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  プロフィル●ひのはら しげあき
1911年山口県生まれ。1937年京都帝大医学部卒業。1941年聖路加国際病院内科医、内科医長、院長などを歴任。現在、聖路加国際病院名誉院長・同理事長、聖路加看護大学名誉学長。財団法人ライフ・プランニング・センター理事長。日本音楽療法学会理事長。全日本音楽療法連盟会長。医学士。勲二等瑞宝章。文化勲章。『死をどう生きたか』(中央新書)『現代医学と宗教』(岩波書店)『看とりの愛』『老いに成熟する』『音楽の癒しのちから』(春秋社)ほか多数の著書がある。
 


95歳で日本最年長の現役医師を務めながら、75歳からの「第3の人生」を楽しむことを奨励する「新老人の会」で積極的な活動を行っているカリスマ老人、日野原重明氏(聖路加病院=東京都=名誉院長・同理事長)。2006年末、シドニー日本クラブの招待でシドニーを訪れ、講演を行った日野原氏を市内のホテルで単独インタビューした。
(取材協力:シドニー日本クラブ=JCS)
食事や運動などフィジカルな要素において、長く健康的に生きるための秘訣について教えてください。

  まず一番重要なのは、バランスが取れた食事を摂ることです。しかし、「バランスが取れた食事」に関するこれまでの医学的解釈が間違っていたんです。以前は歳を取った人も若い人も一様に、身長に応じて取るべきカロリーは同じだと計算されていました。
  ところがこれは間違いで、歳を取れば取るほど運動量も少なくなるし、体の代謝の働きも低下するので、摂る食事の量を今までの標準とされていた量の2/3に落とすのが秘訣です。これは新しい医学です。過去4〜5年の研究で、例えば、マウスやハエを使って実験すると、エサの多いところでマウスやハエを飼うと、寿命が短くなることが分かりました。ハングリーな状態に置いた方が寿命が長くなる、というはっきりしたデータが出たので、今度はサルで実験してみても同じ結果になったんです。寿命が長くなるだけではなく、皮膚のシワなどの老化も遅くなることが分かりました。
  つまり、若さを保つためには、飽食はよくないんです。日本では昔から「腹八分」という言葉がありますが、私は「腹六分〜腹七分」がちょうどいいと言っています。それを自分で実験するために、もう10年前くらいから減食しています。ただ、蛋白質は十分に摂り、ある程度の脂肪、特に植物性の脂肪、十分なビタミンを摂りながら、糖分を減らしています。とにかくカロリーを減らし、色の付いた野菜をなるべくたくさん摂ることです。糖分や穀物を少なくし、蛋白質とビタミンを十分に摂ることです。
  普通、若者が1日に摂取するのは2,200キロカロリーが標準ですが、中年を過ぎると1,600キロカロリー、70歳を過ぎると1,300キロカロリーくらいでよいことになります。そうなると、1日3回食事すると量が多すぎますので、私は朝、牛乳とジュース、オリーブ・オイル(小さじ1杯)、コーヒーを飲み、昼は牛乳だけ飲みます。つまり、固形物は夜だけしか食べません。夜もご飯は半分、魚は毎日摂りますが、肉は1日おきくらいに食べます。でも肉の脂肪分は食べません。そして野菜は、ドレッシングをたっぷりかけて食べます。トータルで1,300キロカロリーです。私の基礎代謝は1,200キロカロリーです。つまり100キロカロリーが、私が毎日、運動と頭脳活動に使うカロリーなのです。
  私は移動に車ばかり使っていますので運動量は少ないです。後は講演したり原稿を書いたりするために頭脳を動かすことに使うカロリーはほんのわずかです。そう考えると、人間の脳というものは機械に例えると非常にエネルギー変換効率が高いものなのです。
  また、私は午前2時まで仕事をして、2時から6時半か7時くらいまで寝ますので、睡眠時間は4時間半から5時間くらいでしょう。しかしそれで十分です。睡眠は深ければ(短くても)いいのです。さらに、うつむけに寝ることも大切です。その方が、眠りに入るのが早いんです。うつむけに寝ることがいいということは、多くの人には言われてないんだけれど、仰向けに寝るのは昔からの習慣なだけなんです。良いからではない。哺乳動物はみんなうつむけに寝るんです。内臓の構造はうつむけに寝るようにできています。うつむけに寝ると、腹式呼吸になりますから肺活量も増えるし、睡眠も深いし、排泄・排尿、いびき対策にもいいです。多くの人にうつむけ睡眠法を薦めて、データを取るとプラスの結果ばかりなんです。人間の文化生活の革命だ、と私は思っています。そのためには日本の固い枕はよくありません。薄い羽毛の枕がちょうどいいんです。お腹や胸の下に、大きな横長の羽毛の枕を置いて伏せて、両膝の間に柔らかい羽毛の枕を挟んで、足を曲げて寝るといいんです。イヌが寝ているような格好がちょうどいい。それが私の健康法です。
  体重と腹囲はだいたい30歳の数値を保っています。それが望ましいです。エスカレーターはできるだけ使いません。3階まではエレベーターも使わず、階段を上下する時に「吐いて、吐いて、吐いて、吸う」という一定の呼吸のリズムを心がけるようにしています。すると、腹式呼吸で肺活量が多くなるから体にいいんです。
  お酒は乾杯の時だけしか飲みません。タバコは吸ったことがありません。お酒は、ウイスキーを飲むならだいたい1日30cc、日本酒だったら1合、ビールなら小瓶1杯くらいまでが適量でしょうね。歯は94歳までは21本ありました。それからちょっと抜いて今は18本あります。どんな固いものでもまだ食べられます。美食は好きですが、量が少ないです。忙しいので、食事の時間を忘れることも多いですね(笑)。
  オーストラリアの食事は、魚がうまかったですね。野菜もまあまあです。食事には満足していますよ。

若い時に太平洋戦争を経験、日本初のハイジャック事件が起きた「よど号」に搭乗していたり、現場が聖路加病院から近かった地下鉄サリン事件の際には、負傷者を無制限に受け入れ、緊急医療活動を陣頭指揮されたそうですね。そうした極限の経験から学ばれたものは何でしょうか?

  平静の心。どんなことがあっても動じないことです。それが一番大切です。いろんな人と付き合う場合、あまり人に期待しないことです。人に対して何か意見を持っているんだったら、影で言うのではなく、直接言った方がいい。
  また、人間は目標を持った方がいい。いろんなことを悲観的に考えないことも大切です。落胆しないで、前向きに良い方向に考えていくようにしています。行動する勇気を持つことも重要です。勇気ある少年のような心を持つことです。

日本では、戦争体験が風化し、特に若い人たちを中心に「右傾化」が進んでいると言われている中で、日野原先生は「日本は、核や武器そのものを持つべきではない」と主張されています。先生の平和の哲学について教えてください。

  日本は終戦後、平和憲法を施行し、全く武器を持たない国になったはずでした。憲法にも、世界が平和に向かう中で、日本が率先して実行していこうという考え方が書かれています。しかし、戦後約60年の間に、実際の世界は平和に向かわず、核兵器が増えています。すべての武器を捨てて、日本が滅びて犠牲になってもいいというくらいの覚悟が必要だと思います。私は、もうそういう決心をする時期ではないかと思います。憲法改正というと、軍備を増強し、もっと米国との同盟関係を強化して国を守るのか、現状維持か、という議論になります。しかし、私は今のままも良くないと思います。今の日本の平和は、米国の核を盾にした平和であり、完全な平和ではありません。10年間の余裕を持って、米軍基地を閉鎖する方向で考えるべきだと思います。ただ、米国にはたいへんお世話になっているので、引き揚げ費用は全額、日本の税金でまかなうくらいの犠牲を払うことによって、「平和の日」を迎えるべきだと思います。
  それは安易なことではありません。日本はあえて難しい道を歩むことになりますが、戦争を知らない子供たちにいかに平和が大切かを、75歳以上の戦争を知っている世代が伝えていかなければいけません。75歳以上の老人が、戦争体験や勉強、語学、パソコンなどを子供に教えることによって、子供たちに尊敬されるように、老人も努力しなければいけません。「新老人の会」では、子供の模範になるような老人のモデルを目指しているのです。
 
核兵器もそうですが、理論的には遺伝子を操作してクローン人間を作ることができるようになるなど、一歩間違えば人間が科学の進歩に対して責任を取れない状況が生まれています。遺伝子操作の問題に絡む「命の尊厳」について、1人の医師としてどのようにお考えですか?

  科学というのは不幸な戦争によって発展したんです。戦争があると科学は発展するんです。なぜなら思い切った人体実験をやるからです。(日本が戦争捕虜に人体実験を行ったことによって)あらゆる伝染病の潜伏期間が分かりました。どこの国でも戦争をすると医学が進歩します。倫理に関係なく、人間を人体実験に使うからです。みんなクレイジー(な精神状態)になるから、(人体実験が)倫理的にとがめられません。どこの国の人も、戦地にいる人の心理は悪魔のようになるのです。悪いとは思わなくなるんです。しかし、そんな科学の進歩は悪だと思います。
  また、昆虫でも動物でも人間でも皆「生きたい」という気持ちを持っています。でも、人間だけが動物を殺していいのか、ということになる。生き物と共生できるように工夫することが文明だと思います。ただ便利になるのが文明ではありません。もちろん、人間を殺すような動物はある程度防御しなければいけませんが、害がないアリやハチなどの命を奪うことは、私はよくないと思います。人間の命だけではなく、動物の命も大切にするという世界であればと思います。
  遺伝子の中には良い遺伝子と悪い遺伝子があるんです。どれが良い遺伝子になるかという研究はするべきです。どんな要素を集めれば良い遺伝子になるのか、どんな材料を集めないようにすれば悪い遺伝子が出ないか、というのがこれからの研究テーマです。「新老人の会」では、75歳以上の450人を対象として身体検査を毎年やっています。入会時に遺伝子を調べているんです。痴呆の遺伝子というのは、5人に1人の確率で持っています。75歳の人が85歳になるまで、毎年詳しい身体検査をやるほか、何を食べているか、どんなビタミンと摂っているか、どのように運動をしているか、どのような社会活動をして、どんな趣味を持っているか、などのデータを全部コンピュータに入力しているんです。そして、食べ物や運動、趣味、人間関係などの外的な『環境因子』と、遺伝子の関係を調べます。痴呆の遺伝子を持っていても痴呆症にならない人を10年後に調べ、どのような環境因子がいいのかを統計学的に研究します。そうすれば、どのような要素が良い遺伝子を作り、どのような要素が悪い遺伝子を眠らせることができるのか、ということが分かるようになります。この研究は5年前に始めましたので、5年後には結果が出ます。皆さんが健康に生きて、痴呆症にならないためにどうすればいいのか、何を食べ、どういう運動をして、どのような活動をすればいいのか、ということが分かる可能性があります。こうした追跡的な疫学検査を10年間やっていくんです。何が痴呆症の遺伝子を花咲かせたか、または痴呆の遺伝子があるのに何が痴呆症の遺伝子を発現させないのか、ということが統計的に分かれば、皆さんにそういう生活を薦めることができるようになるんです。

それでは、5年後にぜひその結果を発表してください。

  海外に出ると、初めて、日本の良い所、悪い所が客観的に見ることができるようになります。日本にいると分からないことが、外に出ることによって、日本というものが分かるんです。違った環境で生活することは、公平な判断ができるようになるという意味で、自分にとって非常にプラスになります。外に出ることによって、日本の何が良いかということを発見して、それを育てる努力をしないといけません。また、外国に対しては、何を輸入して、何を輸入しないかという選択をする必要があります。日本は米国から、「油の多い食事」「動物中心の食事」「糖分の多い食事」「自動車に乗って運動しないこと」など、そういう悪いことを学びました。何が悪いのか、何がいいのかということをよく見極めて、いいものに関しては受け入れればいいと思います。
  日本人には胃がんが多いんです。欧米人には少ない。塩分が多くて、熱いものを食べるのが胃がんの原因だということが、最近分かってきました。塩味を薄くして、熱いものをあまり食べないようにするのがいいんです。逆に、心筋梗塞になる米国人の数は日本人の3倍多いんです。それを少なくするためには、糖分を減らす、カロリー摂取量を減らして肥満にならないようにする、動物性の油を摂らないようにする――そうすれば心臓病になる可能性が低くなります。また、海外に比べて日本人に脳卒中が多いのも、塩の摂取が多いからなんです。
  つまり、日本では、塩分と熱いものを減らし、米国では、動物性の脂肪や糖分の多い食事をコントロールすれば、心臓病が増えていくことはないでしょう。日本では胃がんが減りつつあります。一番多いのは肺がんです。肺がんの原因で全体の半分は遺伝子です。早く発見して手術すること以外に方法はありません。残りの半分の原因はタバコです。米国やカナダでは、タバコを吸う人が減っているので、肺がんも減っています。でも、米国のタバコを日本の高校生が好んで吸っているのは良くないです。アヘン戦争みたいなもので、米国が悪いものを外国に輸出するのは良くないと思います。良いものは外国に出す、悪いものは外国に出さない――。そうするべきだと思います。
  5年後、100歳の時にまた、シドニーに来ます。その時に遺伝子の環境因子の研究結果についてお話ししましょう。


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