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因縁の再戦はあるか !?
'06年サッカーW杯で日本を粉砕したあの男が帰ってきた!

独占インタビュー
ティム・ケーヒル選手 (オーストラリア代表・MF)
Profile

ティム・ケーヒル
1979年、シドニー生まれ。MF・FW。178センチ・68キロ。97年、シドニー・ユナイテッドから英プレミア・リーグ、ミルウォールに移籍。MFまたはFWで活躍し、52ゴール(97−04年)をマーク。03/04年シーズン、世界最古の国際大会として知られるFAカップでミルウォールを決勝へと牽引したことが認められ、04年、英プレミア・リーグの名門エバートンに移籍。04/05年シーズンでは13得点、エバートンをUEFAチャンピオンズ・リーグ出場に導き、不動のエースに。また04年、豪州A代表に初選出。06年W杯では日本戦で豪州代表史上初得点を含む2ゴールを叩き出した。2007年3月末現在、23キャップ(11ゴール)

 2006年6月12日、サッカー・ワールド・カップ(W杯)予選リーグF組第1節。日本にとって想定し得る最悪の悲劇が起きた日だ。サッカーの神様ジーコが率いる日本。中田英寿が引退をかけて挑んだ日本。中村俊輔のW杯初ゴールで先制した日本。史上最強とも言われたサムライ・ブルーの夢は、途中出場の1人の男によって粉砕された。ティム・ケーヒル、その男である。疾風のごとく動き、わずか6分もの間に2ゴールを挙げ、オーストラリアをW杯初勝利に導いたあの男が7月、豪州代表の主力としてアジア杯(AC・7月7〜29日)に出場する。AC3連覇がかかる日本との対戦が実現すれば、W杯以来の因縁の対決となる。そこで本紙は、アジア杯を前に彼を直撃。日本の夢を悪夢に変えた男がいったい、いかなる人物なのかを探るとともに、アジア杯の展望を彼のコメントから俯瞰する。

■取材・文:森茂樹、写真:谷岡ちひろ、通訳:山本厚士 取材協力:EMPORIO ARMANI

 

特集 - インタビュー
「アジア杯で勝つことは豪州サッカーに大きな意味をもたらす」と語った

■プレーとは裏腹なティムの素顔■
  06年6月12日、ジーコが巻き起こすはずの神風は完全に「無風」に終わった。しかし、あの惨敗が「大誤算」だと言うならば、それは、どことなく日本を包んでいた“慢心”が原因だと言えるだろう。32年ぶり2回目の出場で、W杯無得点の国(当時)に日本が負けるわけがないと考えていた、サッカルー(豪州代表の俗称)の実力に対する慢心だ。そして、敗してなお腑に落ちないのは、あと6分持ちこたえていれば得られた勝ち点3をわずか10分程度で無残にも奪い去られたことだ。
  その最悪のシナリオを演出したのがティム・ケーヒルだった。後半9分から途中出場し、後半39分に同点ゴール。そのわずか5分後には逆転のゴールを奪った。この大逆転劇は、フース・ヒディンク監督(当時)の選手交代の妙が生んだものだという見方が多いが、そもそも、英プレミア・リーグの名門エバートンでツートップを張るケーヒルがサブとして控えていること自体、日本には既に脅威だったはずなのだ。
  ケーヒルは決して大柄ではないが、類まれなるフィジカルの強靭さと小悪魔的なポジショニング勘で所属クラブの地元エバートンでも“信頼のおける”選手として愛されている。日本戦で放った2ゴールは彼に「マン・オブ・ザ・マッチ」をもたらし、英国でもその評判は轟いた。
  その彼は現在、足(中足骨)の故障のリハビリとアジア杯に向けた調整とを兼ねて、シドニーに帰ってきている。
「英国だけじゃなく、日本でも僕のゴールを評価してくれたことはとても光栄に思うよ。2得点できたのはすごく嬉しいけど、日本と対戦して僕たちが勝ったにもかかわらず、日本人のファンができたこともあって、ありがたく思っているんだ。だから相手が日本だったのは残念かな」
シドニー市内マーティン・プレースの一角、エンポリオ・アルマーニの店内に顔を出したケーヒルは、いつもの猛々しいプレーをいっさい彷彿とさせない柔和な表情でそう語った。まるで1人の青年がふらりと店に寄ったような感じで現れ、取材陣に笑顔で握手を求めてきた。先の日本戦で見せたゴールへの執着心もさることながら、DF駒野へのスライディング(ケーヒルはそのプレーでイエロー・カードをもらった)は荒々しいものがあり、タフで屈強なプレー・スタイルの印象が強かっただけに面を食らった。しかし、一声を聞けば、彼の人柄は伝わるであろう。ティム・ケーヒルは温厚で、真面目で、心配りのできる人物であると。
「イギリスやオーストラリアで出会う日本の人たちは気軽にサインを求めてきてくれる。それはとても嬉しいこと。W杯の結果とは関係なく、僕を受け入れてくれることが嬉しいんだ」
  事実、彼はエバートンでもファンを大切にすることで有名。そのファンが日本人であれ、オーストラリア人であれ、彼にとっては大切な存在なのだという。

特集 - インタビュー
取材中も、時折カメラに笑顔を向けるなどサービス精神に溢れていた

 ケーヒルの言葉は、正々堂々としたスポーツマンシップを含みながらも、そこはかとない心配りが見える口調で続いた。取材場所となった「エンポリオ・アルマーニ」について聞くと、実に27歳の若者らしい答えが返ってきた。
「僕は女性に劣らずファッションには敏感な方だと思うよ。プレミア・リーグに移籍した時から、アルマーニは好んで着ている。欧州のファッションのスタイルが好きだし、中田英寿さんにも大きく刺激を受けたところがあるよ。彼は欧州でもファッション・アイコンとして有名だしね。僕は彼のスタイル(ファッションでもサッカーでも一流なところ)をとても尊敬しているんだ」
また、彼は母国オーストラリアでは百貨店大手「マイヤー」や、シリアルの「ウィート・ビックス」、タイでは「チャング・ビール」のCMなど世界各地のメディアに登場している。その甘いマスクで女性にたいへん人気だと告げると彼は照れ笑いを浮かべて言った。
「僕のルックスを気に入ってくれるのは嬉しいけど…。子どものファンがいることが嬉しいな」

■アジア杯の展望■
  話を本業に戻そう。日本戦で勢いに乗ったサッカルー(豪州代表の俗称)は決勝トーナメントに進出した。決勝Tで惜敗したイタリア戦では、優勝国を再三追い込む場面も見られた。その意味では、オーストラリアのサッカーがようやく世界で日の目を見た歴史的な大会でもあった。そして、オーストラリア・サッカー連盟(FFA)は昨年、アジア・サッカー連盟(AFC)に転籍。豪州はアジア枠に入った。その国際大会の第1弾がアジア杯(7月7〜29日、インドネシア・マレーシア・タイ・ベトナムの4カ国共催)だ。
「オセアニアに失礼なことは言いたくないけど、アジアのサッカーのレベルは確実にオセアニアよりも上だから、サッカルーにとっても今回の大会は大きな意義があるし、日本や韓国などの強豪を相手に戦うことができれば僕たちはもっと成長できると思うんだ」
  アジア杯では、W杯ベスト16のオーストラリアとアジア杯3連覇を目指す日本が優勝候補の最有力である。そして、日本が豪州と対戦する可能性は準決勝または決勝のいずれか(*1)となる。W杯での雪辱を晴らしたい日本とAFC加盟で実力を世界に示したい豪州との因縁の対決が実現する可能性は高い。また、2010年のW杯南アフリカ大会(*2)を占う意味で言えば、W杯でその強さを世界に見せつけたオーストラリアがアジア枠に入ってきたことは日本にとって大きな脅威であり、このアジア杯での勝敗は今後の両国のサッカーの方向性を大きく変える可能性すらある。
「W杯で日本に勝利したと言えども、オーストラリアと日本の実力差は拮抗していると思う。(アジア杯では)決勝まで勝ち上がることができればいいけど、そこまでの道のりも険しいだろうから、今は日本を意識しているわけではないよ。でも、もし日本と戦うことになったら、戦術面を考えなければいけない。相手がボールをキープしたら、すぐにプレッシャーをかけるとか。日本人選手はとてもボール裁きが巧みだからね。

特集 - インタビュー
2006年9月、ロンドン・ファッション・ショーの特別セレブレーションでジョルジオ・アルマーニ氏と撮影。同セレブレーションにはビヨンセ、50センツ、レオナルド・ディカプリオらも招かれていた(Photo: EMPORIO ARMANI)

  みんな、日本人はフィジカルが弱いと言うけど、(対戦してみて)そんなことはなかったよ。特に、中田(英)選手はフィジカルが強かった。僕も彼も上背がある方ではないけど、海外移籍してプレーしていくうちにフィジカルが強くなったタイプだよね。そのほかの選手もとてもタフだったし、世界で経験を積んでいる選手が何人もいる。だから、日本と対戦することになったら気を引き締めなきゃ。なにせ日本はアジア王者だから」
  日本は2連覇中のディフェンディング・チャンピオンであることに間違いはない。しかし、前回の中国大会(04年)のような奇跡の連続(*3)が今回も起こるとは限らない。また、ケーヒルも慕う中田英寿が引退し、絶対的な精神的支柱が見当たらないのも不安材料だ。その点、前回のW杯の主力が残るオーストラリアに分があるようにも思えるが。
「中田選手が引退したのは大きいね。それは確かに痛手かもしれないけど、韓国や日本などアジアにはプレー・スタイルが確立されているチームが多いのは有利なことだと思う。オーストラリア代表の課題はそこなんだ。イタリア戦と日本戦では、戦術がぜんぜん違ったし、僕たちは相手のスタイルに適応しなければならない。サッカルー独自のスタイルというのが確立されていないんだ。スタミナが豊富という特徴があるけれども改善していかないといけないところが多いのも事実だしね。それに、アジアは欧州の気候ともずいぶん違うし、コンディション面でも適応していかないといけない。これも大きな課題なんだ」
  ケーヒルの顔が引き締まった。故障による休養中とは言え、試合の話になればすぐさま“仕事モード”に入れるのは、彼が常に真剣にサッカーに向かっている証でもある。そして、母国に帰ってきたことで、その気持ちを再認識しているようにも見える。
「僕は幼いころから今でもずっとサッカーが大好きなんだ。サッカー選手として成功できたのは家族のおかげ。親、姉妹、従姉妹と自分の家族たちのおかげでいろいろな試練を乗り越えられたんだ。僕がいつも心がけているのは、地に足を付けて、(家族という)基盤をしっかりと心に留めておくこと。メディアが僕をどうスター扱いしようとも、そこは不変のものなんだ。そうじゃないと、サッカー自体を楽しめない」
  家族への思いは母国オーストラリアへの思いでもある。久しぶりにシドニーに戻ってきて、彼は自分の言葉で語ることによって、アジア杯への意気込みを強めているように思えた。
「自分の国を代表するにあたって、一番の力になるのは国に対するハートだと思うんだ」

特集 - インタビュー
06年W杯日本戦。強烈なタックルは彼の持ち味でもあり、点取り屋ながら守備への意識も高い。写真左は日本代表・柳沢(Photo: AP/AAP)

■パパはボクサー■
  そんな母国への愛情も強いケーヒルは1979年12月6日、サモア人の母と英国人の父の間に生まれた。両親の勧めでサッカーを始め、「マリックビル・レッド・デビルズ」などの地元クラブ・チームからこつこつと技量を高め、いつしかスーパー・スターの地位を獲得していった。現在は3児の父親でもある。エバートンでの人気ぶりは先述の通りだが、彼のゴール・セレブレーション(*4)である「シャドウ・ボクサー」はエバートン公式サイトのスクリーン・セーバーにもなっている。
「あれは、友達のアーチー・トンプソン(メルボルン・ヴィクトリー)がコーナー・フラッグを相手にカンフーの真似をするから、僕も何かないかと思って始めたこと。ある日、息子がボクシングのテレビ・ゲームで遊んでいるのを見て思い付いたんだ。W杯の時にはアーチーにも僕にも小さな子どもがいて、ゴールを決めたら、それをするって約束していたんだ。もともとはアーチーと子どものためにしていたんだけど、今じゃ世界中の人が覚えてくれているから驚いているよ(笑)」
  父親としてもサッカー選手としても、ケーヒルは今一番脂の乗った時期にきているのだろう。足の故障が完治した暁の活躍が期待される。そして、日本にとってはあの悪夢を再び見せられるような予感さえする。現在は治療を続ける傍ら家族サービスにも精を出しているようで、専ら釣りを楽しんでいるという。
「家の裏で毎日のように子どもたちと釣りをして楽しんでいるよ。イギリスではなかなか気軽にできないからね。将来的にはやはり家族と一緒にこの国に住むというのが理想かな」
  最後に子どもたちにメッセージを、とお願いすると、彼は一瞬、思案顔をしてこう言った。自身の子どもたちの姿が脳裏に浮かんだのかもしれない。
「W杯には子どもたちと一緒にドイツに行ったのだけど、子どもたちには僕が経験することを一緒に体験して欲しいんだ。僕がプレーを通じて自分の子どもやファンの子どもたちに伝えたいのは、相手をリスペクトすること、正しい心がけをすること、自分らしさを大切にすること、自分に正直に生きることなんだ。サッカー選手は世界中の子どもたちの憧れだから、それに応えられるようにしないといけない。そして、僕は子どもたちに、サッカー選手として成功することよりもサッカーを楽しむことの方が大切だということを学んで欲しいな」

*1:アジア杯で日本と豪州が対戦するのは、日本または豪州のどちらかが予選リーグ1位通過し、他方が2位通過の場合は準決勝、両国ともに予選リーグ1位通過の場合は決勝で対戦する可能性が出てくる。
*2:各大陸別予選の組み合わせ抽選は07年11月23日に行われる予定。
*3:04年、アジア杯中国大会では、準々決勝のヨルダン戦、準決勝のバーレーン戦と2度の延長戦を制しての優勝だった。特にバーレーン戦では先制を許すほか、常に先手を取られるなど、決して楽観できる戦いぶりではなかった。
*4:ゴールを決めた後に行うポーズやダンス。日本では三浦和良の“カズ・ダンス”などが有名


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