13ドル30セントとACTU(豪州労働組合評議会)の要求額26ドルの中間よりやや労働者側に近い、決定となった。この賃上げ幅は、経済成長率やインフレ率を大きくはみ出したものではなく、大きなコスト圧力にはならないとみられる。
全体として豪州経済は、インフレ傾向の中で減速傾向にある。これまでの公定歩合の引き上げにより、経済の歩みを抑える効果が出始めていると言えよう。7月16日に講演を行ったグレン・スティーブンス連銀総裁は、減速傾向が本格化したと確認できる場合には、公定歩合を引き下げると発言し、次回の金融政策の発動は、金融緩和の方向になることを示唆した。
危機的な様相も見え始めている米国の金融システムに大きなほころびが出現し、豪州経済に波及しない限り、オーストラリアの経済は、軟着陸に成功しそうな状況にあると言えるであろう。
このほかの経済ニュースとしては、世界にカジノ・チェーンを拡大している、ジェームズ・パッカー氏の率いるクラウン社が、米国のラスベガスに加え、ほかの都市のカジノにも触手を伸ばしていることや、各地で不動産賃貸業を展開しているトラスト・ファンド経営に陰りが見え、減益の業績見込みに下方修正した企業が多く出てきたことなどが大きな話題となった。
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