ケイト・ブランシェット
- 今、最高に輝きを放つオーストラリアの妖精 [2008/4/10]
Cate Blanchett
ケイト・ブランシェット
今年のアカデミー賞では、最優秀女優賞と最優秀助演女優賞にノミネートされるなどハリウッド女優として不動の地位を築き、今や同じ豪出身の女優ニコール・キッドマンをもしのぐ勢いのケイト・ブランシェット。私生活では2児の母親であり、4月には第3子を出産予定と公私ともに華やかな道のりを歩んできた彼女。その誰もが目を見張る演技、仕事とプライベートを両立させたライフスタイルなど独自のポジションを確立している。世代を問わず多くの人に支持され、愛される彼女こそ今最も輝いている女優の1人だろう。
(写真)2月24日、米・ロサンゼルスで行われた第80回アカデミー賞受賞式に出席
(写真)左からアンドリュー・アプトン、ロビン・ネビン、ケイト・ブランシェット、ジョルジオ・アルマーニ、アルマーニの姪ロベルタ・アルマーニ。STC主催のディナーの席で(Photo by Fiora Sacco)
(写真)主演女優賞にノミネートされた『エリザベス:ゴールデン・エイジ』
(写真)シドニー・フィルム・フェスティバルのオープニング・ナイト
(写真)ボブ・ディランを演じた『アイム・ノット・ゼア』
オーストラリア出身の若き才能
1969年、ケイトはオーストラリアVIC州のメルボルンで生まれた。母親はオーストラリア人で、父親はテキサス州出身のアメリカ人。メルボルン大学で経済学と美術史を学び、その後、オーストラリア国立演劇学院(NIDA)に入学。そこで本格的に演技を学ぶこととなる。92年に同学院を卒業すると、時を置かずして舞台の世界で批評家と観客の両方から高い評価を受けるようになった。93年に『Kafka Dances』でシドニー劇場批評家協会賞の新人賞を受賞、『オレアナ』で最優秀女優賞を受賞した。これはシドニー劇場批評家協会賞で史上初のダブル受賞でもあった。
女優を目指すようになったルーツは、子どものころにさかのぼる。子どものころの自身を“社交的な部分と孤独な部分”とを持った子どもだったと彼女は記憶している。社交的な部分が開花したのか、友人のバースデー・パーティーでマジックを見た際に強く感動し、それ以来、人を引きつけるパフォーマ−になることを夢見るようになる。両親はそんな彼女を、心から応援。これが大女優へと翔け上がるケイトの始まりだった。
しかし彼女が10歳の時、父親が心臓発作で他界。最後に父親に“Good Bye”と言えなかったことを後悔し、外出する時にはどんなにさ細な用事でも家族全員に声を掛けるようにした。そして、このつらく悲しい出来事を母親が乗り越えられるよう、完璧な良い子であろうと強く胸に誓う。今の彼女の女優に対する完璧なまでの姿勢は、この出来事がきっかけとも言えよう。
トップ・スターへの階段
本格的なスクリーン・デビューは、97年の『Paradise Road』。同じ年の『オスカーとルシンダ』では初の主役に抜擢された。しかし、オーストラリア以外ではほとんど無名だったケイト。そんな彼女を一躍世界的スターダムに押し上げた作品が、1998年シェカール・カプール監督の『エリザベス』だ。ケイトは、この映画で忠実にクイーン・エリザベスを演じるため、頭を丸刈りにする。女性にとってのシンボルである髪の毛を坊主にしてしまうとは、とても勇気がいったに違いない。可憐で純粋な少女時代と厳格で冷酷な君主時代のエリザベスを見事に演じたその演技が絶賛され、数々の映画賞を受賞。アカデミー賞でも主演女優賞にノミネートされるなどトップ・スターの仲間入りを果たした。
その華麗な美しさと確かな演技力、また運をも味方につけ、その後も幅広い作品で活躍。なかでもファンタジー超大作シリーズ『ロード・オブ・ザ・リング』での妖精の王妃役は記憶に新しいところだ。その役柄にふさわしい容姿で出番はほんのわずかにもかかわらず、これほどまでに強い印象を残すところはさすが。そして、04年、オスカー女優で近代女性の先がけとも言われるキャサリーン・ヘプバーンを演じた『アビエイター』で見事、アカデミー賞助演女優賞を受賞。実力派女優としての地位を確立した。その際手にしたオスカー像をブックエンドとして使っていたことは有名な話だ。
「最初にこの像を頂いた時、『ブックエンドに丁度いい』って思って、本棚に置いておいたのよ。だけど自宅に遊びに来る友人たちが口をそろえて、『オスカー像を見せて』『触らせて欲しい』って言ってきて、像と一緒に受賞者みたいにポーズを取って写真を撮っていくの。だから、シドニーにある自宅のグランド・ピアノの上に置くようにしたの」と、コメントからは、オスカーを手にし、鼻高々になっている様子などみじんも感じられなかった。
名門劇団の監督に就任
そんな彼女の成功をともに見守ってきたのが、脚本家で夫のアンドリュー・アプトン氏だ。2人は97年にロンドンで結婚。01年には待望の第1子、ダシール君が生まれ、04年にはローマン君、そして現在第3子を妊娠中。プライベートでも、絵に描いたような幸せを築いている。
昨年、舞台女優としての自身のルーツに戻り、夫とともにオーストラリアの名門劇団シドニー・シアター・カンパニー(以下、STC)の共同芸術監督に就任。しかし、この決定に反対する劇団員が退団するなど、批判の声が上がったのも事実。退団した男優は、「演技でオスカーを獲得したからといって、オーストラリア最大の劇団の運営に適しているとは限らない」と語った。
この監督就任を批判する声に対し、さすがは冷静沈着なケイト。シドニーで行われた映画の記者会見で、「“バージン・クイーン”と呼ばれた女王ならこの批判にどう対応するか」と問われ、「エリザベス1世は芸術の偉大な後援者でした。私は彼女のそういう点に大いに刺激を受けています。彼女の治世で、シェークスピアと英国の言語は繁栄したのです。ですから、私たちの支援のもと、STCも同じように繁栄することを望んでいます」と映画に関すること以外の質問は厳禁のはずなのに、堂々としたコメントを残している。
また、プライベートでも付き合いのある、デザイナーのジョルジオ・アルマーニ氏が、同劇団の正式な後援者となり、寄付を行っている。そこは世界のアルマーニ。その額は、1つの劇団に対する個人の金銭的援助としてはオーストラリアで最高額レベルになるというから驚きだ。これについてアルマーニ氏は、ケイトのSTCへの参加が最大の理由だとし、「ケイトは、我々の時代で最も優れた、舞台と映画で活躍する演技者の1人だ」とコメント。ケイトもまた、授賞式などの機会には同氏デザインのドレスを着用するなど、これまでに出会った中で最もクリエイティブな人物の1人だと高く評価する。「芸術家である彼の経験・才能とのクリエイティブな関係とともに出発するSTCは、人々に感動を与えるだけでなく、大きな広がりを持つものになるでしょう」と述べた。3月末に公開されたばかりの舞台『The Year of Magical Thinking』を、就任後、初監督、コスチューム・デザインはアルマーニ氏が手掛けている。
女優として、輝かしい成功の道へ
女優以外の場でもさまざまな活躍をみせるケイトだが、やはり今年最も注目されたのは、2部門でノミネートされたアカデミー賞だろう。これまで数々の作品で、多くの賞にノミネートされ、既に『アビエイター』で最優秀助演女優賞を受賞し、オスカー像は手にしていたものの、誰もが期待していたことがついに ! の最優秀主演女優賞。今回、オスカー像を手にすることができたら、「ブックエンドにしてみようかな ? 」なんて、可愛らしいジョークが飛び出すのは、緊張を紛らわすためだったのかも。
主演女優賞にノミネートされた『Elizabeth: The Golden Age』は、出世作ともなった『Elizabeth』の続編で、中年期のエリザベス1世を演じている。後にケイトは、自身に国際的女優の地位をもたらした役を再び演じることに、かなりのプレッシャーを感じたと明かした。「同じ役を演じるのは後退するようで嫌なもの。でも、エリザベスを演じることが演技のキャリア・アップにつながると確信してからは、自信を持って前向きに演じることができた」と、まさにエリザベス1世を演じるために生まれてきたとも言えるケイト。ちなみにこの映画の後、女王様風の話し方が離れず母親に電話した際、「どちらさま ?」と聞き返されてしまったそう。それほどまでに役になりきっていた演技は、女王の貫禄とも言えるべき、一瞬にして観るものを引き込こんでしまうほど素晴らしいものだった。
一方、助演女優賞にノミネートされた『アイム・ノット・ゼア』では、なんと男役のボブ・ディランでのノミネート。伝説のミュージシャンを、独特の中性的な雰囲気で演じ、ともすれば男性とも見間違えるほどだった。既にこの作品では、ゴールデン・グローブ賞の最優秀助演女優賞を受賞するなど高評価を獲得。今年1月に急性薬物中毒で急逝した同郷の俳優、故ヒース・レジャーも出演している。
授賞式当日、大きなお腹を抱えながら、印象的な深紫のロング・ドレスで登場したケイト。シックなドレス姿と満面の笑みで会場中の視線を集めていた。少しふっくらとしたその表情からは、幸せが満ちあふれているように見えた。
文化芸術会議の委員長に選出、オーストラリアの顔に
ダブル受賞なるか ? との声も飛び交ったアカデミー賞では、主演女優賞と助演女優賞にノミネートされながら惜しくも受賞を逃したが、代わりにラッド首相から大役を任命された。オーストラリア政府は、4月にキャンベラで開かれる「オーストラリア2020サミット」の一部門を構成する、同国の文化芸術の未来について考える会議「Towards a Creative Australia(創造的なオーストラリアを目指して)」の委員長にケイトを指名。
同会議では、4月19日と20日の2日間、100人の有識者が集まって行われるディスカッションを取り仕切る。サミットでは、ほかにも経済や環境問題など10のテーマに沿った会議が行われ、部門ごとに任命された10人の委員長のもと、合計1,000人がオーストラリアの未来について議論を重ねることになっている。ケイトは、委員会唯一の女性メンバーであり、出産間近だが、ラッド首相には、「(サミットには)必ず出席します」と確約しているという。女優・舞台監督であるケイトが、未来のオーストラリア文化・芸術をどのように発展させてゆくのか、同会議で見せる新たな顔に注目したい。
与えられたものこそ宝物
ケイトは現在38歳。オーストラリア出身の女優、ニコール・キッドマンやローズ・バーンなどが、その美貌やルックスでファッション誌を飾るそれとはどこか違う。それを悟っているかのように、自身が女優として成功した理由にセックス・シンボルになれなかったことを挙げている。「妖婦としての神話を築けると感じたことは1度もないわ。これはきっと良いことなのよ。だって仕事のことを心配するだけで、『レッド・カーペットで一番ホットでいなければ』なんてことを気にしなくていいんだから。たまにはもっとセクシーだったらとは思うけど、自分の与えられたものをそこそこ上手く扱ってきたと思うわ」。
過去にピープル誌が選ぶ“最も美しい50人”に選ばれているが、昨年は、有名ゲイ雑誌が選ぶ、“最もクールなストレートな人”ランキングで1位に輝いた。とにかく、男性からも女性からも支持される特別な魅力があることは間違いない。
また、若さをキープするために、美容整形やエステにひた走るハリウッド女優とも違い、年齢を重ねるプロセスをむしろ楽しんでいる。「歳をとるということにはすごい恐怖感がある。だけど、子どもがいるなら特にそうだけど、身体に表れた徴候や顔のシワなんかは若いころの軌跡。ガラスの傷は美しいでしょ。不完全性ね。私は何もかもが完璧な均一的なクローン化した美しさに興味はないの」。これは、完璧とも言える美しさを持っているからこそ言えることだと、同じ女性として嫉妬しつつ、さすがはケイトと感心した人も多いのでは。
仕事の際はハリウッドに滞在、それ以外はイギリスで過ごすスタイル。そして今年、STCの監督を務めるため夫とともにオーストラリアへ帰国した。ハリウッドにはどっぷりと浸らず、自身のキャリアを切り開いてゆく。もちろん映画の世界を離れたわけではないというが、実力も地位もある大女優がメインの活動の場を裏方へと移すのは勇気のいることであり、いや、むしろ今のケイトだからこそできることなのかもしれない。過去に彼女は、こんな発言をしている。
“If you know you are going to fail, then fail gloriously."(もし、あなたが失敗すると分かっているのなら、大胆に失敗しなさい)
自分の選んだ道を信じ、真っ直ぐと突き進む。失敗こそ、次のステップの道のりだと、この言葉からはそんな力強い原動力が感じられる。歳を重ねるごとに、次のステップを踏み出すたびに、ますます輝きを増すケイト。スピードを緩めることなく着実に歩む彼女のライフスタイルこそが、誰からも愛される理由なのかもしれない。
(編集部・五十嵐麻衣)
ケイト・ブランシェット出演作品
1997
オスカーとルシンダ
1998
エリザベス
1999
狂っちゃいないぜ !
リプリ―
理想の結婚
2000
耳に残るのは君の歌声
ギフト
2001
バンディッツ
ロード・オブ・ザ・リング/旅の仲間
シャーロット・グレイ
シッピング・ニュース
2002
ロード・オブ・ザ・リング/2つの塔
ヘブン
2003
ミッシング
ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還
コーヒー&シガレッツ
ヴェロニカ・ゲリン
2004
アビエイター
2005
ライフ・アクアティック
2006
バベル
さらば、ベルリン
あるスキャンダルの覚え書き
2007
エリザベス:ゴールデン・エイジ
アイム・ノット・ゼア
2008
インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国






















