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     - パブ特集1 化石的酒場を守れ!  [2008/9/30]

釣り特集

第1回

消え行く正統派パブ

 オーストラリアの伝統的なパブが絶滅の危機に瀕している!? 特にシドニーでは、植民地時代から20世紀初頭にかけての趣のある歴史的なインテリアを残した店がいつの間にかほぼすべて姿を消してしまったのだ。パブ特集第1回目の今回は、古き良き社交場であった街の酒場がどう変遷してきたのか、検証する。

(Main photo: Western Australia Tourist Commission)(Old pub photos: ANU)



釣り特集
 パブの語源は、英国の酒場パブリック・ハウスだが、植民地化以来、オーストラリアのパブは本家とは異なる独自の進化を遂げてきた。オーストラリアでは新たに開拓された町で最初に建設された公共の施設の多くがパブだった−という指摘がある。単なる酒場としてだけではなく、宿泊施設や食堂、雑貨屋など、場末の植民地で人が集まる地域社会の社交場として機能していた。

シドニー郊外アースカインビルのインペリアル・ホテル内観(1940年)

 ヨーロッパ人の侵略後、町が教会を中心に発展してきた北米やラテン・アメリカの植民地史と比較すると興味深い。比較的宗教心の薄い流刑者の植民地だったオーストラリアは違っていた。少し乱暴な言い方をするなら、北米ではプロテスタントの信仰心が開拓者の結束を深め、ラテン・アメリカではカトリック宣教師が先住民への布教活動を進めた一方で、オーストラリアは酒場が植民地建設の中心にあったと言えなくもないのだ。

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 こうした歴史を背景に、オーストラリアのパブはゴールドラッシュが巻き起こった19世紀中ごろに全盛を極めたとされる。一攫千金を夢見て集まる男たちに酒を飲ませるために、各地の金鉱の町にパブが作られ、繁盛した。ただ、このころに建設された植民地時代のパブは既に20世紀中ごろから終わりに開発によってほとんど消えてしまい、ほとんど現存していない。

シドニー市内のシビック・ホテル内観1(1940年)

 ただし、酒に対する初期のリベラルな風潮に相反する形で、19世紀中ごろに台頭した保守的なキリスト教徒の圧力によって、酒の販売は厳しく規制されるようになったという。各州では酒の販売免許が宿泊施設に限定されるようになった。現在でもパブの多くが「○○ホテル」と名乗り、階上に宿泊施設を併設しているところが多いのは、当時の名残りであると言われている。

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 21世紀の今でも酒場の経営はほぼ既得権益で新規の開業が極端に少ないこと、近年規制が緩やかになったとはいえ、飲食店の酒類ライセンスの取得は簡単でないこと、ほかの西側先進国と比べて商店での酒類販売が認められていないこと(オーストラリアでは首都特別地域=ACT=を除いてパブまたは酒屋以外の一般商店で酒を売ることはできない)なども、当時の規制の影響と考えられる。

NSW州ダンゴグのロイヤル・ホテル(1940年)

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かつてのパブは男社会だった
 そうした規制にも耐えながらパブは20世紀前半には当時のアール・デコ様式という、開拓時代とはまた違った新たな建築デザインによって洗練され、発展していった。しかし、1960年代までは営業時間が午前10時〜午後6時までに規制され、労働者は仕事が終わるとパブに直行し、短時間に大量の酒を飲んだという。これが、現在社会問題になっているビンジ・ドリンキング(一気飲み)の文化につながったという指摘もあるが、定かではない。

ハンター・バレーのセスノック・ホテル内観(1940年)

 また、オーストラリアのパブ文化の特徴としては、70〜80年代に台頭したパブ・ロックが挙げられる。パブでライブ演奏を行うバンドがメジャー・デビューを果たして一世を風靡した。当時のパブ・ロックから世界的に有名になったバンドとしては、AC/DCをはじめコールド・チーゼル、INXSなどがある。現環境大臣のピーター・ギャレットがボーカリスト兼フロントマンを務めたミッドナイト・オイルも、そうしたムーブメントから生まれてきたバンドの1つだった。

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 さらに、今では信じられないことだが、オーストラリアのパブでは長らく性差別があったことも忘れてはならない。オーストラリアのパブにはかつて「パブリック・バー」と呼ばれるエリアがあり、ここで酒を飲むのを許されたのは男性だけだった。女性は「レディース・ラウンジ」でのみ男性同伴でしか酒を飲むことを許されなかったそうだ。

シドニー市内のシビック・ホテル内観2(1940年)

 差別は1970年代まで続いたが、1973年にシドニーのマンリー・ホテルで起きたフェミニストの抗議行動がきっかけとなり、女性への性差別を禁止する法律の制定につながったと言われている。現代でも、酔っ払いのオジサンばかりが昼間からたむろしていて雰囲気的に女性が入りにくい場末のパブもあるにはあり、一般的なパブでも男性客の比率が高いが、シドニーなど大都市圏では女性同士の客も普通に見られるようになった。モダンなインテリアに改装され、出される酒も従来のビールやスピリッツ一辺倒ではなく、お洒落なカクテルを出す店も増えてきている。

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 その一方で、シドニーでは90年代以降、特に2000年五輪前後の開発ラッシュを境に、植民地時代のビクトリア様式や前世紀初頭のアール・デコ様式のインテリアを残した、趣のある「昔のパブ」が急速に姿を消している。建物の概観は保存されているところも多いが、内装はほとんど改装された。知らない人同士も仲良くなれたビリヤードのスペースは狭くなり、経営者にとってはより儲かる遊戯機のエリアが広がった。

シドニー市内のシビック・ホテル内観3(1940年)

 少なくともシドニー市内では、開業当初からのオリジナルの内装を残すパブはここ10年でほとんどなくなってしまった。まるで日本のバブル期のカフェ・バーのような、中途半端なインテリアの店内で、ポーカー・マシンの無機質な電子音が鳴り響いている。ビールの値段もつい最近まで2ドル台で飲めたのに、市内中心部ではいつしかスクーナー(425ミリリットル)1杯5ドル以上というのが当たり前になった。
 かつては裸足で街を歩く人やボディが錆びた車が珍しくなかったが、今では高そうな靴を履いたビジネスピープルとピカピカの高級車が目立つシドニー。経済発展を背景に、原風景がどんどん失われていく。その中で、わずかに残る古いパブくらいは重要文化財に指定して保存してもらいたいと思う。

▼古いインテリアを残すシドニーの化石的パブ
Hotel Hollywood
2 Foster St., Surry Hills
www.hotelhollywood.com.au

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