スマトラ沖大地震・インド洋大津波で甚大な被害を受けた地域、とりわけ隣国インドネシアを救援するために、ハワード政権は豪州史上最大の復興支援策を緊急発動した。また、民間の救援募金額は1億1,700万豪ドル(1月11日時点)、豪州国民の1人当たり募金額は5.85豪ドル(同)に達しており、主要国の中でも群を抜いている。近隣国が受けた大災害に対して豪州国民がいかに強い衝撃を受け、被災者支援と復興援助の手を差し伸べたいと願っているかを示した。 (文責=菊地勝吾)
インドネシアへ巨額の復興支援金を供与
推定で22万人以上もの死者・行方不明者を出した大災害に対して、豪州政府は軍の部隊を主体とする援助チームを被災地に緊急派遣する一方、各国政府・国際機関による救済・復興支援額の中では圧倒的に巨額となる10億豪ドルもの復興支援金をインドネシアに供与することになった。豪州は被災地に比較的近い国とはいえ、先進国の中では際立った取り組みを行っている。ちなみに供与額上位5カ国・地域のうち、第2位となる8億9,000万豪ドルを供与する予定のドイツは、1月13日現在の公式発表で自国民の60人が死亡、720人が行方不明となっており、死亡・行方不明者数が目立って多い。豪州は15人が死亡、31人が行方不明、日本は24人が死亡、69人が行方不明、米国は35人が死亡、18人が行方不明との状況である。
【各国政府・世銀の支援額】
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| (資料:ロイター通信/オーストラリアン) |
【民間の救援募金額】
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| (資料:シドニー・モーニング・ヘラルド) |
また、豪州国民は積極的に救援募金に応じており、民間の慈善・支援団体が集めた救援募金額は1月11日段階で1億1,700万豪ドルにも達した。人口約2,000万人の豪州で、国民1人が平均5.85豪ドルの募金に応じた勘定になる。民間の募金額の95%を占める6団体の集計額は上記の表の通り。団体によると、わずか3週間弱でこれほど巨額の募金が集まったのは前例がないといい、災害がいかに大きな衝撃を豪州国民に与えたかを物語っている。
ハワード政権、大災害への救援で迅速な対応
10億豪ドルもの巨額な支援金を豪州政府が外国に対して供与するのは豪州史上で初めてである。つまり、災害の規模が極めて大きかったために巨額支援が必要とされていたという現実的な問題を表しただけではない。ハワード政権が今回の災害を契機に特にインドネシアとの間でより強い関係を築こうとしているかの国際関係戦略をこの10億豪ドルという数字は具体的に示している。
インドネシア・スマトラ島のアチェ州をはじめ、インド洋沿岸の各国で地震と津波による甚大な被害が明らかになり始めた12月27日、ハワード首相はインドネシアのユドヨノ大統領に電話をかけ、豪州政府が緊急援助チームを被災地に派遣する用意があると伝えた。ユドヨノ大統領によると、電話で会談した各国首脳の中で、ハワード首相は最初の人物であったという。ハワード・ユドヨノ会談の結果、豪州軍の部隊と医療チームのアチェ州派遣をインドネシア側が受け入れると決まった。アチェ州はインドネシアからの分離・独立運動を掲げた自由アチェ運動(GAM)が1970年代以来、インドネシア国軍との間でゲリラ戦を長年にわたって繰り広げている地域。政治的にも微妙なそのアチェ州の首都バンダアチェに、救援物資を積んだ豪州空軍の輸送機が一番乗りの形で到着した。
ユドヨノ大統領が豪州軍の派遣を受け入れた時点で、ハワード首相は「インドネシアのために非常に大きな援助策を発動する必要がある。豪州国民はそれを支持してくれるはず」と決意し、関係者らに大規模な緊急支援策をまとめるよう指示したという。その後の豪州政府内の対応は極めて迅速だった。
ハワード首相は復興支援策を作成するために、首相・内閣府のピーター・シャーゴールド長官と話し合いを開始。シャーゴールド長官は12月30日までには少人数の閣僚・要人級の作業チームを組織して具体策を練った。この作業チームには、財務省や外務省のトップ官僚のほか、ピーター・コスグローブ豪州軍最高指令長官、デービッド・リッチー駐ジャカルタ豪州大使などが参加。そしてわずか48時間後の1月1日夜までには復興支援策の内容をまとめ上げたのである。2日には財務、外務、財政の主要閣僚がこの支援策の金額や管理・運営方法を了承した。
主要閣僚の了承を受けてハワード首相は同日、ユドヨノ大統領に電話をかけ、金額を具体的には明らかにしなかったものの豪州政府が大規模な援助金を供与する用意があると伝え、この資金を豪州・インドネシア両国で管理・運営するとの案を提示して、同大統領からの了解を得た。
5日までには豪州とインドネシアの外務省間で支援策の2国間調整が行われた。5日夜、ジャカルタを訪問したハワード首相がユドヨノ大統領と会談し、復興支援の契約文書に調印。この席上、同大統領は「(災害発生後)あなたは私に最初に電話してくれた人物だ。豪州は我が国の救援に最初に駆けつけてくれた国だ」と、あらためて感謝の意を表明したという。
そして、26カ国の首脳・要人と国際機関が参加して6日にジャカルタで開催された復興支援サミットの席上、ハワード首相はインドネシアの復興援助金として10億豪ドルを供与すると発表し、世界の注目を浴びたのである。
豪州・インドネシア両国で10億豪ドルを管理・運営
昨年10月にインドネシアで初めての国民直接選挙で選ばれたユドヨノ大統領が就任演説で「構造的にまん延する汚職の撲滅」を第1番の課題に挙げたことでも理解されるように、同国の行政機構の中に存在する汚職・腐敗は根深く、開発援助金として供与された公的資金が、汚職官吏や政治家、その家族・縁故者たちの懐財産に消えていくという例が過去に多々見られた。
ハワード政権が復興援助策を短時間で作成する際に腐心したのは、資金が汚職・腐敗の「餌食」とならず、被災地復興と被災者支援のために有効かつ迅速に使われる仕組みづくりだった。この目的のために豪州側が提案し、インドネシア側が合意したのは援助資金の2国間共同管理である。しかも、国連の国際援助機関や組織を一切通さずに、豪州が資金を直接供与して管理・運営に関わる「国連迂回援助」となった。
具体的には、インドネシアの「国家経済開発計画局(BAPPENAS)」が復興事業計画を進め、10億豪ドルの資金の使途を決めていく。豪州側が任命した豪州人の係官が最大で12人、BAPPENASの組織内で勤務することになっており、豪州人係官はインドネシアに駐在する。同組織内には共同運営委員会が設けられ、豪州政府系の国際援助機関、オースエイド(AusAID)の係官が指導的な役割を果す予定だ。ダウナー外相によると「豪州企業が復興事業の業務を委託されるようオースエイドは選択するであろう」と述べており、豪州企業が優先的に事業権益を確保するという点で、豪州色の濃い復興援助活動となる見込みである。
10億豪ドルの概要は以下の通りである。
1. 5年間の中期プログラムとして運営
2. 5億豪ドルの緊急援助と5億豪ドルの無償貸与の2本立て
3. 緊急援助資金5億豪ドルの使途:“鏈卉呂両規模インフラを建設 土木エンジニア、医療・保健スタッフ、行政管理見習い者などの育成奨学金 インドネシア軍の救援部隊への支援 ぅぅ鵐疋優轡海軍の支援艦1艇、大型軍用航空機7機、ヘリコプター4機などを購入 ゾ水製造プラントの建設 ι賊1棟の建設、医療チームの待機所と避難施設の建設
4. 5億豪ドルの貸与は40年満期で無金利。元金の分割支払いは当初10年間猶予。大型インフラの建設資金に充当
ハワード首相は、豪州史上で前例のない大規模で思い切った対外支援を行うことに関して、テレビ演説を行って豪州国民の理解を求めた。援助実施のスピードと資金規模に関しては、野党の労働党がその内容を評価するコメントを発表したほか、ほかの野党からも批判が上がっておらず、批判的な世論は現在までのところ見当たらない。今回の大災害に対する豪州政府による支援活動の内容と方向は、豪州国民の一致した理解を得られていると言えそうである。