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パッションなしでは、生きててつまらない

「ノブ」オーナー・シェフ 松久信幸氏
Profile

松久 信幸
「ノブ」「マツヒサ」「ウボン」の名で世界に19店舗を持つレストラン・グループのシェフ兼経営者。シェフとして数々の賞を受賞しつつ、レストランも常にアメリカの各メディアでトップ・レベルの評価を受ける。アメリカ在住

 20年前にアメリカ、ビバリーヒルズの一角に小さな日本料理の店を開いて以来、世界中のセレブたちから絶賛を浴び続け、今やニューヨーク、ロンドン、東京を含む各都市にレストランを持つカリスマ・シェフ、松久信幸氏。ハリウッドの大スターに「ノブ」と呼ばれ親しまれる彼が、19件目の店をVIC州メルボルン市内のクラウン・カジノにオープンした。来豪中の松久氏に独占インタビューした。

 

特集 - インタビュー
インタビューに答えるカリスマ・シェフ。気さくな人柄だ

■ノブのチームを作り上げる

――「ノブ・メルボルン」開店の首尾は、いかがですか ?
  新しい店ではいつも、他店で経験を積んだスタッフを中心に置き、そこに新人が加わってチームを作ります。ビバリーヒルズにある僕の最初の店で育った人間を次の「ノブ・ニューヨーク」に送り込み、今度はそこのスタッフがロンドンへ、そして今回メルボルンはロンドンのスタッフが中心です。お店が増えることにより、そこで育つ人間がいて、彼らが新しい店を作り上げていく。ノブのクオリティーを知っていて、それを守るのは彼らの仕事の1つなんです。
  場所があって、お金をかければ、まあいい店はできる。だけど、その器をどう素晴らしくしていくかは、人以外の何ものでもない。だから、まず人を育て、チームを作る。そして僕は、そのチームで働く1人ひとりに、夢と希望を与えてあげる。例えば来年はモスクワ、メキシコ、ドバイでオープンします。ノブのグループで働いていれば、いろいろなチャンスが与えられるんです。これまで、みんなそうやって育ってきました。

――スタッフの良さは、気さくなノブさんの人柄もあると思いますが。
  僕の人柄がいいからとは自分で言えない(笑)。ただ、自らチームの中に入って、ノブの哲学をスタッフに常に語りかけていくというやり方は、僕でないとできないとは思います。だからそう言ってもらえると嬉しいですね。

特集 - インタビュー
シグネチャー・ディッシュの1つ「ホタテのティラディート、ノブ・スタイル」

■最終的にはフィーリング

――ところで今回、ノブをオーストラリアでオープンさせるにあたって、最大の都市であるシドニーではなくメルボルンを選んだのは ?
  僕の共同経営者が、「クラウン」のオーナー、ジェームス・パッカーの亡父ケリー・パッカーの友人でした。それで僕もジェームスと一緒に何度か食事をしたりしていた。そのうちに、「あ、この人間だったら」と思った。彼の人柄、ノブのコンセプトを理解してくれているという信頼関係があって、ここでやろうと。いつも最後の決め手になるのはフィーリングです。
  ビジネスというのはいきなり儲かるものではなくて、必ず半年なり1年、基礎を作り上げる期間が必要で、その間莫大なお金かかる。だから「お店を開けました。じゃ、すぐ利益」というパートナーとは、僕らはできない。我々はけっして安くはない。でも作れば必ず、人を引き寄せる。その実績があります。

――「ノブ」というブランドに確固とした自信があるわけですね。
  今のノブという名前を作り上げてきたのは、最初の「マツヒサ」から20年という歴史と、信頼関係、チームワーク。それらが積み重なったものです。どうして成功したかとよく聞かれますが、ひと言では説明できない。でも、手を抜けば、簡単に崩れてしまうことは明らか。どうしたらもっと良くなるか、常に「攻め」でないといけない。

特集 - インタビュー
7月23日にオープンした「ノブ・メルボルン」の店内

■パッションなしでは生きててつまらない

――ノブさんは子どもの時、初めて行った寿司屋に感激し、料理人になろうと決心、そして東京で寿司職人の見習いからスタートした。そんな子ども時代や下積み時代の「食への情熱」は、成功した今も変わらないと思いますか ?
  情熱は、むしろ強くなっていますね。僕の夢はまだ途中。欲張りだからというのではないんです。人間これで良いと思ったら、あとは下降線を辿るだけ。パッションなしでは生きててつまらない。僕は今自分の人生に満足していて今度は家族や、スタッフ1人ひとりを幸せにしてあげる番。周りの人が成功した時、初めて僕にとっての成功が本当のものになるような気がします。
  僕にとって一番大きな転機は、ビバリーヒルズの前、アラスカの店が火事で全焼してしまった時でした。その時に学んだのは、忍耐すること、人への感謝、家族の愛情の大切さ。若いころは、もっと金を儲けたい、人とは違うことを派手にやってみたいと思う時期もあった。でも本当に苦しんでから、あとは1歩1歩やるしかないと感じた。焦ったってお金は急に稼げない。1つ1つ着実に自分のものを作り上げていくことが、一番の近道だと気付いたんです。

――最後に、これだけは食べてほしい「ノブ・メルボルン」ならではのメニューは ?
  オーストラリアには新鮮な魚がたくさんあって、創造のチャンスがありますね。でも最初の2、3カ月は、「ノブ」の基本メニューでやります。そうでないとスタッフもお客さんも混乱してしまいますから。我々は地元の人の好みに合わせて味を変えることはしない。飽くまでノブのスタイルです。
  とにかく1度ノブに来てほしい。気楽に来て好きなものを食べて帰れるような店にしたいですね。例えば銀だらとご飯だけ食べて帰るとか、お寿司を2、3個つまんでいくとか。フォーマル過ぎず、だからといってカジュアルでもない。そんな「ノブ」的なものをこの街で表現できたらと思います。


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