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    潮流を読み解く―アジア太平洋
     - アジアで急速に広がる中国標準語 “中国通”のラッド政権は日本にも有益  [2008/7/04]

潮流を読み解く―アジア太平洋潮流を読み解く−アジア太平洋

アジアで急速に広がる中国標準語
“中国通”のラッド政権は日本にも有益

文:菊地勝吾

 中国語の学習者が世界的に増えている。中国政府が国策として中国語教育に力を入れているほか、中国の経済発展がその増加を支えている。また東南アジアの華僑・華人たちが民族アイデンティティーとして中国語を学び維持し、日常生活だけでなくビジネスの場でも活用していることで、中国語が英語に次いでアジアの事実上のコミュニケーション言語と化しているような流れが見られる。中国語を流ちょうに話すケビン・ラッド豪首相は、中国寄りの姿勢が強いと批判されているが、豪州トップが“中国通”であることはむしろ、日本そしてアジアにとっても将来的にメリットになると思えてならない。

 中国に商用で旅行し、北京や上海で中国人や華僑・華人のビジネスマンたちと会議をする機会が今年に入って何度かあった。少人数の会議で使われる言語は、ほとんどの場合が英語である。中国に進出する日本企業が多いことから、現地企業の中には日本語を流ちょうに話す中国人エグゼクティブやスタッフも多く、日本語で会議を行うこともある。
 ところが、英語があまり得意ではない中国人スタッフが加わり出席者数が増えて、その場の話題が非公式な内容になると、話される言語が急に変わったことがあった。会合の参加者の出身地は国内だけでなく、シンガポール、マレーシアなどさまざまだが、日本人である筆者を除くと、中国文化を共通のバックグラウンドに持つ人たちばかりだ。そうした場で彼らが話す言語は中国標準語(普通話。中国では中文、東南アジアでは華語と呼ばれる)である。

■英語に次ぐアジアの第2共通語へ
 広大な国土を持つ中国には方言が多く、出身地によっては全く会話が通じないことが多いため、中国人や華僑・華人同士が英語で会話している光景を、東南アジアではほんの10数年前には頻繁に見かけたように記憶している。ところが今では中国標準語が中国本土だけではなく、華僑・華人の多いシンガポールやマレーシアでも広く浸透してきたため、英語ではなく華語で会話する光景をはるかに多く見るようになった。
潮流を読み解く―アジア太平洋中国語がアジアの第2共通語になりつつある。中国語を話す若者たちが国際的に活躍できる舞台が広がった(撮影は筆者)

 異なる複数の民族で国家が構成されるマレーシアやシンガポールでは、英語が共通の言語として存在している。しかし、中国系住民である華人の間では、中華民族としてのエスニック・アイデンティティーとなる華語がコミュニケーション言語だ。マレーシアではマレー語が公用語であるものの、マレー人優先政策などの影響もあって、全人口の30%を占める華人の間では華語の方が有用性を持つ。
 中国系住民が78%を占めるシンガポールでも、英語が国語としての地位を占める一方で、華語は中国系住民のアイデンティティーであり、中国の伝統的価値観である儒教規範が、管理主義であるシンガポールの国家思想とも一致すると言われる。中国系の人々の間で中国標準語・華語が急速に広がって、英語と同様にアジア地域の「第2共通言語」になりつつあるような勢いだ。
 中国標準語の国際的な広がりは、中国系の人たちの間だけの流れではない。中国共産党の機関紙である「人民日報」の日本語版サイトによると、中国語を学ぶ外国人の数は2004年時点で2,500万人を突破したという(注1)。とりわけ、中国語の学習機関である「孔子学院」を世界各国で開校する中国政府の国策が04年以降から強く推進され、学習者数は加速度的に増えてきた。中国の急激な経済成長と国際政治・貿易に占める影響力の急拡大がこの傾向を後押ししているのは明らかだ。
 孔子学院は08年1月現在で世界65カ国・地域に200校が開校されているという。日本国内でも日本と中国の大学間の提携によって開校が進められ、今年1月現在で13校が存在する。ちなみに、日本語は、海外の126カ国・7地域で約298万人が学んでいる(注2)。学習者の数では中国語との間に極めて大きな差が存在する。
 一方、オーストラリア国内の学校教育機関で中国語を外国語として学ぶ学習者の数は、最近の全国的な数と傾向は判明しないが、1994年から2000年までの学習者数を見ると日本語、フランス語、ドイツ語、中国語、イタリア語の順に多かった(注3)。NSW州における高校卒業時の学力一斉テストであるHSC(Higher School Certificate)の外国語受験者数では、中国語の受験者数が04年に日本語とフランス語の受験者数を追い抜いて一時トップに躍り出た経緯がある(注4)。

■日中と豪中の関係拡大の軌道が合致
 さて、オーストラリアのケビン・ラッド首相は学生時代に中国語を学び、外交官として中国に駐在した経験もあり、中国語を流ちょうに話す。中国事情に通じ、中国政府との関係も良好だ。このため日本のマスコミでもラッド首相を「親中派」と報じるケースが多々あるし、首相就任後初となる3月末からの本格的外遊で米国や欧州、中国を歴訪したものの、最大の貿易相手国かつアジア太平洋域内の国際安全保障で重要なパートナー国でもある日本を訪問国の中からはずした。
 このため、ラッド首相は連邦議会で野党側から「日本はずし」を強く批判された経緯があるほか、オーストラリアの外交政策はラッド政権のもとで「中国寄り」になるのではないかとの強い懸念が、アジア各国のオピニオン・リーダーたちの間で出ているとまで報じられた(注5)。
潮流を読み解く―アジア太平洋急激な経済成長で活気付く上海の中心街。日本企業の中国進出はさらに増加する傾向にある(撮影は筆者)
 だが、日本にとっても中国は今や最大の貿易相手国(*07年実績で香港を加算した場合)であり、東アジアの安全保障面で協調と協力を進めていかねばならないパートナー国である。しかも、日本の東証一部上場会社1,689社のうち、60%が中国に進出して中国ビジネスを展開している時代である(注6)。政治的あるいは社会的に日中関係がギクシャクする局面があっても、日中間の経済交流はますます深まる一方だ。
 世界的に中国語学習者が増える中で、ラッド首相が中国語を解し、中国通であるというのは時代のニーズに合っているだけではなく、ラッド政権が中国との太いパイプで繋がっていれば日本にとっても対中国関係でプラスに働き、最終的にはアジア太平洋域内の国際関係にも有益な効果をもたらすのではないか。ラッド首相は4月の訪中の際に、先のチベット騒乱に関係して人権面での懸念を直接、中国首脳に伝えた西側諸国の中では初めての首脳だ。日米同盟、豪米同盟という米国を機軸とする安全保障同盟の三角関係を通じて、もともと日豪は準同盟関係にある。したがって、中国側に対してずばりと発言できる人物が豪州のトップにいることは、日本の安全保障にとって「安全弁」として機能する可能性があるはずだ。


(注)情報ソース
1. 人民日報日本語版2004年8月3日 :
http://j.people.com.cn/2004/08/03
2. 国際交流基金「2006年海外日本語教育機関調査」:
http://www.jpf.go.jp/j/japanese/survey/result/dl/2006-1.pdf
3. オーストラリア連邦教育省サイト:
http://www.dest.gov.au/sectors/school_education/publications_resources/
4. NSW州政府サイト
http://www.boardofstudies.nsw.edu.au/bos_stats/hsc05_mediaguide.html
5. The Australian  5月3日付
6. 21世紀中国総研「日本企業の中国進出率」:
http://www.21ccs.jp/china_watching/KeyNumber_NAKAMURA/Key_number_37.html


筆者は欧州系ITC企業の会社員。シドニー在住。 shogo_kikuchi@yahoo.com

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