「先に食事させてもらってもいいですか ? もうお腹ぺこぺこで」
取材前、あいさつもそこそこに快活な口調で東尾理子はそう言った。
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| ポーズをお願いすると、「なんでもどうぞ」と気軽に応えてくれた。さすがプロ。取材対応もバッチリ ! |
予選前日、曇りのち雨。ろくに練習もできないままクラブ・ハウスに戻った彼女だったが、その性格はその天気をも払拭するかのように明るい。陽気というのとは違った明るさを持っている。一重で切れ長の目、真っ直ぐに通った鼻筋。その端整な顔立ちがクールな印象を与えるが、スポーツ選手らしいはつらつとした明るさがある。今日は雨が止みそうにもないですねと言うと、「私が来るとなんで雨が降るんだろ。ハワイでもそうだった」と、からんとした答えが返ってきた。加えて、「あ〜あ」と遠足が中止になった子供ようなしぐさでため息をつく。
ハワイでのトレーニングを終え、オーストラリア入りした彼女は、これが今年最初のトーナメントとなる。3年前、彼女はこの「ANZレディス・トーナメント」に出場している。結果は予選落ちだった。今年は幸先のいいスタートを切りたい。前回の借りを返したい。だが、こちらの余計な詮索を裏切るように、目の前の彼女はリラックスしていた。
「前回は予選落ちしているんで、リベンジして帰りたいです。ただ、今年最初の大会なんで、自分がどれくらい成長したかを確かめたいですね。打ちにくいティ・ショットのホールがいくつかあるので、それを克服したいです。それが何番ホールだったかは覚えてないですけど(笑)」
はっきりとした応答の中にも、白い歯がよくこぼれる。ゴールドコーストの印象を訊けば、「サーフィンやってみたい ! 」と、小気味よい返事が戻ってくる。「こちらに住んでいるんですか ? いいな〜」と、普通の女の子のように話す。「スポーツなら、けっこう何でもできますよ」と、得意気に語る。「ん〜 ! おいしい」と感嘆の声を上げてカプチーノ(カフェイン抜き)をすする。東尾理子、27歳、身長160センチ。彼女を初対面でプロのスポーツ選手だと判る人は少ないだろう――。
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| 少ない時間を黙々と練習に費やした。この5分後に強い雨が降り、練習は中止。 |
雨が降り出す前のドライビング・レンジ。ほんのわずかな練習時間を彼女はここで過ごした。体の大きい外国人に混じり、横一列で並んで同じ動作をすると、まるで少女がゴルフをしているようだ。理にかなったフォームで振り下ろされるドライバー。低空で消えていく弾道の切れの良さに、ふと、父・東尾修(前西武ライオンズ監督)を思い出した。父もまたプロ野球選手としては、恵まれた体格とは言えなかった。だが、切れ味鋭いシュートとスライダーを武器に251勝を挙げ、名球界入りという金字塔を築いた。
彼女には、そのDNAが受け継がれている――。
8歳からゴルフを始め、高校2年生で日本女子アマチュア・マッチプレーで優勝し、大学時代には全米ベスト8入りを果たすという経歴から、実力は折り紙付きだった。だが、デビュー当時、マス・メディアが飛びついたのは「西武ライオンズ東尾修監督の娘がプロ・ゴルファーに」という話題性だった。その器量の良さとプロ・テストに一発合格という実力、さらには200勝投手の娘という話題性が相まって、“ゴルフ界のアイドル”はデビュー戦を待たずして、桧舞台に上がっていた。彼女自身は周囲の騒ぎを意に介することなく、すんなりとプロ・ゴルファーへの道を歩んだように見えるが、幼い時からずっとプロを目指していたというわけではなかった。
「両親は心の中ではプロ・ゴルファーになって欲しかったようですけど、何も言わず、自由にさせてくれました。フロリダに留学したのも、なにもゴルフのためではなかったから。大学にゴルフ場があって、勉強の合間にする程度でしたし、勉強のほうが大変でしたよ」
実際、彼女はこの大学時代が自分の人生を決めたターニング・ポイントだったという。大学では心理学を専攻し、(成績優秀者に贈られる)グラデュエート・ウィズ・オーナーで卒業。ゴルフではアマチュアのトップ。彼女の選択肢は一般女性のそれよりも数多いものだった。
「大学を卒業するまでは、大学院に行こうかなと思っていました。甘やかされて育てられてきた私が、親元を離れ1人で生活し、貴重な体験をいっぱい得ることができました。たくさん勉強もしなくてはいけませんでした。だから、ゴルファーじゃなくても何でもできるという自信はありました」
それでも、そのDNAはスポーツへの鼓動を辞さなかった。
「大学院に行こうか、日本に帰ろうかといろいろ考えました。アマチュアでもゴルフは続けられますから。でも、ゴルフをもっとしたかったし、もっと上手くなりたかったんで、やはりプロになってみようと。それになにより、一番好きだったから。自分で決めて、勝手にプロ・テスト受けて。プロになった時、両親に報告をしたかどうかも覚えてないです。実際にプロになったら(両親は)とても喜んでくれましたけど(笑)」
プロになったからには、勝たなくてはならない。そして、アマチュアで築き上げた過去の功績はチャラにしなければならない。彼女は自分を戒めるように常に課題を模索している。
「アイアンをもっと正確にしないと。私はまだ上手くないんで、ミスを減らして、少ないチャンスを生かしていかないといけないんです」
2月21日、東尾理子は+5の成績で今大会を終了。リベンジを果たすことはできなかった。予選に落ちたら、オフができますねと茶目っ気たっぷりに話していたが、すぐに、「もし、落ちても練習していると思います」と真顔になったその顔が逆に印象的だった。
インタビュー中、彼女の口からは「勝ちたい」「負けたくない」という言葉は出てこなかった。無論、シーズン初めということもあっただろうが、彼女が口にしたのはあくまで「もっと上手くなりたい」であった。ゴルフというスポーツに浸透していく彼女のDNAは、近い将来、きっと大きな花を咲かせることだろう。その時に見たいのは、彼女の、ごく普通の女性が見せるそれと同じ屈託のない笑顔だ。
プロフィール
ひがしお・りこ●1975年、福岡県生まれ。8歳でゴルフを始める。帝京高校時代に日本女子アマチュア・マッチプレーで優勝しトップ・アマの座に着く。日本大学に進学後、94年、全米女子アマでベスト8入り。95年、フロリダ大学へ留学。留学中、全米大学体育協会(NCAA)が全米のスポーツ優秀者に贈るオール・アメリカンを受賞する。また、全米女子プロ・ゴルフ協会(USLPGA)がゴルフと学業に秀で、社会福祉に貢献した学生ただ1人に贈るダイナ・ショア・アワードを受賞。98年12月、学士号を得て同大学を卒業する。98年、日本のプロ・テストに一発合格しプロ・ゴルファーに。160センチ、50キロ(公式ホーム・ページ、Web:
www.riko-higashio.comより抜粋)