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6月のサッカー・ワールド・カップ(W杯)第1戦でいきなり日豪代表が激突、11月にはシドニー北部沖で行方不明だった旧日本軍の特殊潜航艇の船体が64年ぶりに見つかるなど、期せずして、日豪交流年を象徴するようなニュースが相次いだ2006年。一方、中東ではイラク状勢が泥沼化、東アジアでは北朝鮮が核実験を行い、そして近隣の南太平洋諸国では政情不安…。激動の世界情勢の中で、資源ブームを背景に息の長い好景気を謳歌するオーストラリアはどこへ向かうのか ? 新聞・通信社のシドニー特派員に集まってもらい、徹底討論してもらった。

座談会出席者(敬称略)
共同通信社シドニー支局長 坂田 進
時事通信社シドニー特派員 犬飼 優
日本経済新聞社シドニー支局長 盧 知宏
日豪プレス副編集長 守屋太郎

■政局
−ハワードは永久に続ける(犬飼)

守屋:2007年は連邦選挙の年。ジョン・ハワード首相は9月のAPEC直後に外交成果を武器に選挙実施を発表し、年末までには投票を行うことになるだろう。前回の選挙で安定多数を得た与党の勝利は確実視されているが、一方でキム・ビーズリーからケビン・ラッドに党首が代わった労働党がどこまで体制を立て直せるのか ?
坂田:与党の勝利は必ずしも確実とは言えない。自由党のハワードは、前回の総選挙では好調な経済を売り物にして圧勝したが、今年は既に政策金利が3回も引き上げられており、自分の政権下では利上げはないという選挙当時の約束は破られている。国民の多くが変動金利のローンを抱えており、次回の選挙にも影響しそうだ。国民の間に長期政権への飽きも出始めているところに、ラッドが不人気のビーズリーを追い出して労働党の党首になった。ラッドは新鮮なイメージを持たれており、世論調査でも国民の評価は高い。これからのラッドの指導力や政策にもよるが、次回の総選挙はハワードにとっては厳しいものになるのではないか。
守屋:今年はハワード首相とピーター・コステロ財務相との確執が表面化したが、ハワードの後継争いはどうなるのか。コステロ以外の候補としてどんな人がいるのか。
坂田:コステロは政権禅譲の密約問題で、ハワードがウソをついているというような言い方をし、ハワードの怒りを買い、後継者としては既に外されている。党首選挙に自ら立候補して戦うしかないが、党内の支持基盤は弱いし、国民へのイメージも良くないので、苦しい。後継候補としてはネルソン国防相とかアボット厚生相などの名前が挙がっている。しかし、ハワードが次の総選挙で勝てば、簡単に首相の座を譲るとは思えない。
守屋:労働党勝利の可能性があるのか ?
坂田:ラッドが労働党党首に就任した直後の世論調査では、労働党への支持率が急上昇した。不人気なビーズリーがやめたことへの反動という側面もある。ラッドが今の人気を維持できれば、労働党が勝つかもしれない。これからの数カ月間でラッドの手腕が問われる。
犬飼:同感。ラッドは49歳と若く、意外な人気。女性の副党首、ギラードも若い。67歳のハワードと比較して、フレッシュさが売り物。マスコミもラッドを支持している節があり、勝利の可能性がある。ハワード政権はすでに10年で、国民の間に倦怠感が漂っている。売り物の経済状態は良いが、これは自由党でも労働党でも結果は同じ。資源を売るだけの経済にすぎない。今後9カ月の間に、ラッドの提出するマニフェストやハワードの政策案、世論調査の行方などが楽しみ。
さかた・すすむ
さかた・すすむ
1955年生まれ。79年共同通信社入社。京都支局、大阪支社、外信部、モスクワ支局、カイロ支局などを経て、2004年3月より現職

ハワードは、永久に続けるだろう。今回代わらなかったのは、ずっと続けたいということ。コステロには譲らない。ラッドは若く、次回がだめでも、将来がある。
盧粥ハワードの勝利は堅い。大きい予算の組めるポケットを持つ与党は強い。コステロは資源の限界、干ばつなどを取り上げて警告したが、まだ予算は大盤振る舞いできる状態。労働党政権の労使関係政策は、現在の経済状況下では都合の悪い場合も多い。労使関係を以前の状態に戻すことは、国民全体の利益につながらない。今年の利上げが公約違反だと抗議しているのは野党のみ。ハワードは、結果として経済状態をうまく保っているオーストラリア準備銀行(RBA=中央銀行)の方針を尊重している。金利の上昇でローンの支払いが困難になる国民も一部にはいるが、ハワードが政権を失うほどの要因にはならない。マクファーレン大臣の名前を間違えるなど失敗が目立ったビーズリーに代わり、若くて切れるラッドの出現には期待できるが、国民にとって親しみやすいのはハワード。ラッドの新しい経済政策、イラン問題、労使問題などが労働党の政策と抵触するような場合、労働党内派閥争いにつながる可能性もあり、結束が困難かもしれない。次回選挙では、ラッドは負けて引き下がる可能性が強い。未知の人物が労働党党首となるだろう。ハワードの後継者として、コステロは、12年前のことにこだわり地位にあぐらをかいた結果自滅した。ダウナーは、外相として長いので、自由党のイメージ一新の役に立たないし、後継指名がなければ無理。後継者として名乗り出ることは、現状では自殺行為になるので、誰も意向表明しない。ハワードは、胸中には2、3人の名前があるはず。総選挙後の内閣改造で、コステロはクビになる。次期の財務大臣は誰か興味深い。経済状態が低迷しない限り、与党安泰。来年の選挙は、シドニーで9月に開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の直後で、そのお祭り気分をうまく利用する。政策論争はいい加減になるだろう。ラッドの労働党はAPECで出る幕がない。ただ、APECがまとまらなかった場合は、ハワードにとって厳しい状態になる。リスクはある。オーストラリアが、APECを調整できず、諸国からの批判を受けるようなことになるとおもしろい。
守屋:APECがまとまらない可能性もあるのか ?
盧粥オーストラリアは、権高な態度を取りがちで、南太平洋諸国に嫌われている。環境問題で、東南アジア諸国にかなりの負担を要求するとみられる。ハワードが調整不足に陥った場合に、ラッドが有効なマニフェストを提出していれば、逆転の可能性が出てくる。ハワードが通常11月に開かれるAPEC首脳会議を9月に前倒ししたのは、選挙を有利にするためとみられるが、逆効果を生む可能性も小さくない。
守屋:景気の悪化とか、イラク問題など、ハワード政権の死角となるものはほかに何かないのか ?
盧粥外交は問題ではない。対米重視はどちらの党も同じ路線。経済が悪くなったら、与党はアウトだろう。

■経済
−今年、来年が景気の頂点 !?(盧粥

守屋:RBAは2006年中に3回政策金利を引き上げた。豪州経済は資源ブームが牽引している形だが、個人消費なども含めて、現状をどう見るか ? そして2007年の見通しは ?
坂田:インフレ圧力が強まって利上げが相次いだが、失業率は史上最低のレベルで雇用は安定しており、来年も好景気は続くだろう。あまり働かなくてもぜいたくな暮らしができるというのも、資源ブームのおかげ。資源は半永久的になくならないだろう。
犬飼:経済は良いといっても、それは見せかけの良さ。見せかけの経済はこれからも続くので、経済の見通しはフラット。借金は依然として盛んで、金利の上昇は家計に負担になるはず。ただ、金利の上昇がどこまで消費に響くか不明。とにかく借金を気にしないで消費する国民性がこの国にはある。
いぬかい・まさる
いぬかい・まさる
1967年生まれ。90年時事通信社入社。経済部、札幌支社、産業部などを経て、2005年2月より現職

守屋:ほかの国と比べて借金が多いというデータが出ているのか ?
犬飼:借金は多い。クレジット・カードも使いすぎ。RBAによると、企業も借金が多い。借金まみれの国だ。経済が右肩上がりで金繰りが良いうちはいいとしても、うまく行かなくなるとどうするのか。
盧粥来年は大丈夫。中国が経済を2010年開催の上海万博までは必死で引っ張るので、アジア経済は安定。豪州経済のために自らできることには限界がある。日本のような内需拡大政策は人口2,000万人の豪州には無理。製造業もない。豪州経済だけを世界から隔離して語ることはできない。中国経済次第で、良くも悪くもなる。借金社会というが、16年間成長の続いた経済の中で育った年齢層は、不測の事態に全く対応できない。経済が悪化した時、この国はひどい状態になるだろうが、3年くらいはまだ大丈夫。ハワードが勝った場合、将来の悲劇に備える計画を立てるべき。ファンダメンタルは悪くないので、急に悪化することはない。今年、来年あたりが景気のピークとして顧みられることになるのではないか。
守屋:豪州経済のカギを握る中国経済の現状は ?
盧粥過熱を抑えて、急成長をとどめて安定させようとしている。

■外交
−経済面で最重要視しているのは中国(坂田)


守屋:12月の東アジア・サミットは延期になったが、東アジア共同体構想などの地域の自由貿易の枠組みで、オーストラリアはイニシアチブを発揮できるのか ?
坂田:オーストラリアにとって、東アジアは自国の安全保障のために治安を安定させる必要があるし、同時に重要な輸出先、投資先として経済的利権を確保しておきたいという狙いがある。そういう利権確保のために、東アジアへの関与を強めている。米国や日本は、東アジアで中国が主導権を握らないようにけん制し、オーストラリアにもその一翼を担わせようとしているが、オーストラリアは中国との貿易、経済関係を最重要視しており、そこには米国や日本のような中国に対する警戒感がみられない。
犬飼:オーストラリアの方針は金儲けで理念がない。金に結びつくから参加したい、儲かれば良いというやり方。
守屋:高度な外交的理念がないということ ?
犬飼:全くない。金を儲けるためにアジアにすり寄る感じ。東南アジア友好協力条約(TAC)も、東アジア・サミットに入れてもらうためだけに、急きょ方針を変更して調印した。儲けることが発想のベースにある。
守屋:APECは、実際上の経済問題云々よりも、首脳会談を催すということ自体に重点が移ってきているのでは ?
盧粥APEC、FTAなどは、日本の観点からみると対中国牽制の意味合いがある。FTAにASEAN+日中韓を希望した中国案に対して、日本はさらに3カ国を追加するなど、中国の影響力を削ごうとしている。オーストラリアの対アジア外交のスタンスは、米国の代理人という立場。日豪枢軸による中国牽制を求める米国の要求にどう応えるかが重要。FTAは、双方の武器となるので、重要である。対中FTAは、2年内成立を望む中国と時間をかけても内容を充実させたいオーストラリアとの温度差が明白。日本は、対人的にはアジア人の方が居心地がいいが、あらたまった場面ではオーストラリア人の方が話しやすい。日豪関係は米国の方針を受けて協力する立場にある。
たかさ・ともひろ
たかさ・ともひろ
1966年生まれ。92年日本経済新聞社入社。整理部、産業部、大阪経済部、国際部を経て2006年3月より現職

守屋:日本も米国のいいなり ?
犬飼:それは違う。オーストラリアは、米国しかみていないからアジアに嫌われるが、日本は今までの援助外交などでアジアとの関係を保っている。
盧粥日本は、戦争には負けたが、アジア諸国にしてみれば、ヨーロッパをアジアから追い出したという側面がある。心情的にはイギリスの出先かつアメリカの手先とみられるオーストラリアよりもアジアに受け入れられやすい。日本は、米国との関係を無視できない立場にある。オーストラリアは、アジアから反発を受けやすいことは否めない。
犬飼:アジア出身の政治家はとても少ない。
守屋:メルボルン市長くらい ? 次はイラク情勢について。アメリカでも撤退すべきだとの声が出ているが、オーストラリアでは派兵した政府の責任を追及する声がほとんど聞かれないのは、国民に興味がないからなのか ?
坂田:イラク問題は世界ではまだ最大の関心事。オーストラリアはイラクに派兵しているのだから、国民に興味がないということはない。イラクから撤退すべきだという声は多い。派兵から4年近くになるが、外国の部隊がいる限り、テロは続くというのが今のイラクの現状。米国の中間選挙で共和党が敗北したことで、ブッシュ大統領も態度を変化させつつあるが、ハワードは、必要とされる限り駐留を続けると言い続けており、次の総選挙でもこの姿勢を貫くだろう。ただ、イラク問題は既に前回の総選挙の洗礼を受けているので、大きな争点にはなりにくい。
犬飼:オーストラリアは、イラクでは基本的に戦死者が出ていないので、戦争アレルギーが少ない。イラク問題は、国民の間では関心が薄く、争点として弱い。一般の人は、どうでもいい、という感じ。
盧粥国防軍といいながら海外派兵を厭わない。日本と違って派兵自体は問題にならない。本当の犠牲者が出るとなると、国民の反発が強まって政府の大きなダメージにつながる。ハワード首相にしてみれば、米兵撤退に合わせて、連絡兵でも何でも最後の1人を残しておきたいというのが本音だろう。犠牲者が出ていないのは、米国との交渉によって、より安全な地域への部隊の展開を可能にしているからだ。米国はオーストラリアを最後のつてにしている。撤退を望む世論は約半数に近いにもかかわらず、それをしないハワードにとって、犠牲者が出ることは致命的だ。
守屋:ただ、イラクに駐留する以上、テロによるオーストラリア人の死者が出る危険はまだある。
盧粥日本も犠牲者がでなかったように、イラク国内でのリスク・マネジメントは可能な状態。イラクといえども安全な地域があり、そこに豪州軍部隊をすることで危険を避けながら、軍隊の存在だけを主張することができる。ブッシュ大統領は、他国からの支援を得るために、危険地域へは米兵を配置せざるを得ない。

■マルチカルチャリズム
−表面的なスローガンにすぎない(犬飼)

守屋:昨年の座談会では、シドニー南部クロナラ・ビーチでの人種暴動を機に、マルチカルチャリズムの危機という問題が議論になったが、ハワード首相は、移住者が市民権を取得する際に、英語とオーストラリア的価値観に関するテストを導入する方針を打ち出した。中東系を閉め出す戦略と見られかねないが、マルチカルチャリズムはどうなるのか ? 白豪主義の亡霊が現れたのか ?
坂田:英語テストは、ハワードは差別的なテストではないと言っているが、英語のできない人は来てほしくないということ。英語圏以外の人々にとっては、オーストラリアに移住することが難しくなる。
守屋:オーストラリア的価値観というのも、結局アングロ・サクソンの価値観だし。
坂田:もともとはオーストラリアはアボリジニの土地だったが、アングロ・サクソンが支配し、白豪主義で牛耳ってきた過去がある。暗い過去に後戻りするような差別を感じさせる政策だといえる。ハワード首相には、テロを正当視するイスラム過激派を排除する狙いがあるにしても、排除される人々はそれだけに限られないことになる。
守屋:中東出身者だけではなく、アジア人の排除にもつながりかねない。国外では経済的な利点からアジアの一員を目指しながら、国内ではマルチカルチャリズムの排除につながることをしているのは矛盾では ?
もりや・たろう
もりや・たろう
1967年生まれ。旅行会社勤務を経て93年来豪、日豪プレス入社。2001年より現職

坂田:どちらも自分たちの利益だけしか考えていない自己本位の姿勢の表れという気がする。英語は、多くの民族の共通の理解のための言語として便宜的に使われてきたと思う。英語のできない人のために、役所などで通訳や翻訳のサービスが行われているのは、何だったのか。
犬飼:英語テストは完全に中東系の排除が目的。マルチカルチャリズムは、元々存在しない。白豪主義が残っており、表面上マルチカルチャリズムと言っているだけにすぎない。アジアなどからの移民を自分たちのために底辺労働に従事させるなど、都合のよいマルチカルチャリズムだ。
守屋:あくまでもアングロ・サクソンの国で、アジアとはビジネスだけの付き合いということ ?
犬飼:日本との関係も同じことで、経済関係が悪化するとすぐに関係を切ってくる。マルチカルチャリズムは見かけだけの嘘言。
守屋:しかし、見せかけだけでここまで大きく宣伝している国はほかにあるのか ?
盧粥マルチカルチャリズムというのは、全ての文化を平等に尊重するというのではなく、この国の文化と言語を十分理解していれば家庭では何語を話しても何の文化でもよいということ。オーストラリアの法律は全て英語で書かれており、国の仕組みは、主体的に参加していくためには英語ができなければならないようになっている。スペイン語を認める(中南米出身者が多い)米国や、フランス語を認める(フランス語圏であるケベック州がある)カナダの状況とは異なる。過去の移民は白人のヨーロッパ系、勤勉なアジア系などだったため、英語力の重要性についてとやかく言う必要がなかったが、オイル・マネーを背景に一般的には勤勉ではないとされる中東系移民に対して、豪州社会の支配層が戸惑い、焦りを感じた結果といえる。ちなみに、ワーキング・ホリデー(ワーホリ)制度は、低賃金労働力の供給源として機能しているのではないか。比較的低賃金の単純労働はワーホリに任せて、それ以上はレベルの高い移民を受け入れたいという意向が見える。白豪主義を感じるのは我々がアジア人だからだろう。アボリジニには、ほかの地域の先住民族と比べ高度な社会機能を持たなかった事実、過去への贖罪のない国という歴史を持つので、今までの呑気な生活を脅かす移民に対して締め付け政策をとってしまうのかもしれない。東テイモール独立支援の失敗も尾を引いている。
守屋:皆さんが言う通り形骸化しているのかもしれないが、それでもマルチカルチャリズムは素晴らしい理念ではないか ? 特に私が住んでいるシドニー南部の地区は、アングロ・サクソン系の住民が少ないし、シティ南部の職場周辺も通行人のざっと7、8割がアジア系。オーストラリアが白人の国だという実感がまるでない。アジア人としてシドニーに住んでいて、普段の生活で不便さや差別は感じない。
犬飼:一方で政治・経済の中枢は、白人が握っている。
守屋:ハワードも1988年にアジア系移民を制限するべきだとの発言(後に撤回)をしており、東アジア・サミットなどで愛嬌を振りまいているが、本当はどうなのだろう。
盧粥本音は大西洋に引っ越したいのだと思う。でも仕方がないので、仲良くするしかないという状態。かわいそうな感じもする。

■日豪交流年
−新幹線やビルは豪州産の鉄でできている(盧粥

守屋:サッカーの日豪戦や特殊潜航艇の発見など、公式行事以外にもいろいろなことがあった日豪交流年の1年を振り返って感想を ?
坂田:両国の交流について国を挙げてやったことにはそれなりに意義があった。しかし、交流年が終わった後は何もしないというのでは、真の交流にはつながらない。
犬飼:日本での関心度は低く、ほとんどのオーストラリア人は知らない。内輪で盛り上がった感がある。
坂田:日本から来た踊りや和太鼓の人たちは使命感に燃え、気合いが入っていたと思う。
盧粥日本には毎年、なんとか交流年というのがある。その1つにすぎない。パフォーマンスは良いが、日本文化という時に日常生活とかけ離れたものを持ち込むことは、何とかならないか。日本の古典芸能を持ち込むことにより、かえって日本について混乱を招くのではないか。日本のイメージが実際と全く違ってしまう可能性がある。FTAの交渉では、日本はコメや牛肉、果物などの輸入はさせない方針。このような非関税障壁などを取り除く努力をするような交流年であるべきではなかったのか。例えば、石油のほとんどを中東に依存しているように、新幹線のレールや高層ビルの鉄骨はオーストラリアの鉄鉱石が原料であることを日本人に知らせることに、交流年の予算を使うべきだった。アボジリニや太鼓などしか使わないやり方には憤りさえ感じた。
犬飼:在豪の日本人のためにやっているようだ。
守屋:スポーツ交流は首相選抜のラグビーの日豪戦があった。柔道の交流もあった。

■自由貿易
−資源供給先として豪州は不可欠(坂田)


守屋:オーストラリアが提唱し、日本との協力で生まれたのがAPEC。東アジア経済圏構築のために、民主国家という価値観を共有する日豪両国は、東アジアの経済統合にイニシアチブを発揮できるのか ? 日本での一般的なオーストラリアのイメージは、いまだに「コアラとカンガルーの国」。でも、日本経済の発展にオーストラリアの資源は欠かせない。先ほど盧瓦気鵑指摘したように、日本人にもっと日豪関係の重要性を説いて回るべきだ。オーストラリアが経済面しか見ておらず、日本は何も見ていなかったとしても。
坂田:日本にとって、オーストラリアは資源供給先としては、なくてはならない国であることは間違いない。オーストラリアも日豪関係を重要視している。東アジアの中で、オーストラリアの立場を支持してくれるのは日本しかない。しかし、民主主義の価値観を共有すると言っても、文化的な価値観は違っている。
犬飼:だいたい捕鯨を認めていないし(笑)。
坂田:日本人の中には、捕鯨は必要ないと思っている人もいる。
犬飼:しかし、オーストラリアからとやかく言われる筋合いはない。彼らも昔はやっていた。
坂田:昔は、日本の近海にまで来て、大量に捕獲していた。
盧粥自分たちは反省してやめたのに、日本はまだやめていないといっている。
守屋:価値観の押し付けだ。オーストラリア人と捕鯨について議論すると、完全に平行線をたどってしまう。
坂田:結論としては、現状で良いのではないかということになる。資源の安定確保という観点から、日本にとって日豪関係は重要だし、交流年は文化的側面から交流を深めたという点で意義があった。東アジアの国から嫌われているオーストラリアが経済統合のイニシアチブを取ることは難しい。外交政策でアメリカと同じような姿勢をとっていれば、東アジア諸国の理解はない。
守屋:過去に、キーテイングやホークの労働党政権は、親アジア政策を推進していたが、仮にラッドが選挙に勝つとその路線に戻るのか ?
坂田:そうしなければ、労働党政権の意義がない。だが、そのキーティングもマレーシアのマハティール前首相に嫌われていた。文化的価値観の違いもあり、アジアの国と友好的関係を築くというのは簡単なことではない。
犬飼:日豪が価値観を共有しているというのは幻想ではないか。日本は、政治面ではオーストラリアを必要としていない。オーストラリアは、日本を通してアジアに入りたいという意味で日本を利用している。戦略的に日豪関係が強化される必要性は安保などの面では見られるが、そのほかにはあまりないように思う。
守屋:日豪関係に関してネガテイブな意見が多いようだが ?
盧粥FTAは経済よりも政治的意味合いが大きい。共産党政権の中国と日本は、現状では胸襟を開く仲にはなれない。アジアでの発言権を確保するためには米国をひきつける必要がある。米豪関係は日豪関係と比較して、かなり深いところにあり、高度のインテリジェンスを共有しているはず。対中関係や対米関係強化のためにも日豪関係の強化は日本にとって重要である。ブッシュ後の米政権は、米中関係が良くなれば、日本を軽視するようになるかもしれない。リスクヘッジとしても必要。労働党時代の経済はひどかった上、イギリスが欧州重視に転換したこともあり、アジアに接近したが、現状はフェーズが異なる。いずれにせよ、来年は、15、16年先を占うおもしろい年になりそうだ。日豪関係は保った方がよいという結論になるはず。実直にしないと足元をすくわれる。
犬飼:オーストラリアはとにかく理念がない国。経済至上主義で動いている。
守屋:それでは、逆に日本が持っている理念とはどんなもの ? 例えば、戦争をしないこととか。
犬飼:例えば農業でコメ(の保護)は譲れないとか、文化的・歴史的に固執するものがオーストラリアにはない。アメリカなら自動車産業がある。
守屋:これだけはオーストラリアが誇れるという技術は見当たらないが、あえていえばスポーツの強さ ? 人口1人当たりの五輪メダル数ではダントツのトップだろう。
盧粥スポーツ部の記者が言っていたが、水泳選手が一般紙の一面トップに出るのはオーストラリアだけ。例えば日本の北島は出ない。ソープのように太ったからというだけで、一面トップにはでることはありえない。
盧粥日本やアジア諸国、欧州と比べると、どうしても文化でもなんでも深みに欠ける印象をぬぐえない。
守屋:歴史が浅いせいでもあるのでは ?
盧粥今の景気はいいが、逆回転を始めた時に人種問題などにたどり着いてしまうのではないか。2005〜06年あたりが一番良かったと振り返る時が来るように思う。日本のバブルとは違うが、景気は循環するものなので、16年良ければ16年悪くなる。来年は、何か兆しが見えるかもしれないが、APECと選挙で盛り上がって終わることになるだろう。

■2007年の世相キーワード

守屋:最後に、2007年を占っていただき、オーストラリアの世相を表すキーワードを発表してください。
盧粥「夢想」。メルボルンで開く世界選手権で、イアン・ソープがメダルを取ってくれると思っていたら引退してしまったように、経済は良い状態でバラ色だが、さてこれから、どうなるのだろうというのが来年。APECなどで、忙しくなる。
守屋:「着地点」。豪州の国際的なスタンスを探る1年になる。9月のシドニーAPEC、年末の連邦選挙と大きな政治イベントが控えている。大きな選挙争点にはならないにしても、米国の代理人であり続けるのか、アジアの1国として独自性を出していくのか、アジアの中での立ち位置をめぐる議論を、与野党は国家の方向性を具体的な政策として提示すべきだ。
犬飼:「転換」。選挙、原発など色々あるが、経済はフラットながらも徐々に低下していく兆候。ラッドがどこまでやれるか ? 自由党が敗戦する可能性も。
坂田:「迷走」。今のオーストラリアは経済も好調で、政治的にも安定しているが、そこにはあふれる自信の一方で、おごりが見られる。しかし、いつかは落とし穴があって、いいことはいつまでも続かない。そういうことを誰も考えていないし、オーストラリアの将来には行き先が見えない。

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