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     - オーストラリア経済の動き (2008年7〜8月)  [2008/9/18]

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鳥居税務会計事務所代表 鳥居育雄


(2008年7〜8月)

混沌とする豪州経済
 米国のサブプライム問題の発生から1年が経過した。この間、世界中の株価は大きく値下りし、企業収益も悪化している。インフレへの懸念を抱きながらも、米国連邦準備制度理事会は金利水準を引き下げ、それに追随している各国中央銀行が多い。その中でも、豪州連邦準備銀行は、資源ブームの恩恵による所得の増加により、個人消費が堅調で、インフレ過熱傾向となっているため、金利の引き上げで対処してきた。しかしその後は、金利引き上げの効果と世界経済の変調により、豪州経済にも変化が出てきている。インフレ傾向が続く一方で、個人消費に減速傾向が現れ始め、金融政策にも転換の兆しが見えている。

 変化する経済指標の中でも、とりわけ株価や為替水準の変動には、大きいものがある。株価指数は、この1年間で2割以上の値下げとなっている一方で、対米ドル為替相場は、10%近い上昇となっている。もっとも、この間には20%を超える引き上げとなった時期もあり、短い期間に大きく変動しているのが特徴と言えよう。
 株価も大きく乱高下している。雇用情勢にも、大きな不安が出ている。売行きの不振から、人員を解雇する企業が多く出てきており、労働市場にも暗雲が立ち込めている。  総じて、世界経済は不安定である。その主因である原油高と金融不安には、まだ安定の見通しは見られない。

懸念されるインフレ
 7月23日に連邦統計局から発表された統計によると、この1年間に消費者物価(CPI)は4.5%上昇した。このような大きな上昇の背景には、原油高、1989年以来という高騰する家賃、銀行手数料や医療保険の引き上げという要因が働いている。
 中でも、家賃の高騰は大きな影響を与えている。この6月四半期には2.2%と、インフレ高揚期であった1989年以来という上昇となり、年間でも7.7%の引き上げとなった。  民間医療保険や医療サービスの引き上げも大きく、四半期では4%、年間では6.1%の上昇であった。
 石油価格と銀行手数料の引き上げだけで、この四半期の上昇の半分を占めた。ガソリン価格は、この四半期で8.7%、年間では18%を超える上昇となった。銀行手数料の上昇も大きく、この四半期に10%近く上昇した。税制改正による増税もあって、アルコール関連飲料価格も年間で5%上昇した。これらの値上げが、インフレに大きく貢献した。
 また、通常は価格の下落となり、インフレへの歯止めとなる家具、リネン、家電製品などの耐久消費財なども、クリスマス・セール終了の反動から価格上昇となり、インフレの高騰に貢献した。反対に、インフレ抑制に影響したのは生鮮食料品の価格低下であった。
 この1年間、物価の上昇は大きかったが、連銀としては、インフレはピークに達しており、今後、上昇傾向は収まるものとし、さらなる金利の引き上げはなく、下げる方向にあると判断しているようである。その根拠として、連銀が重視するコア・インフレ率(表面インフレ率から一時的要因を除いて計算したもの)が、前四半期から下がって、1.1%となったことを示唆している。
 今後も大きな原油価格の上昇がない限り、インフレ傾向は沈静化する見通しとなっている。問題はむしろ、これまでの公定歩合の引き上げに加えて、銀行などの貸し手が貸出金利を大きく引き上げているので、景気が冷え過ぎる恐れがあることであろう。
 連銀理事会におけるスティーブンス総裁の発言も、これまでのインフレ警戒から消費者心理の冷え込み、企業収益を悪化や労働市場の軟調化を懸念するものに変わっている。新年度を迎えた豪州経済の現状は、景気への先行き不安と株式価格の大幅安という、局面に直面している。過去6年間に連続して12回行われた公定歩合の引き上げも、ようやく転換する局面に入ってきていると、評価されよう。
 インフレ傾向を日常的に最も強く感じるのは、小売店、特にスーパーマーケットでの買い物であろう。オーストラリアのスーパー業界は、ウールワースとコールズという2大チェーンが圧倒的なシェアを持ち、大きな企業収益を挙げていることから、農家などの生産者と消費者の双方から、市場支配力を背景に不当に競争を制限して巨利を得ているとの、批判があった。
 これに応える形で実態調査を行ってきた連邦公正取引委員会(ACCC)は、8月5日に報告書を提出し、非競争的な行為は見つけられなかったとした。しかし、ショッピング・センターへの小売店進出に制限を加える契約条項の存在などの参入障壁が確認され、店舗開発規制の改正などが提案された。
 また、消費者が容易に価格比較ができるようにユニット価格の義務化や食料品価格を表示するインターネット・ウェブサイトも始まることになった。しかし、全体としては、これ以上連邦政府が競争を促進する手段には限りがあると言えよう。
 金利の上昇や信用不安による銀行の貸し渋りにより、特に住宅建築認可件数には、大きな落ち込みが見えている。連邦統計局の数字によると、6月のNSW州での新築住宅建築認可件数は、1964年以来の少ない数字となった。この間の人口は2倍近くになっており、異常に少ない状況と言えよう。賃貸住宅市場では空き家が少なくなって家賃が高騰しており、本来であれば住宅建築への需要は伸びるはずである。住宅価格が高くなり過ぎ、金利が高いので、一時的に建築意欲が抑えられているのであろう。金利が下がる状況になれば、状況は大きく変わる可能性がある。
 これまで好調であり、低い失業率を維持してきた豪州の労働市場でも流れが変わりつつある。伝統的に変化の兆しはNSW州にまず現れるが、今回もそうなりそうである。7月には同州の被雇用者数は1万7,500減少した一方で、資源ブームの恩恵が続いているWA州とQLD州では、合わせてほぼ同じ数の雇用が新たに生まれている。
 全国的にも雇用の増加傾向は減速しており、7月に増加した雇用数は1万程度に縮小し、全国の失業率は4.3%のままであった。世界的なコーヒーのチェーン店やカンタス航空も新たな人員整理を明らかにしており、NSW州では今年3月ごろが最盛期であったと推定される。その後の同州での失業率は上がる傾向にあり、7月には全国で最も高い4.7%となった。このままの傾向が続けば、来年初めにも5%台になるものとみられる。
 住宅価格が最も高く、大きな借金を抱えている同州の家計部門が、ガソリン高や住宅ローンの増加に一番苦しんでいるのは想像に難くない。しかし、これ以上の金利の引き上げが見込まれなくなり、原油価格も下がる傾向にあることから、家計部門も一息つけるようになり、深刻な不況に落ち込む可能性は少ないであろう。
 全体として、豪州経済は、資源ブームの恩恵を受けている地域と原油高などによる影響を受けている地域との差が明確に出ており、世界経済の変調の中で、新たな光明を見つけている最中と言えよう。



タックス・ヘイブン (租税回避地)利用の疑い
 フランク・ローイ氏と言えば、オーストラリアを代表する企業経営者である。ショッピング・センター事業を世界中で展開しているウエストフィールド・グループの創業者・総師であり、所有資産額では常にベスト3に入っている有数の資産家(ある経済雑誌の推定では8億4,000万豪ドル)として有名である。
 ユダヤ系チェコ人であり、第二次世界大戦後にトランク1個でオーストラリアに移住し、瞬く間に一大企業グループを発展させた立志伝中の人物でもある。中央銀行である連銀理事としても長い間在職していたし、国内プロ・サッカーであるAリーグの設立者としても知られている。ユダヤ系団体を中心として慈善活動を行っていることも著名である。  そのローイ家が租税回避行為(つまり、脱税)を行っているのではないかとの疑いが持たれている。
 ことの発端は、欧州の小国リヒティンシュタインのLGT銀行に勤務していたコンピュータ技術者が顧客関連ファイルを盗み出し、ドイツの政府関係者に売ったことから始まった。この情報が米国内国歳入庁(IRS)に渡り、さらに、タックス・ヘイブンに取り組んでいる米国連邦議会上院小委員会の審議対象となった。フランク氏の3人の息子のうち、米国籍を持つピーター・ローイ氏は、7月25日に小委員会に査問され、証言を求められたが、起訴の恐れがある場合には証言を拒否できる権利(合衆国連邦憲法修正第5条)を援用して、証言を拒否した。証言を拒否したことで、小委員会は今後も引き続いてこの問題を追及する見込みとなっている。
 リヒティンシュタイン国での問題の中心は、同国の法律により設立された財団(資産額は約70億円とされる)受益者がローイ一族なのか、それともそれ以外の者なのかということである。追求した小委員会側の見方では、米国やほかのタックス・ヘイブンで設立された会社を通しているものの、実質的にはローイ一族の利益ということである。ローイ氏側は、これに反駁して、受益者はこれらの会社であり、しかも、後にイスラエルの慈善団体に寄付しているので、ローイ一族に受益はないとしている。
 ちょうど時を同じくして豪州国税庁(ATO)も、リヒティンシュタイン銀行に関連して億万長者20人を対象として特別査察を行っており、フランク・ローイ氏自身も、対象となっていることを自ら認めている。ATOも、IRSから情報を入手していると思われ、今後の追及はまだまだ続くものとみられる。
 カリブ海諸国や太平洋地域の島しょ、そして欧州の小国に存在するタックス・ヘイブン地域は、租税回避や資金隠匿の温床となっている。スイスの銀行も資産隠し場所として知られている。独裁国指導者や巨万資産家がしばしば利用しているこれらのタックス・ヘイブン地域や銀行は、不正資金だけでなく、テロリスト資金の温床となっており、特に米国政府は神経を尖らせている。
 オーストラリアでも、表ざたになった脱税事件の背後には、スイスの銀行があった事例が多い。米国をはじめ、世界の税務当局は、連携を深めながらタックス・ヘイブンに関する不正基金のあぶり出しに努めており、今回の事件を契機に米国連邦議会を中心、追及の手を強めるものとみられる。被雇用者による情報の盗み出しという、特異な事件から始まった今回の問題は、今後も尾を引くことになろう。
 このほかの経済ニュースとしては、再生エネルギーを売り物とする新興企業Firepower社が経営破綻したことで、多額の出資をしたスポーツ選手が続出したことや日本での生命保険事業の先行きに不安を持っている第一生命が当地のタワー保険を約400億円で買収したことなどが大きな話題となった。

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